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虚無。

「僕は東京の大学生!今日は渋谷で、、、」

 朝起きてまずすることは大国に締め出されそうになっているSNSで手のひらに世界を手繰り寄せることだ。もう登り切った日の光を浴びながら香りのいいコーヒーを淹れて、実家にあった骨董品のレコードなんかをかけてみる。

 かくいう僕も東京の大学生。3回生で絶賛就活中である。と言いたいところだがいまいち進んでいない。というのも、自分が何になりたいのか、自分とは何でできているのかなんてものは考えてこなかったからだ。それなりに勉強してそれなりの進路を勝ち取りそれなりの大学生活を送ってきた。目指していたのは心の平穏ただ1つだった。

 話は2か月前に遡る。前期最後の試験をこなし悠々と大学を後にし友達と宴を開催した。その後爽やかに夏休みに突入。そして就活が始まりなんとなくアルバイト先への足が遠のいたことが始まりだった。

 頭が悪すぎることもなく人と同じような行動をなんとなくしてここまできた私は自分を鑑みた時に遊んでいたおもちゃを突然見失った犬のように動きが止まってしまった。

 そこからは全てが早かった。難しいことから目を背けて代わりにサブスクリプションで海外ドラマに目を向けた。不幸な主人公と愛着の湧くわき役たちのやりとりをみて満足していた。昼に起き、SNSを眺め、ドラマを観る。ただこれだけを繰り返して気が付いたら冒頭である。

 自分を見直すことは過去を見ることだ。就活生は未来のために過去を見る。そして今どうするか探り、今を生きていくわけだ。

 だが私はどうだ。どこに生きている。未来を見ようと過去を見て、過去も未来も見ずに今を生きることすらしていない。私はどこにいるのだ。月々1600円程度の安い逃避行に出発したっきり帰ってこれずにいる。

 大きな転換点だと言うのは理解しているつもりだ。この先正解などない。正解と言われた流れになんとなく乗って人生をやり過ごしていた私は初めから今を生きてすらいなかったのかもしれない。

 ここまで考えて私は寝起きのトイレのように習慣になったSNSに意識を流した。

 部屋の隅では針が上がり音のしないレコードがただただ回っている。

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