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シケモク亭 灰皿。
2021年10月14日 02:00
何度目だろうか。いやに湿度の高いこの季節は日差しがないだけで夜も暑いことに変わりはない。するとどうなるのか、冷たいものを口にして涼もうとする者もいれば、心の底から涼もうとする者もいる。 心霊スポットに来るのは往々にして若者である。若気のノリというのはすさまじいもので何よりも儚いものだ。蛙や虫を幼いころに触れたが、今は触れないのと同じ儚さがある。ノリさえあれば恐怖すら楽しめる。 そこで考え
2021年10月12日 02:45
フロントガラスから見える遠くの空は夕日で真っ赤に染まっている。音楽もない、新車のシートの匂いが残る車内で私はアクセルを踏み込む。助手席のお前は言う。「死ぬ前にやりたいことはなんだ?」私はすぐに答えることができない。お前は言う、「アクセルを踏め。もっとだ。」私は強く踏み込む。スピードメーターの針が投石機のように回る。お前は言う。「死ぬ前にやりたいことはなんだ?」私はすぐに答えることが
2021年10月11日 02:35
中学生の頃だった。田舎の中学校は自転車通学が一般的で、安全面からヘルメットの着用が厳しく取り締まられていた。もう1つ田舎の中学校は縦社会であるため最高学年にもなるとこぞって調子に乗り出すこともあり、多くの生徒はヘルメットをかぶらなかった。 だが私は頑なにかぶり続けた。黄色い風となって街を花粉が覆った日も、燦燦と太陽が輝いていた日も、薄っすらと金木犀が香っていた日も、カナダくらい雪が降った日も、
2021年10月7日 01:21
俺の家は複数の路線が通っている駅から4キロほど先に位置している。 必要な路線に乗るために自転車を駆り出し、道程を辿っていた春の良き日にそれに出会った。家を出て団地の角にある交番を左折したのちひたすらまっすぐ進むと駅が見えてくる。その十字路で信号待ちをしていた時だ。一車線のその道の右側の歩道にママチャリに乗ったおばさんがいた。俺と同じように信号待ちをしていた彼女の自転車は使い込まれた鈍い輝きを