題名「女優図鑑」(表現文章)
三〇年生きてきて、私は海月を見たことがない。勿論、図鑑やテレビでは何度もある。でも、実際に、浮いて泳いでいる海月は、一度も。
小屋から見えるダークブルーの海は、静かに夜に染まっている。また明日には、凛としたパールを散りばめたような碧を煌めかせて残暑の太陽を浴びているだろうな。
私が生まれたのは、夏。
向日葵が咲き乱れた、あの日の夏。だけど、どうだろう。
私は、季節はずれの向日葵みたいに、少し顔は戸惑っている。冬に咲く向日葵があっても、いいじゃないの。そんな感覚で、自分を生きてる。
例えば、みんなあるでしょう。
理想の自分が遠いとき。
もう自分を好きになれない、嫌いになる要素しか、なかなか見当たらないとき。そんなとき、私ピアノを弾くの。
白と黒の鍵盤は、どんな私も受け入れてくれるから。
バレリーナになったつもりで、歌をくちずさむ。ふんふん、と奏でてるときは、多分世界で一番自由なときだ。
冬にしか咲かない向日葵になったみたく、振りきって『そんな自分でいい』って、踊ってみる。