オテサーネク
先日ヤン・シュヴァンクマイエルの「オテサーネク」を観た。
チェコ民話をベースに制作されたダークファンタジー映画である。
むかしむかしあるところに子供のいない夫婦がおり、ある日夫は庭で赤ん坊そっくりの形をした切り株を掘り起こす。
妻はたいそう喜び、その切り株にベビー服を着せ、それはそれは可愛らしいボンネット(頭にかぶせるヒラヒラしたやつ)まで付けさせる。
名前もオーチカと名付けた。
その強い愛のせいか、やがて切り株に命が宿り生きている人間と同じように動き、声を発し、ミルクを飲んだりするようになる(姿は相変わらず切り株のまま)。
しかしこのオーチカ、あることが尋常ではなかった。
その異常な食欲。
一回の食事で哺乳瓶のミルクを軽く20〜30本飲み干し、瓶詰めの離乳食を数十個はたいらげる。
体も日増しにどんどん大きくなる。
オーチカは満腹になるということがない。
常に食べ物をせがむ。
やがてパンや肉なども食べるようになり、毎日の食事の世話だけで夫婦は疲労困憊になっていく。
ある日とうとう飼い猫まで食べてしまい…
こんな感じで物語は進む。
観ながら私は妻あるいは母親(?)と、オーチカ両方に思いを馳せ苦しくなっていた。
何をどれほど食べても満たされず、ますますひもじさが募るオーチカに自分を投影し可哀想でたまらなくなってしまった。
子供の要求にできる限り応えてやりたい母親、それでも応えきることができない辛さ。
足りるということを知らぬまま自らの衝動に抗えず、ひたすらに暴走を続けたオーチカの最期はやはり悲しいものであった。
今でもオーチカのことを考えると涙が出そうになる。
映画を観た数日後、私はとても大きな大根を手に入れた。
可愛がっていたらそのうち命が宿るだろうか?
2024/01/21
追記 オーチカではなくオチークでした。