COOL CREATOR COLLECTION 02|独自のビジネス視点が導くアートな人生の未来図[後編]
エンタメ界が注目していきたいクリエイターを紹介する不定期連載「Cool Creator Collection」。
第二回はPainter & Graphic designer の吉田佳寿美。グラフィックアートの世界をベースに、イラストやデザインなど多様なジャンルで才能を発揮している彼女。後編は、彼女が見据えるアート&ビジネスの未来を聞く。
──アートとビジネスのバランスについて思うことを教えてください。
私が言うのもおこがましいのですが、パブロ・ピカソやアンディ・ウォーホルといった海外のアーティストって、才能がすごい一方でビジネスに対する考えもしっかりしているんですよね。アーティストは自営業なのに、経営のスキルを兼ね備えている人が私の周りを見渡してもほとんどいなくて、昔からそれが素朴な疑問でした。アーティストが経営的なイニシアチブを握っていないと、結局、他の人に乗っ取られたり、共倒れになったりするケースもあるわけで、それが日本のアートが今ひとつ活性化していない理由なのかなとも思っていて。私は作品の金額設定にしても、生活費や授業料を賄える最低限のラインはクライアントにも堂々と伝えて交渉してきました。
絵描きの友だちとつるんでしまうと仕事を取り合うことになるので、上京したときに私はあえて異業種の友だちと交流することを心がけたんです。経営者や他ジャンルの自営業、VC(ベンチャーキャピタル)、人をつなぐハブになる人などと接することが多かった。そういった人たちは法人格を持っていたので、自ずと私もビジネス視点が持てたんだと思います。
──アーティストが活躍するために、エンタメ界には何が必要でしょうか?
今の日本にはアーティストにとっての「場所」が圧倒的に少ない気がします。アーティストというプレイヤーが活躍するためのフィールドやコミュニティという名の場所ですね。国内だとおそらく数百個ぐらいしかまだなくて、この数が何十、何百倍に増えていくと日本のアートが活性化するはずなんですね。私も今年の7月にライブペインティング競技の「ART BATTLE TOKYO」でチャンピオンになりましたけど、アーティストが自分の思いや考えを発表する場が今以上にもっとあっていい。これらは十分にテレビや動画のコンテンツになる素材だと思います。
日本のエンタメでは「マンガ」が一番すごいと思っています。マンガってまるで総合格闘技のようで、ストーリー・絵・キャラクター構成など、さまざまな要素をまとめて表現できるものじゃないですか。素晴らしい絵もマンガの前では一つの構成要素でしかない。だから私自身は絵画で一流のアーティストになるというよりは、物事をより良くするという意味でのアーティストを目指していきたいと今は考えていて…究極的には絵を描かなくてもいいとすら思っています。
だから、アートのコミュニティは、もっと流動的になってほしい。「自分にはこのジャンルしかない」と思っちゃうと、身動きが取れなくなってしまうじゃないですか。お金を稼ぐことは大前提として重要ですが、私は考えの異なる人たちみんなの中間地点になりたい。国としてのアートに対する取り組みが進んでいるのは、やはりアメリカ、それもニューヨークなので、まとまった期間行くことを計画しています。やっぱり日本だとアート関連の実例が海外と100倍くらい違うし、また、女性の特に貧困層上がりの成功例も日本は少なすぎるから、30歳になる前に調べまくりたいし、描きまくって国内外問わず、仕事につなげていきたいですね。アートそのものだけではなく、ビジネスについても勉強できることは必ずあると思うし、それを持って帰って真似したり、組み立て直したりすることを考えています。
──この時代、アーティストはどうエンタメ界と関わっていくのでしょうか。
私もアーティストなので、主張を言語化すると絵で表すよりも思考回路が遅くなるのは理解できますが、やっぱり自分の言葉を持っていないといけない。その点、一流のアーティストは主張や理念が固まってますよね。また、フリーランスが増えている時代、偶然の縁、偶然の発注など"偶然"に頼るのではなく、アーティスト側も経営とメディアの知識をしっかりと持ってエンタメ界とタッグを組んでいくのが大事だと思います。
私個人としては、「女性であること」と「アーティストとして地位を確立すること」を両立させたいと思っています。また、男女関係なく一人の人間として困難にどう立ち向かって生きていくのか、生活や教育をより良くしていくにはどうしたらいいのか、というのは常に頭の中にはありますね。そのために歴史や美術史といった知識のインプットを、日々の仕事や活動を最大限にするためにも続けていきたいですね。
■PROFILE■
Painter & Graphic designer
吉田 佳寿美(よしだ かすみ)
1993年、福岡県生まれ。高校2年生時からイラストレーションや商業デザインをメインに、ソーシャルやイベント系の企業や個人クライアントから制作を受注。2012年、九州産業大学芸術学部デザイン学科特待枠で入学。2015年度から武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科3年次に編入、中退して2016年にグラフィックデザイン制作会社EMOGRA.incを設立。ライブペインティング競技「ARTBATTLE TOKYO」チャンピオン(2019 July 6)。
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<発行日:2019/11/\お問い合わせはこちら/04>
*本記事は、FIREBUGが発行するメールメディア「JEN」で配信された記事を転載したものです。
Writer:中村裕一
Photographer:橋口慶