いろいろな色と、言葉と、風景と
日々実感していることのひとつに、「人によって色の見え方は微妙に違う」というものがある。
デザインの仕事や宝石を取り扱っている中でも、なにげない日常生活でも、大事件にならない程度の行き違いが生じることがある。
色盲や色弱など視覚の専門的な話ではない。
特に生活に問題もなく虹が7色に見えている人でも、その7色はその人にしか見えていない…という話だ。
買い物中、私があるピンクの下着を手に取ったときのこと。パートナーが
「ええー、紫を選ぶなんて趣味が悪すぎる!そんなの欲求不満の色だろう」
などと言うのだ。
私の目にはどう見てもピンク色、商品のタグもPinkとなっているし、詳しく言うならば桜色のような薄めでクール系のピンクだった。
文字で書くと同じ色でも、冷たさを感じる色味と温かみを感じる色味がある。ブルー系・イエロー系と表現されることもあり、化粧品や衣類を選ぶときに意識している女性も多いだろう。
他の商品の色にも感想を述べ合ううちに納得がいったのだが、私よりもパートナーのほうが青みがほんの少し、本当にごくわずかに強く見えているようだった。
店内の明かりも蛍光灯のような冷たい色のLEDで、なおさらクール系青みピンクがラベンダー色のように見えていたのかもしれない。
そのせいか、パートナーが私に選んだ品物は、優しげなサーモンピンクだったり珊瑚のような穏やかなピンクばかりだった。
それに加えて、パートナーは普段から細かな色名が必要ない生活をしていた。朱色も緋色も臙脂色も、まとめて「赤」で通るのだ。
(今となってはちょっとした笑い話にできるけれど、下着の色だとか欲求不満の色だとか、分析をする以前に大喧嘩を引き起こしかねないキーワードと思われるので、要注意!!!)
だから、今日もどこかで
「ちょっとそこの青いファイル取って」
「はい(水色)」
「違うじゃない、青って言ったのに…」
(青緑色のファイルを取りながら)
「えっっ」
…なんてことが起きているのだろう。
いつものように宝石の話に喩えてみよう!
ピンクダイアモンドの鑑定書を取ると、カラーの欄がとても詳細な書き方となっている。
色味として純粋なピンクの他、パープリッシュピンク、オレンジッシュピンク、ブラウニッシュピンクなど。
それに明暗を表すベリーライトやライト、ファンシー、ダーク…。
さらに、濃淡や彩度を表すインテンスやディープ、鮮やかならヴィヴィッドなどの文言もついてくる。
これらを組み合わせると、とてつもなく長い色名となる。
例 : ファンシー ヴィヴィッド パープリッシュ ピンク
(上質で鮮やかな紫がかったピンク)
お客さんも「?」となることがある。
ピンクがほしくて選んだのに、これって普通のピンクじゃないの?と。
鑑定書とは誰が見てもぶれることなく客観的に評価するものなので、このような表現になるのだ。
先に書いた虹の色だって、赤から紫までグラデーションに繋がった色を7つに分けて考えない国もある。
たしかアメリカでは青と藍が分けられないので6色、フランスやドイツ、中国では5色、台湾やモンゴルでは3色、一部のアフリカや南アジアなどで2色の場合もあるとか…。
色を表す言葉が多い国ほど、虹の色数を多く表現する傾向があるらしい。
言葉ありきで色が生まれるということだろうか。
いろいろと思考してみたが、人は言葉と感情のフィルターを重ねて何かを見ているのだから、今こうして眺めている風景の色も、実はまったく別の色をしているのかもしれない。
色とは心で見ているものだ。
◆色に関するお気に入りの本◆
『色の名前』角川書店 2000年発行
近江源太郎監修・ネイチャープロ編
1996年発行の光琳社出版『色々な色』が改題されたもの。
今はビジュアルの美しさに特化した書籍や映像は珍しくなくなったが、当時は「本そのものが美しい!」と感銘を受けた。
『色々な色』はすでに手元になく『色の名前』を買い直したことで、モノクロの記憶に色がついたように、なんだかいろいろ心に甦ってきた。
色と、いろいろな思い出と。
画像引用元(ピンクダイアモンド)
https://www.leibish.com
※この記事は過去にShortNoteにて公開したものに加筆修正したものです。
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