冷たい天使 〜On Your Mark〜
私の素材箱では、小さな天使がひっそりと眠っている。
ブルートパーズって大きな結晶が採れるし わりとありふれた素材で、だからこそ、こんな細工のあるものに惹かれる。
浮き彫りのカメオとは逆に、石の裏側から絵柄が彫り込まれた「インタリオ」だ。
カラーインクのような鮮やかなスカイブルーは、実は無色透明の天然トパーズに照射(X線などを当てる処理)と加熱が施されて生まれたものだ。
石そのものは天然なのに、「もともとの色じゃなかったんだ…しかもX線って放射線?人体に有害な放射能を当てるの?」と、不自然さを感じる人も多いだろう。
このような話は宝石商なら誰もが知っていて、ネットでも多くの専門家により解説されている。
(ごく稀に、地中の天然の放射線により淡いブルーになったトパーズも存在する。)
でも、トパーズに限らず人の手によって宝石の色が改変されるのはよくあることなので、「自然が生んだ神秘と人の技術が合わさったもの」と理解すればいいかなと思う。
さて、この天使のブルートパーズから連想せずにはいられないジブリ作品がある。
それは…
『On Your Mark』
https://www.dailymotion.com/video/x33j0w3
1995年公開。CHAGE and ASKAのPVとして制作された、わずか6分40秒の映像作品。
1995年といえば『もののけ姫』より2年前、今から26年前の阪神淡路大震災の年、そして地下鉄サリン事件のあった年…。
私はこのPVの存在をリアルタイムではまったく知らず、3.11の後にネット上で初めて目にした。
放射能により汚染された近未来の世界や、怪しげなカルト教団のビルを武装した警官隊が制圧する描写が、あまりにも現実と重なるということで、マニアックに紹介されていたのだった。
もちろん3.11よりずっと前の作品だし(チェルノブイリなどの原発事故はもっと過去にある)、オウム真理教の一連の逮捕劇よりも前に制作されているのだから、それらを参考に作られたわけではない。
でも見れば見るほど、現実世界の延長線上にあるような、滅びに向かっていく世界が描かれていたのだ。
そして、この映像以前のストーリーは?その後の世界は?と、想像がふくらむ。
主人公はジブリらしくキャラクター化されたチャゲとアスカで、翼を生やした少女を助け出そうと奮闘し失敗し、救出劇が繰り返される。
二人と少女が乗った車は、自由と開放を求め、汚染され人の住めなくなった危険な大地を進む。
最後には少女は飛び立ち雲の上へ。
希望を感じるかもしれない。雲の上の空は青く美しい。しかし世界は汚染され多くの土地が打ち捨てられたまま、物語は終わる。
少女はおそらく汚染された世界で生きる存在(ちょっと原作版ナウシカの世界観のような…)なので、翼を持っているけれど天使ではないし、世界は救われない。
直接的に世界を汚して生きているつもりはないのに、私は採掘された資源を使うし火や電力や薬品も使う。
SDGsがあちこちで謳われる以前から、すでにある素材を使うリメイクやリモデル(デザインの作り替え)を手掛けてきたが、それでも同じこと。
ものを作り続けることは、世界を壊し続けてしまう。
そんな矛盾だらけの世界で、矛盾を抱えて生きる私の手の中で、天使のブルートパーズはどこまでも透き通ってきらきら輝いて、11月の青空の色にも似て美しい。
画像引用元
https://www.ghibli.jp/works/onyourmark/
この記事は過去にShortNoteにて公開したものに加筆修正したものです。