絆の時計

君の時計を落としてしまった
慌てて拾って謝る僕に
君は顔をくしゃくしゃにしながら
責めるでもなく笑った

大事なものだった とても大事だった
それを壊してしまうなんて
破片を拾い集めて君に渡した

君は もういいの と
くしゃくしゃな笑みで

だから僕は 二度と戻らないものだと悟った

傷付きたくないから目を背けていた
自分勝手に言葉をばら撒いてさ
感情の押し売りはいつも疎まれるもの
知っていたのにどうして
時計には亀裂が入っていたのに
気付いていたのにどうして

はやく埋めなくちゃ
時間を満たさなくちゃ
はやく直さなくちゃ
この距離を埋めなくちゃ

空回りする僕を見て大人は言った
同じものは2つとないんだよ
どうでもいいものなんてないんだよ
謝っても許されはしない
君はいけないことをしたんだから


君の時計を落としてしまった
慌てて拾って謝る僕に
君は顔をくしゃくしゃにしながら
責めるでもなく笑った

『怒っても、憎んでも、仕方ない。
それは悲しみが増えるだけ。
でもね、私は嬉しかったんだよ。
君が無事で居てくれたから。』

温かな心に触れた
温かなものが溢れた

傷付きたくないから目を背けていた
自分勝手に言葉をばら撒いてさ
感情の押し売りはいつも疎まれるもの
知っていたのにどうして
時計には亀裂が入っていたのに
気付いていたのにどうして

はやく埋めなくちゃ
時間を満たさなくちゃ
はやく直さなくちゃ
この距離を埋めなくちゃ

罪の意識に囚われて 君が見えなくなっていた
失くす不安に侵されて 君が見えなくなっていた
君は離れていった訳じゃない 僕が離れただけ
壊したくなかったから 壁を造ってしまったんだ

君に会いたい
声を聴きたい
許されたい
君に会いたい
もう会いたい
許されたい
今すぐ、ねえ、君に会いたいや、ねえ


君に渡した、時計とパーツ
こっそり組み立ててみたけど
継ぎ接ぎだからあまりにも不格好で
思わず笑ってしまった
君もくしゃくしゃな顔で笑った

(2020/08/03)