光と麒麟(30首)
落選作(第三十一回歌壇賞応募)です。
当時かなり頑張って作った作品で、一首ずつ非常に思い入れがあります。是非楽しんでご覧ください。
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光と麒麟 丸田洋渡
項垂れて話す麒麟の声がする 不可知とはそう遠くない光
硝子屋の夜に重なり合っている未だ窓ではない二十枚
六月の土を叩けば水が出る花に関する記憶の在処
死んでから白鳥は海をすべて知るすみずみまで響く海潮音
水中に午後の光がなだれこみ自ずと絡みあう夏と夏
鳥が飛ぶときの力で木が揺れる言葉は言葉に溺れてしまう
いくつもの人の姿が重なって庭にようやく咲く百日紅
青空は溺れることのないプール鶺鴒が尾を使って回る
葡萄樹に夜が透けていて凭れれば樹として深い確かさを持つ
火の奥にある水滴のような火が震え続ける 永い寒さに
じりじりと火に削られる木片に新しい木片を重ねる
いつまでも白蛾は狂う天球はあくまで想像上にある壁
目では雪の冷たさすらも見えなくて砂場に残されている砂絵
神や天使を描こうとして起こり来る港のような白い崩壊
語り疲れて麒麟は首を伸ばしつつ光の酔いが覚めるのを待つ
木が枝が広がっていく詳しさに空が瞠って降りてきている
盤上の銀が金へと裏返り夜が全き形に変わる
語られる景色を漉して温かな一本の桜の川になる
炎の輪くぐるライオンこの世には他に炎が無いかのように
水の光を鳥が撥ねかえす階段を降りてゆくとき目が重くなる
春の風とは花の風草原は咲かせることの恍惚にいる
人のいないところにしゃぼん玉がある 月も同時に上がってきている
たましいに雨が染み込む 飛行機はその雨雲の上を行き交う
翡翠のやわく銜えているこころ加速につれてわっと炎えゆく
海光で会話がくるう言葉とは絶えずうまれてきえる英(はなぶさ)
青ければ青いほど海はよどみなく近づいてゆくあの手術台
鳥のいない鳥籠のよう何もかも開かれている朝の青空
咲くことは奇跡なのかもしれなくて 弾きだすうつくしい結論
光に落ちていきたく思うそのときに躰は光から落ちていた
ひどい睡気の中で麒麟はもう一度伝承のため語り始める