お家に帰るまでが遠足です。
私は暗い病院の廊下をゆっくりと歩いていた。午後7時の病院は照明は全て落とされ、非常灯だけが少し離れた所にみえた。
約2メートルの距離を取り看護師が私のあとを付いてくる。防犯カメラには二人はどんな様子に写っているのだろう?
今ではそんな想像を楽しめるが、この時は絶対に先生のいる診察室に戻らなければと必死だった。
先生に「私は正気です。心配しないで下さい」と伝える事だけを考えていた。
私は仕事中に額を怪我して、出血をした。
初めは深刻に考えなかったが脳に障害が残る事が怖いので夜間外来の病院に行った。
医者と看護師は診察室でこんな会話をした。
「先生、傷はここです。小さくて見えづらいですけど」
「確かにこれなら大したことはないだろう」
私はその会話を聞いて安心したことをよく覚えている。
医者はその後で「大した事はありませんがレントゲンを撮りましょう」と言った。
私は脳に障害が残るのが怖かったのでレントゲンを撮ってもらえるのはありがたかった。
看護師に付き添われて照明を落とした夜間外来の病院の中をレントゲン室まで歩くのは楽しく、映画のワンシーンみたいだなと呑気な事を考えていた。
レントゲンを無事に撮り終えた後に私はこれから診察室にもう一度戻るのだろうと考えていたところで看護師から意外な事を言われた。
「診察室まで自分で戻って下さい。帰り道がわかるところまで自分で歩いてみてください」と言われた。
看護師は笑顔だが目が笑っていない。私は理由を一生懸命考えた。そして、私はこれは私の思考力を試したいのだと思った。
もし脳波の検査をすれば機械の準備が大変なので簡易的に済まそうとしているのだと思った。しかし、これで診察室に戻れなければ更に検査と入院させられるかもしれない?
私はとにかく必死に左右と前方だけを見ながら診察室までの道を探した。
夜間外来の廊下は薄暗く行きと全く同じ状況だが全く楽しめなかった。
レントゲン室行きは夜のピクニック、帰りはサスペンス。もし戻れなければ大嫌いな検査と入院が待っている、サスペンスは大好きだがサスペンス映画の主人公には絶対になりたくない、そんな気分だった。
幸いにも診察室には無事に帰還できて怪我もすぐに治ったが私はあの夜の病院で目の前の事しか考える事ができなかった。
トランプ大統領はコロナウイルスの治療の為の入院中に「たくさんの事を学び、理解した」と動画で説明していたが本当だろうか?
自分の体調、側近達の健康、大統領選挙への影響。それ以外にコロナウイルスの事まで考えて、英語が全く通じないウイルスの事を考える余裕はあったのだろうか?
英語が理解出来る相手でも議論が成立しない大統領にコロナウイルスとディールを成立させることは出来るのだろうか?
カンペなしでレムデシビルやデキサメタゾンは言えるのだろうか?
動画の内容には医学的なトピックは少ないし、今までのスピーチを壊れたテープレコーダーのように繰り返しているような内容だった。
トランプさんには無理をしてもらいたくないと思っている。
次の大統領に引き継ぎをしっかりと行い、ホワイトハウスから旧トランプタワーに無事に帰還することが大統領の職務だと思う。