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大切な場所〜リプライズ〜


満天の星空の下で缶チューハイで乾杯した。ヒロミはスマホを観ながら笑っていた。「ツイッターのコメント欄が炎上しているよ。読んでみなよ。」と彼女は城山に方にスマホの画面を向けた。著名人の離婚報告には「卒業します」と書かれていた。そのコメント欄には「敵前逃亡だろう!」、「卒業ってナニ?中退だろ!」等々のコメントを読みながら城山も思わず笑ってしまった。
「やり方が間違っているよ。」と彼は笑いながら雑居ビルの屋上の端へと酔っ払ったフラフラの足で近づいた。転落防止用の手すりに掴まりながら、彼の足元には高速道路を走る車のライトたちとタワーマンションの明かりが見えた。その屋上から飛び降りたくなるぐらいに素敵な夜だった。吸い込まれそうな闇があった。
「私はアナタの関係者ではありません!ご報告は無用で〜す!」と城山は高速道路の騒音と蛍の尾尻(おしり)のようなマンションの明かりたちに向かって叫んだ。
「アンタに言われなくて分かっとる、アホンダラ〜!」といつの間にか後ろにいたヒロミも叫んだ。彼女も酔っ払いのフラフラのフランダースの犬だった。真横に立っている男へのメッセージを正面のタワマンの明かりのついた窓に向かって叫んだ。その明かりの下ではそれぞれの家庭の生活があるのだろう。彼らの叫び声は眼下の高速道路を走る車の騒音に掻き消されてあちら側まで届いていないようだった。
「〈死ね!〉、〈殺します〉、〈爆弾を仕掛けました〉。笑って、受け流してくれる相手に言っていれば良いんだよ。」と城山が言った。
「パトカーのサイレンが近づいてきた。どうでもいいけど。」とヒロミは残り僅かなチューハイを飲み干した。夜風が気持ちよく吹いていた。
パトカーのサイレンの音が二人のいるビルの真下で停まった。首都高を見下ろすビルの屋上には地上の騒音は届かない。それでも酔っ払った彼らにはそんな事はどうでも良かった。
「そろそろよい時間じゃない。後片付けを始めよう。」とヒロミが言って、手近にある空き缶やスナック菓子の袋を集め始めた。
「キレイにしとかないと大家さんに出入り禁止にされるから。さてとやりますか」と城山は屋上の住みにある掃除用具のロッカーからホウキを取り出して、慣れた手付きでタバコの吸い殻を集め始めた。
数え切れない誹謗中傷、殺害予告、爆破予告を語り合ったふたり、警察は怖くはなかった。しかし、大家さんに出入り禁止にされるのは恐ろしかった。そんなお行儀の悪い二人組は今夜もしっかりと掃除と後始末を済ませて家路についた。
#小説
#酔いどれ文学

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