神様の思し召し

2020年10月17日 16:49

城山は雑誌で大好きなアーティスト・ジェリーズの「ガルシアに魅せられて」のレコードが再発売されることを知った。

ジェリーズはアナログに強いこだわりがありデジタル配信は絶対にリリースしない。更に薬物事件で逮捕歴があり薬物治療のクリニックでメンバーのギタリストが急逝したために一度も来日が実現しなかったかなりマニアックなグループだった。

ジェリーズのレコードは大手CDショップでも取り扱いはない。

城山は入手を諦めかけていた時に会社の同期の成田からありがたい話を聞いた。

成田は「ジェリーズならば手に入る店を知ってるよ。」と住所をサイケデリック調のイラストが描いてある紙に書いて渡してくれた。

成田はヒッピーやサイケデリック調のデザインが好きだから城山はカラフルなイラストも気にはならなかった。

城山が住所を頼りにその店を探すと人通りの多い通りから少し離れた所にあり、途中で制服姿の警察官と何回かすれ違った。

城山はアメリカ大使館の裏側に車が一台通れるだけの細い道を赤坂駅への近道だと勘違いして、細い道に進んだらお寺の墓場の裏口につながる行き止まりだったことがある。

しょうがないので来た道を戻る途中で制服の警察官とすれ違った。警察官としては職務だから仕方なく確認するために来たのだろうけど、その顔はどう考えても墓場の裏口へ迷い込んだ男を笑っていた。

警察官は１０メートル離れた所から歩き方で怪しい人物を区別する。城山には財布とスマホ以外に貴重品を持っていなければ声を掛けられない、そんな風に考えていた。武田は運が悪かっただけだと思っていた。

城山が探している店は雑居ビルの二階で照明を落とした薄暗い店だった。

店の中はグレートフルデッドの「Dark star」が流れる店内にアクセサリーからサイケデリック調の洋服や雑貨が店の奥まで隙間なく並べられていた。

その中でも城山は特に鍵の掛かったショーケースに並べられたガラスパイプの前で立ち止まった。

ガラスはモールド型でどのような形状でも容易に加工出来るのでキセル型、みずタバコ用のタンク付き、そしてファンタジーの世界に出てくるような球体とねじれたパイプで成形された不思議な形状が目の前にあった。

城山は何よりもガラスパイプの色彩に眼を奪われた。多彩な色のグラデーションが城山の心を捉えた。映画の中にしか存在しないと思っていたものが目の前にある。現実感が全くなかった。

その時だった。城山は後ろから声をかけられた。

「大きな手術をしたあとにそれは勧められないわ。」

城山が振り返るとそこには黒いエプロンをした女優の沢尻エリカ似の店員がたっていたた。

「お久しぶり、戎橋で会ったとき以来かしら。そのガラスパイプはハッカ・タバコからハーブまで幅広く使用出来るけど病気だったヒトにはおすすめ出来ないわね。」

城山は「ハーブ？これでお茶を飲むのか？」と思ったが沢尻エリカ似の店員の声は体幹に冷たい北風を当てられるようで口だけでなくからだ全体が動かなかった。

少しの間を空けて「この店には幽霊に会った事がある人とか面白い人達が集まるけど、あなたに会うとは思わなかったわ。今日は何を探しているの？」と店員が北風に乗せて聞いていた。

城山は冷たい北風のお陰で程よく冷却された頭で幽霊に会った事がある人は成田だなと思った。そして、本題を思い出した。

「ジェリーズのレコードはどこですか？」とタメ口の店員に敬語で聞いてみた。

沢尻エリカ似店員は薄い笑顔で「隣のビルのレコード屋にあるわよ」と教えてくれた。

城山は戸惑った、店の住所は間違いない。ならばなぜ隣のビルと間違える？これは何かのドッキリか？

取り敢えず「ありがとうございます。」と城山にはそれだけ喋るのがやっとだった、。

城山はすぐにお店の外に出ると隣のビルの三階にレコード屋の看板がみえた。

成田が教えてくれたレコード屋は一つの番地に２つ雑居ビルが建ち、住所の最後にビルの名前を書いて区別する類いのものだった。

成田は住所の番地までは書いたがビルの名前を書き忘れたために城山は間違えたのだった。成田はおそらくどちらのお店も利用しているので問題は起きないが城山にはそうは行かない。そして、予想外の出来事が起こった。

戎橋にいた女にまた会えた事が神様の思し召しならば神様は驚き、慌てる城山を楽しんでいるとしか思えない。

神様はまたどこかで城山と沢尻エリカ似の女を会わせたいとノートに下書きをしているのだろう。

あとがき

城山と沢尻エリカ似の女の話はコチラ

幽霊に会った成田の話はコチラ

不運な武田の話はコチラ

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