あの日、七飯町で何が起きていたのか――初めて道南で開催されたロックフェス「THE BOOSTER ROCK FES 2023」
七飯町。
「ななえちょう」と読む。函館の隣にある町だ。
私は函館で生まれ育ったからこの町のことは知っていたが、日本全国の人はどれくらい知っているだろうか。北海道の人ですら、ことによると知らないかもしれない。
どんな町かと言われると私もあまりわかっていない。
日本で最初に西洋りんごが栽培された町なのだそうだ。人口は約2万8000人。私が函館で高校生だったころ、同じクラスに七飯町から通ってる友人がいた。函館観光で少し足を延ばして大沼公園などに訪れる人もいると思う。大沼からは標高1131mの駒ヶ岳がきれいに見える。山川牧場の牛乳やソフトクリームがおいしい。日持ちしないために現地でしか買えない「大沼だんご」という名物がある。北海道新幹線の現在の終着駅である新函館北斗駅がけっこう近い。私が知ってる七飯町はだいたいそんな感じだ。
そんな七飯町でロックフェスをやるのだという。
もともとは2019年9月に、大沼の近くの野外でやるという話だったように記憶しているが、アクセスや雨天の場合の対応等いろいろ検討した結果、その場所で開催は無理だと判断され、断念したらしい。
2019年9月末に「2020年の4月函館アリーナで開催する」と発表された。なるほど、これならアクセスや雨天の問題も大丈夫だろうし、集客にも有利だ。
開催資金のためのクラウドファンディングが始まり、リターンでイベントのチケット等がもらえるコースを12月に申し込んだ。七飯でやるにせよ、函館でやるにせよ、私の故郷である道南で初めて開催されるのだから行って応援しようと思った。
少し経って、出演者の発表があった。
LINDBERG、KEMURI、KEYTALK、Awesome City Club、バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI、後から神聖かまってちゃんが追加されて全6組。なかなかのラインナップが揃った。私の故郷でもこんな音楽イベントが開催されるのかと感慨深かった。地元の若い子たちも喜ぶだろうなと思った。バスツアーやアフターパーティーも企画されていたと記憶している。
しかし。
ご存知のとおりその直後、世界は長いパンデミックに突入してしまった。
2020年2月には開催延期がアナウンスされ、3月には中止が発表された。
この後しばらくは特に動きも告知もなく、時が過ぎていった。クラウドファンディングでのチケットもこのままあやふやになって消滅するんだろうなと思っていた。
そんなことも忘れかけていた2023年6月、唐突にSNSで告知があった。
2023年10月1日に七飯町でやる。
道南ロックフェス「THE BOOSTER ROCKFES 2023」をやる。
失礼ながら「まだ諦めてなかったのか」というのが最初に感じたことだった。しかも以前のクラウドファンディングのチケットは有効だということも告知された。4年近く前のチケットがついに日の目を見る。函館の実家への帰省を兼ねて、七飯町へ足を運ぶことにした。
8月には卓真(10-FEET)in 何人かバンド、バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI、ザ・リーサルウェポンズ、ROTTENGRAFFTTYが出演すると発表された。一度もライブを見たことが無いどころか1曲も知らない人ばかりだが、そのことは特に問題ない。
当日を迎え、函館の実家から七飯町に向かう。外は晴れ、秋の空気が気持ち良い。函館の中心市街地からはおよそ15kmの距離。会場は七飯町文化センターのパイオニアホール。田舎町の公共施設が集まるエリアの一角に文化センターがある。駐車場にはキッチンカーもあった。建物に入ってみると物販の行列ができていた。
受付で名前を告げてチケットを受け取る。指定席制になっている。ホールに入る。ざっと見た感じ、約1000人収容のホールの6割くらいは埋まっていたように思う。自分の座席はどこだろうかと探しながら歩くとずいぶん前の方の席だった。
道南の渡島・檜山エリアの高校の軽音楽部の生徒を無料で招待したり、20歳以下の人には3000円をキャッシュバックするなど、若い人に生の音楽に触れてもらおうという姿勢が見えて、これはいい試みだと思う。
開演に先立ち、主催者代表からの挨拶があった。彼は地元七飯町で歯医者さんをやっている。会場からすぐ近くの歯科の副院長だ。七飯で生まれ育ち、小学校はすぐそこ、中学校もすぐそこ。人口減少が続く道南を音楽で盛り上げていきたい、学校の行事でも使ったこのホールに素晴らしいバンドたちを呼ぶことができて感無量だというようなことを話していた。
事前に出演順が発表されないという斬新なスタイルでの開催で、それはそれでありかなと思った。
1組目はバンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI。
私は幼少の頃からアイドルのファンになったことがなく、アイドル文化をどう楽しんでいいのかよくわからない。たぶんアイドルを楽しむ才能やセンスが自分には無いのだと思う。彼女たちのファンは光るやつを持ってすごい踊ってた。両手に光るやつを持ってる人もいる。メンバーのうち3人は楽器もやる。ベースとドラムと手持ちのキーボード。ドラムの人がわりとうまいなと思っていたら、神聖かまってちゃんの人だと後から知った。こういう活動もやってるのかとびっくりした。このイベントが今後も長く続いていったとして、初開催の第1回で一番最初に音を出したのは彼女達であるということはしっかりと歴史に残った。
2組目はザ・リーサルウェポンズ。
単純に楽しい。彼らのお決まりの手のポーズとかコール&レスポンスをちゃんとできるお客さんが多くて、意外とみんな知ってるんだと驚く。登場する際、1曲目の「アーニーキ!アーニーキ!アーニーキ!」というリフレインで早くも笑ってしまった。赤のダウンベストを着た外人さんとなぜかアメフトのヘルメットを被った人が出てきた。曲間に二人でこそこそと「北海道はでっかいどうって言ってみて」「デッカイドウ!」「北海道は、から言わないと意味わかんないでしょ」みたいなやりとりをしていた。二人は東京の中野あたりでの飲み仲間だったとも話す。演奏中、袋からうまい棒を取り出して投げてくる。最後は袋ごと投げた。ハードロックとポップスを足してさらに変な歌詞を足したような、懐かしさも感じる、ありそうでなかったスタイルでただただ楽しい。
3組目は卓真(10-FEET)in 何人かバンド。
私はRising Sun Rock Festival等にちょくちょく参加しているが、10-FEETのライブを一度も見たことがない。なので私は「10-FEETのライブは見たことないけど卓真 in 何人かバンドは見た」という、たぶん珍しいパターンの人になった。10-FEETは今や日本の音楽界ではビッグネームと言って良い存在だと思う。そんなバンドの人がなんで七飯町に来てくれたんだろう。七飯町の、町のホールで真剣に歌っている。音出しチェックのリハーサルで10-FEETの曲もやってくれて、お客さん達が沸いた。プロとして当たり前と言われればそうなんだけど、全く手を抜かないで全力で歌っている。歌詞もいい。今までぜんぜん認識していなかったのだけど、卓真さんは抜群に歌がうまい。「銀河鉄道999」のジャジーな編曲でのカバーも良かった。途中でROTTENGRAFFTYのボーカルの人を迎えて一曲。曲ラストのハモりをミスって「もう一回最後だけやらせて!」とやり直してておかしかった。
最後の4組目はROTTENGRAFFTY。
彼らの名前は以前から知っていたが、ライブを見るのは初めて。ライブハウスで鍛えられ磨かれてきたことがよくわかる。百戦錬磨感がある。ラウドだがきれいなメロディもある。私が若かったらファンになったと思う。きっと彼らのライブは、フェスやライブハウスだとダイブ・モッシュでぐちゃぐちゃになるのだろう。椅子があるホールなのでそういう状況にはならなかったが、お客さんはみなその場で立って思い思いに飛んだり動いたりしていた。ホールでの彼らのライブというのはおそらく珍しいのではないかと思う。途中、最初に出たアイドルたちがダンサーとして登場した。ボーカルの2人が突如ステージを下り、会場中段あたりのPA卓前まで上がって歌う。客はみんなステージを背にして後ろを振り返ってそれを見るという、おもしろい光景が見られた。ホールであることを逆手に取るような彼らのパフォーマンスはとても良かった。このイベントの初開催でトリを務めさせてくれたことへの感謝や今後も続けてほしいという内容の話をしていた。
全アクトが終わり、帰路へ。ホールを出てゆく人たちがみんな笑顔で良かった。外に出ると雨が降っていた。七飯町は函館市街地より標高が高いので、遠くに函館の町の夜景が見えてきれいだ。
とにもかくにも、まずは一回開催できた。そもそもこれをロックフェスと呼んでいいのかというところはひとまず置いておくとして、これを続けていくのが容易ではないことはいろいろなイベントの変遷や勃興を見てきたので少しはわかっているつもりである。ただ何事も、0を1にするときに一番エネルギーが必要なので、そこを乗り越えられたことはとても価値があるし意義がある。「あー、そんなイベントあったよね」とならないように続けていってほしいし、規模を大きくしていってほしいと個人的には思う。残念ながら中止になってしまった2020年に出演予定だった人たちもいつか出演してほしいし、今回出演してくれた人たちからコネクションを広げていって欲しい。ロットンやタクマが出たんだよ、と言えるのは結構すごいことだと思う。
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