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カルチャーで「開発」や「事業」のストーリーをつなぐ大切さ
私は普段マネーフォワードのビジネス領域でデザインに取り組みつつ、カルチャーリーダーとしてデザイン組織のイベントや表彰を運営しています。
カルチャーと事業成功の関わりと、その重要性は詳しく説明するまでもありません。カルチャーは組織のOS(基本ソフト)とも言われ、関わる人々の意思決定や行動に影響を与えます。有名なNetflixのカルチャーデックのように、様々な表現が目にみえなかったカルチャーを伝えます。
この記事では、自分の2024年までの活動のふりかえりと共に、普段デザイナーでない方でも、デザイン(可視化や意図した計画)した様々な催しや工夫をもってカルチャーを高めていく可能性や大切さを伝えたく、書いてみます。
こんな方に読むといいかも💡
・カルチャーづくりに視野を拡げたい方
・優先度の高い事業タスクで余裕はないが、何かしら貢献したい方
・仲はいいが同質的でハリのない組織に課題意識のある方
・カルチャーが乏しく、機能や役割に閉じた組織に課題意識のある方
・デザインとカルチャーから事業推進への期待を持っている方
どなたでも、ご興味があればぜひご覧ください。組織系の話なのでシェアも歓迎です。
今からカルチャーにできることがある
短期的な成果を急ぐ企業にとって、成果のみえづらい「カルチャー」活動を優先しないことはフツーにあると思います。パッと「企業カルチャー」と聞くと、余裕のある企業が掲げるキーワード、スローガンだったり、勘ぐれば遊びごとのように捉えられたりもします。
ただし、事業や組織に深く関わるほど、それが活動や事業の成果に大きな影響を与えていると感じます。キーワードやスローガンはそれらを媒介する記号、みえない概念の表現や表出であり、人々の活動実態こそがカルチャーであることも分かります。
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普段つくることに余裕のない方々、スキルに自信のない方でも、とにかく今参加している会議等で、みえないものを可視化してみるとよいと思います。図や言葉、メモにしてみる。可視化することで、批判や異なる意見が生まれたら、今度はそれを可視化しましょう。それはつまり「叩きをつくった」「声を聴いた」「議論を進めた」というポジティブな貢献になっていきます。
その延長線上で、組織を動かすような大きな働きができるかもしれません。可視化を続けたり、その範囲を拡げるほど、「カルチャーをよくしたい」と共感する仲間が集まり、強力な後押しになります。
一例として、自分のやったカルチャーを意識した事業活動について(自社にはMVVCやカルチャーデック等ありますが、あえてそれらは使わずに)書いてみます。
例1:開発メンバーの個性で、つくりたい意志をつなぐ
課題背景:プロダクトの新たな開発をはじめるときは、様々な壁が立ちはだかります。ドメイン理解や開発の難易度だけでなく、経験やスキルの差、場合によっては言語や価値観の違いなど、チームの内側でも大きな(かつ、みえない)壁に出会します。
私たちは事業として開発に取り組んでいるため、依頼と請負の関係以上の関わりから価値あるアウトプットや成果を叶えていかなくてはなりません。開発チームは東京・大阪・ハノイの3拠点体制を取っており、単に「つくろう」だけでなく、壁を超えて対話を重ねながら関わりを考えていく必要があります。
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はじめから無理な統制を効かせるより、各地の優秀なエンジニアメンバー個人の異なる観点、個性、価値観が出やすい状態にしたい。そして、テクノロジーが活用される可能性を探りたいと考えています。
ちょっと理想っぽく聴こえるかもしれませんが、つくるのは他でないチームであり、メンバーです。ここで最近よく聞くモメンタム(チームの勢い)づくりにつなげていきます。
施策:そのため私たちは、新たな開発の度に「開発合宿」を企画〜実施してきました。大阪・ハノイでの2つの機会をご紹介します。
どちらもやることを共有するのみでなく、関わる個々人をつなぐため、最初は相互理解からはじめます。
相互理解も単なる自己紹介でなく、その後のワークにつながる志向性をもった意気込みや姿勢を伝えあいます。関わる人たちの個性が認められ、場の心理的安全性を醸成します。
さらに何をどう作るか以前に、何故作るか?(What、Howと共にWhy)特に初期仮説やインタビューを、ただインプットするだけでなく、チームでアウトプットしながら時間をかけて捉える機会をつくります。
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その後、提案をしてもらう機会をつくりました。提案はそれぞれなりのものでよく正解はありません。よって答え合わせもしません。大事なことはそれぞれの壁に向き合う機会づくりになるかどうか、です。
1つ目の機会は、日本のエンジニアメンバーとの合宿で「オレの考えた最強の◯◯◯」を提案してもらいました。
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「オレの◯◯◯」を表現してもらうことによって、その人が何を大切に想い、貢献性をどう発揮できるかをチームの共有、賞賛につなげたい意図で準備しました。
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結果1:結果として、テクノロジーをうまく要所に活用した、新たな価値提供のできる仕組みが実現できました。すべてがアウトプットにつながるわけでないですが、それ以前につくりたい意志や姿勢をつくることが大事だと思います。そこからただ作るだけでないチームのWhy、ユーザーの要求、開発の背景、ディスカバリー(探索的な活動)への向き合いが強まったように思います。個人的にもとても思い出深い機会になりました。
2つ目の機会は、ハノイのエンジニアメンバーとの合宿です。普段同じコミュニティの人とばかり話していると、悪気なく奇異の目でみてしまうところがあるかもしれません。それでは協力もなにもありません。まずもって国、言語や価値観から違う多様な人たちが力を合わせていく必要があります。
そのため、私たち日本のメンバーもハノイに滞在し、Bootcampと題して新たなモメンタムの機会をつくりました。より丁寧に、お互いの役割や期待をつなぎながら対話をはじめます。
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日本と同じくWhyからを捉えていきますが、そこで「ベトナムで言うとどんな感じ?」「ベトナムでは何故必要なの?」など問いかけを工夫し、現地のWhyを教えてもらう形式でワークしました。
準備段階から答えは彼らの中にあるというスタンスでワークを進めました。そのためか初期時点から、こちらの学びになることが多かったように感じます。
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インプットを終えたあと、「企業レポートを通じたピッチイベント」で架空企業をつくりアピールしてもらいました。ここでも言語や価値観の違いに配慮し、グループで参加しやすい状態をつくります。
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ここではより実践的に、投資家の役割をメンバーの方に担っていただき、レポートを評価するテーブルまで作って投資額を算出してもらいました。小さい規模ながら本格的なピッチイベントにできたと思います。
結果2:重要だと思ったのは、専門性をもって完璧にできたかどうかではなく、素人仕事で粗かったとしてもエンジニアの方自身がユーザー業務を擬似的に体感できたことです。
デザインの分野でもユーザーに憑依することの重要性が度々語られますが、エンジニアが体感することによって、テクノロジーがどう活用できればうれしいか・うれしくないかを実感できたのではないかと思っています。
ここからオフショアや外部リソースではない、プロフェッショナルとしての彼らの意志ある開発参画につながり、現在ではハノイメンバーから海外企業に提案する機会にもつながっています。一緒にやってる側としても高まります。
例2:事業チームの多様性で、戦略と戦術をつなぐ
課題背景:事業が大きくなるなかで、先の理想的な状態、より大きなビジョンやゴールを叶えていきたい。ただし、ひとりで叶えられないそれを叶えるため、うまく力を合わせていく必要があります(内々ではオーケストラになぞらえて「協奏」と表現しています)。
大きな夢の途上で、プロダクトやユーザーを取り巻く状況は常に変わり、仕事も刻々と変化します。組織化やメンバーの増員といった様々な変化に応じて、自然とコミュニケーションの偏りや分断も生じます。
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まさに私の所属するチーム・組織もダイナミックな変化の中にいます。PdMやエンジニア、デザイナーといった開発メンバーを中心に少数チームで始まった立ち上げ期から3年目が経ち、セールス、カスタマーサポート、カスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケティングなどビジネス担当者が増え、事業も本部化し、さらに組織として拡大・変化する途上にあります。
ここまでくると、単に仲良し(関係性を維持する)だけでは、大きな夢やビジョンに近づくことはできません。以下記事でデザイナー向けに解説していますが、より確度の高い戦略を叶えていくためには、多視点から「戦略」と「戦術」をセットで考えていく必要があります。
施策:そこで私たちは、領域に限定せず有志メンバーで集まり、戦略検討するBiz-Dev合宿を実施しました。事業全体の目的やビジョンに対して、誰がどんな方針でアクションしていくか。つまりを理想を叶えていくためのプランを検討します。
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合宿では、仮想の小さな事業グループを複数つくり、それぞれが持つ知見を総動員して、強い戦術を考えていきます。
3ヵ年ほどの事業プランを計画したのち、グループごとにプランを発表しました。基本的なワークの設計や構造は前述の開発チーム合宿に似ています。
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後日ここで出た事業プランをデジタル化し、足し合わせ、観点別に「ストーリーが整合するかどうか」分析をしました。
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結果:その結果、理想はあるが打ち手や算段のイメージがない部分だったり、やることは明確だが目指している結果やその先へのつながりが希薄な部分など、プランの課題が明確になりました。
昨年はこれを元に、実際にプロダクトロードマップの計画やアクションの変更へとつなげることができました。
例3:ユーザーの目的意識で、ストーリーをつなぐ
課題背景:ここまで書いてきた「開発」や「事業」を通して、私たちにはまだできることがあります。“まだ”というより最初にできることかもしれません。ユーザーの声を聴くことです。
当たり前かもしれませんが、多くのサービスやプロダクト事業はユーザーの声だけでは成り立ちません。私たちもできることをもって、ユーザーとの協奏を大切にしたいと考えています。
ユーザーとの協奏の機会として、私たちはプロダクトリリースより「ユーザー会」イベントを開催してきました。ビジネスイベントというと「講演」など、受講する形式で業務に役立つことを得る機会が多いかと思います。私たちのつくる「ユーザー会」はそうではなく、より意義のある機会にしたい。来場者の方々に参画しやすい機会をつくることで、ユーザーの特別なストーリーの一端でありたいと思っています。
施策:今年は特にユーザーからみて、どのような参加(協奏)をしていただけるか?を企画段階から考えて実施まで進めました。
私たちの携わる領域は、ユーザーの状況や目的がひとつでない事情があります。「プロダクトの機能」をもって「効率よく解決する」では、来場者の目的には合いません。そこで「ユーザーの価値」を軸に「期待を高める」コンテンツを検討しました。
これまでの開発の歴史から前項でつくったロードマップで実現する価値を。続いて、実際に自社導入した実績を伝え、足元で叶えられる業務への価値を。さらに、より高度なユーザーの目的に沿った未来への価値を。といった具合に利用価値への期待を高めていきます。
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それぞれに「仕事の価値を実感し、高めていける。」そして「より大きな成果や企業が目指すビジョンを達成したい」といった、それぞれの期待をもって、ユーザーの夢につなげてほしい。
そんな想いが成就できるよう、ユーザーにイベントの中でそれぞれの目的意識で感じていただいた期待をもとに「現状」「理想」をつなぐワークショップを実施しました。
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今回はよりコンテンツの抽象度が高く、参加者数も増えていました。そこで、目的にあわせてワークボードを複数配置し、同じ目的意識の方同士がお話しやすい場を目指しました。
結果:参加者の方々のお力をお借りする形式で毎年恐縮ではあるのですが、ここでも「つながる」ことを意識した設計で、多くの示唆をいただくことができました。また、以降の懇親会の話題や盛り上がりにつなげることもできました。
イベントでいただいた内容をここで終わらせるのでなく、さらに価値あるプロダクト・サービス開発に活かし、お返ししていきたい。私たちがチームとして、この機会や関わりを活かしていこうとする姿勢を持つことができました。
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こうした経験を経て、自分個人でも、2025年は『ユーザーコミュニティのカルチャーを高めるような貢献がしたい』という、より大きな目標をもつことができました。
当事者性がストーリーをつなぐ
ここまで私の取り組みから、事業におけるカルチャー活動をご紹介しました。ストレートにカルチャー活動と思わない方もいそうですが、私は冒頭に述べた通り「人々の活動実態こそがカルチャー」だと考えています。
活動をカルチャーとしてふりかえると、それはキーワード等の記号ありきでなく、活動の実態を通してつながっていくものと感じます。
そして、「開発と意志」「戦略と戦術」「ユーザーのストーリー」など当事者の話だからこそ、私たち自身が意義を見出し、そこに魂や意志を込めることで私たちのストーリーにできるように思います。
AIエージェント元年に寄せて
さて、2025年は「AIエージェント元年」
…などとは誰も言っていませんが(笑)生成AIが至るところに浸透するなか、今後はAIが私たちのエージェントとして様々な仕事を横断してサポートできるようになると言われています。
本記事で「つなげる」としていた部分も、特に考えることなく生成AIが教えてくれる世の中が目の前にあるのかもしれません。
記事執筆の2024年末時点で私が想像するに、そこで肝心なところまで失ってしまわないよう、私たち当事者自身がカルチャーに意識的になっていく必要があると思っています。捉えようによって、このピンチは大きなチャンスかもしれません。
私はカルチャーを大切にすることで、個人の意義がより大きなものにつながっていく、と信じています。あなたも目の前の活動からカルチャーを意識して、関わりあうと人々との魂や意志をつないでみませんか?新しいチャレンジへの抱負などあれば、シェアしてもらえたらうれしいです。
最後に、ここまでのご拝読ありがとうございます。
2025年があなたにとってよい年になりますように。
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