「壊れたはずのパソコンが!」
新しいパソコンを購入し、自分が使いやすい環境を整えるのに約一週間ぐらいかかった。
以前使ってたソフトやメール、銀行などの金融関係や連絡先など、メモ帖を見ながら入力していった。
以前の壊れたディスクトップパソコンは大画面で、壊れたまんま書斎のディスクを陣取っていた。
片づけるが面倒だったので、リビングに新しいパソコンを一時的に設置した。
ディスクトップに、ノート二台。リビングのテーブルの半分以上を占めている。
妻は、テレビを観るとき邪魔だから、
「書斎を片づけて全部もってってくれます!」
と不機嫌であった。
「仕事なんだから仕方があるまい。娯楽でテレビを観ているのとは違うんだ!」
と精一杯の嫌味を言った。
書斎のパソコンを処分するには、燃えるゴミとかで出す訳にはいかない。 業者を呼ぶか区に電話をして処分しなくてはならない。すぐ捨てることができないなんて不自由な暮らしになったなあ、と自分勝手丸出しであった。
久しぶりに書斎に行き、
「このパソコンともお別れかあ」
といい、スイッチを何気なくつけてみた。
何と電源が入るではないか。そして、ウインドーズの音楽と共に立ち上がったのだ、何と直っている。
うーむ、壊れていると思ったから新しくパソコンを衝動買いしてしまったのに、これは妻にも娘にも決して言えない。あわてて、スイッチを切った。
念のために電源を外し、電源コードをひもでくるくる巻きにした。これで電源は入らない。この電源コードさえ隠せば完全犯罪だ!と確信した。
次の日、さらに悪いことにパソコンの業者から電話が入り、「ハードディスクの故障かと思いましたが、ウインドーズのOSの故障かもしれません、ウインドーズ10、11はウインドーズが破損しても自動修復機能があるんです、申し訳ございませんが、サービスですのでパソコンを見させていただけませんか」
と言ってきた。
わたしは、あわてて、
「ウインドーズはもういいいんです、アップルにしましたから」
と支離滅裂なことを言った。相手は驚き丁重に電話を切った。
早く、書斎のパソコンを処分しなくてはと思った。自宅にあるからいけないのだ。
研究室へ自家用車に乗せて持っていくことにした。
妻と娘には、「職場で処分してくれるというから、その方が手っ取り早くてお金がかからなくていいだろう」といった。
特に、「お金がかからなくていいだろう」と、いうとき、強調していった。
二人とも納得である。
恐るべき完全犯罪の成功である。