「WINTER FESTIVALS CONCERT 冬の祝祭コンサート」ソプラノの金沢貴恵さんにインタビュー!「その2」
*インタビュー 2024年11月下旬
JET音楽研究会がお送りする「WINTER FESTIVALS CONCERT 冬の祝祭コンサート」。
前回に引き続き、ソプラノの金沢貴恵さんにインタビューを行いました。(聞き手: 制作部A)
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*前回:
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A:
ブルックナー大は大学院の過程に行かれたんですよね。オーストリアの音楽大学院に行かれてみて、いかがでしたか?
金沢:
すごく楽しかったですね。オペラのプロジェクトに出るにはオーディションに受からないといけないとか、シビアなところもあったけど、結構運よく役をもらえたりしてたので...舞台はすごく沢山踏ませてもらいました。
オペラの演目は3個やらせていただけたし、リンツ州立歌劇場と大学が提携していたので、提携公演みたいな形で劇場の歌手の方と歌うオペラ・プロジェクトもあったし。これも運よくオーディションに受かって...。宗教曲もオラトリオを3作やりました。ヘンデルの「アレクサンダーの饗宴」とかソリストもさせてもらえたし、ブルックナーハウスというホールでやらせていただいたりして。作品は学生たちがソロを分担して歌うんですよ。そういう経験もさせてもらえたし...。あとは、ブルックナー大のあるオーバーエスターライヒ州は現代音楽が盛んで、現代音楽を歌う機会にも恵まれたし。逆にイースターのミサとか、大きなお祭りの時にはソリストもさせてもらったりしたので、ミサ曲も10作品くらいかな、歌いました。
金沢:
ちなみに、ブルックナーはアンスフェルデンというリンツから少し離れたところで生まれ育っています。そこでの教会のコンサートにも出させてもらっていたりもしました。大学の繋がりというよりは、大学にいることで色んな人と知り合えて、それが仕事に繋がった、という流れです。リンツにいてよかったことのひとつです。
A:
人脈って大事ですね..!
金沢:
そうですね。リンツにいた時は何だか繋がりやすかったです。プロジェクトなどで、たくさん歌わせてもらいました。
A:
オーストリアは、いわゆる「オーストリア人」だけじゃないというイメージがあります。歴史上、ハンガリー人の人とかもいるし、ドイツから来る人も...。
金沢:
あっ、多いです。
A:
それこそ、音楽の都だから留学生も沢山いるでしょうし。最近東アジアの人も沢山とっているという話を聞きますね。
金沢:
そうですね、多いと思います。
A:
勝手なイメージなのですが、オーストリアは多民族国家だった歴史もあると思うので、いろんな人が交差して一緒になるという文化が残っていたのかな、と思いました。アントン・ブルックナー私立大学も、音楽だけでなくてダンスにも力を入れていると聞きました。ジャンルの境界を超えて溶け合おうとしているような印象を受けます。
金沢:
確かにダンスは有名ですね。オーストリア人自身もすごく優しいし、差別もそんなにあるわけではなくて、学校もアジア人に対してウェルカムで、多国籍でした。
A:
ところで、先ほど現代音楽の話が出ましたが、作曲家としては誰の曲が多かったですか?
金沢:
今生きている人たちですね。それこそオーバーウスターライヒ州に住んでいる現代音楽家たちと一緒にやりました。私は知り合いと一緒に現代音楽をやっていたんです。州の中のフライシュタット郡というところの、現代音楽祭で演奏しました。あとはレーゲンスブルクというドイツの街でもやりました。石とか持って叩いて歌ったこともあります。
A:
日本にいると、宗教曲は宗教曲、現代音楽は現代音楽で分かれているじゃないですか。でも、全部やるんだ...!とお話を伺って思いました。オーストリアの、長い歴史がありつつ現代音楽みたいな新しいものを受け入れる土壌もあったりする、というところが面白いです。
金沢:
そうかもしれないですね。特にリンツという街は、昔工業地帯で電気とか機械とか、そういったもので有名な街だったらしいです。「新しいものが発展していく街」みたいな...。現代音楽はウィーンよりも、ほぼリンツでやっていましたね。特にリンツという街は、そういう理由で現代音楽を受け入れていたのかもしれないです。
A:
日本でアングラ演劇が流行ったのが高度成長期だったというのも同じかもしれませんね。国が発展しきる前の時期は、現代〇〇が人気を得るのかもしれないですね。
大学院の後についても伺ってよろしいでしょうか?
金沢:
大学院に3年半在籍した後は、就職活動としてオーディションに行き始めました。向こうの劇場の専属合唱団を目指していたんですけど、ソプラノの一個の枠に対して150人の応募、みたいな状況でした。そもそもオーディションは招待制だし、最初の書類だけの選考に受からないと、歌の録音も聞いてくれないし、歌のオーディションを受ける30人くらいには残れないし、そこがまずすごく大変でした。そんな中で10個以上は劇場のオーディションに呼んでもらえることはできたんですが、やっぱり受からなくて...。
そんな中でも、ウィーン国立歌劇場合唱団が年に一度のザルツブルク音楽祭で歌う公演の、特別メンバー枠みたいなものに受かったのが、大きな出来事でした。ドミンゴの後ろで歌えたり、ムーティと一緒に歌えたり...とても大きな経験でした。
A:
そうですよね!音楽祭自体も有名で大きなものですし。
金沢:
そういう風にして、オーストリアではコーラスの仕事を続けながら、ソロの仕事もいくつかもらいながら暮らしていました。でも実はそれと同じ時期に、声と心のバランスを崩してしまい、少し歌に向き合うのが苦しい時期がありました...。その時に特にソロで歌っていくのが怖くなってしまって...。
しばらくそのような気持ちで過ごしていたんですが、心のどこかでちゃんとソロを歌って行きたいな、という気持ちがありました。
そんな時にお世話になっている仲の良い先輩がいて、その方に歌を見てもらう機会があったんです。そこから少しずつ気持ちが前向きになりましたね。その先輩は、のちに私の大切な先生になります。その先生の勧めもあり、2021年に東京でリサイタルをしました。
そのリサイタルをきっかけに、もう一度ソロの勉強を頑張ってみたいと思えるようになりました。東京に帰ろうと決めたのもその頃です。
A:
東京に帰るまでに、色々な出来事があったんですね。今、海外についてのお気持ちはいかがでしょうか?
金沢:
個人的には、私はやっぱり海外が好きなんだと思います。日本が嫌だというのではないんです。音楽のこと以前に、どこで生活していたいか、と考えた時に海外だな、という気持ちが少しあります。
22歳から31歳手前くらいまで9年半くらい向こうにいて、「自分の第二の人格」みたいなものが作られた時間だったと思うんです。正直、暮らしていけばいくほど海外生活の難しさも感じていたので、東京に帰ったほうが良いのかな、とも思っていました。でも、「自分の人格が作られたのがウィーンである」ということが大きいのかもしれません。意識はしていなかったけど、そこにいる方が自然、みたいな...自分がいるのはそこ、みたいな。
A:
故郷、みたいな...。なんか帰ってしまうところ、みたいな...。ルーツのような?
金沢:.
ルーツは絶対東京なんですよ。いま家族が近くにいることも嬉しいんですけどね。
同じように海外に長くいて、日本に帰ってきた人に話を聞くと、「帰ってきたことは全然後悔してない!」とスッキリ言われるんです。私も「もういいや」と思ったはずなんですけどね。毎日ふと考える。オーストリアのあそこの道の、ここのお店、公園、駅...とか。頭をよぎります。
A:
それが何かに繋がるかもしれないですね。直接的ではないにせよ、全然違うところで何かに繋がるかもしれないですし。
金沢:
そうですね。
A:
ちなみに、金沢さんは舞台に立つ以外にも、レッスンもされていますよね。教えについてはいかがでしょう?
金沢:
生徒は受験生と社会人。中学生の子もいますね。私の生徒さんは、みんな歌を本気でやりたい人です。私は教えに関しては、本当に生徒に寄り添うことを考えて、時間を割いています。私はメンタルカウンセラーの資格も取っているのですが、技術だけでなくメンタルのサポートも含めて接しています。面白いことに、自分とよく似たタイプが多いです(笑)生徒さんが課題をやってくることは大前提。でも、どうやったら歌を楽しく思ってもらえるか、ということを大事に、「今日この生徒さん、メンタル的にいっぱいだな」とか、そういうことは見逃さないようにしています。もちろん受験生の子には厳しく指導しますが、やっぱり気持ちについて考えてみて、ハートでぶつかり合って、話をするようにしています。生徒さんみんなのこと、私はすごく好きです。
先ほど話に出た、リサイタルを勧めてくれた先生の影響もあると思います。音楽について前向きにしてくださったのがその先生です。人生も音楽も幅があり、豊かであり、一つの見方だけじゃない、と教えてくださいました。
私もまだまだ未熟なので、自分の歌や心と対峙するたびに、学びが生まれるじゃないですか。技術だけじゃなく、人間としてのあり方の対峙があったりとか。進めば進むほど、自分の見方が増える分、生徒さんに対しても思うことが変わる、みたいなに思っています。
A:
すごく深くていい話になりましたね。心理学についてもお話が伺いたいです。
金沢:
心理学全般についてのセミナーを受けて、メンタルカウンセラーの資格を取りました。人が何歳までに大人がどう接しなければ何が起こるとか、クライアントへの接し方、あとは自分がどういう風に生きていきたいか、絵をどういう風に書いてきたらどういう悩みがあるかわかる、みたいなことについて勉強しました。
A:
舞台に出るにあたって、メンタルの資格を取ったり、メンタルトレーニングをやっていてよかったと思うことはありますか?
金沢:
舞台に立つ上では、確かに昔とはだいぶ変わったなと思います。27-28くらいまでは本番の前の日、緊張して寝られなくて...ということがあったんですが、「寝られない」という状態って、自意識が過剰になってるわけじゃないですか。なのでそれを、いかに自然な状態に持っていくか、と考えて、色々な実践を重ねました。そのうち、だんだん線引きができるようになっていましたね。例えば、他の人が機嫌が悪くても、その人の問題と自分の問題が区別できるようになったりだとか。視点が変わって、全体的に落ち着いたと思います。
自己否定をしすぎないとか、落ち込み方も変わったかもしれません。
A:
とてもいい状態を作れるようになったんですね!
金沢:
自分が音楽で大事にしていることを考えると、専門を追求する、という面ももちろんあるんですが、「みんなが聞いたら心地よくなるかどうか、楽しいか」がベースにあるんだ、という気づきも生まれましたね。
A:
では最後に、演奏会に来てくださる方にメッセージを。
金沢:
色んな方が集まって、演者も準備を進めているので、楽しんでいただけたら嬉しいです。暖かい気持ちになっていただけたらいいな...自分も暖かい気持ちなので。そういう空間になるんじゃないかな、と思っています。それを一緒に共有できたら嬉しいです。
A:
本日は素敵で深いお話をしていただき、ありがとうございました!
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〜寒い冬を祝祭によって乗り越えてきた ヨーロッパの人々の願いと祈りの調べ。〜
「WINTER FESTIVALS CONCERT 冬の祝祭コンサート」
「冬至のヨーロッパの祝祭」をテーマにしたコンサート。西欧のみならず、東欧や北欧などの世俗的な音楽、またそれを取り巻く詩について解説しながら、演奏を行います。
長く冷たい冬を越えるためのヨーロッパの人々の思いを分かち合い、遠く近い国々に思いを馳せましょう。
日時: 2024年12月18日(水) 18:00開場/18:30開演
場所: スタジオ ヴィルトゥオージ
(〒169-0073 東京都新宿区百人町2-16-17 B1)
<JR大久保・新大久保駅より徒歩5分>
出演:
金沢貴恵 (ソプラノ)
三好すみれ (ピアノ)
松谷萌江 (ヴァイオリン)
Program:
-マリアの子守歌(M. レーガー)
-朝の歌 / 夜の歌(E. エルガー)
-花のワルツ(P. チャイコフスキー)
-O holy night(A. アダン)
-シオンの娘よ、大いに喜べ(G. ヘンデル)
-荒野の果てに(フランス伝承曲)
-Carol of the Bells “Shchedryk”(ウクライナ伝承曲)
-歌いながら生まれ、歌いながら育った(ラトヴィア伝承曲)
-いまクリスマスは雪の門のそばに立って/
さあクリスマスがやってくる/
外は暗くなり/
私は栄誉を求めない/
積雪はうず高く
(J. シベリウス)
ほか
※内容は予告なく変更の場合がございます。予めご了承ください。
チケット代金: ¥3500 (当日券は+¥500)
ご予約:
https://www.quartet-online.net/ticket/wfc/
または、tktsjae★gmail.comまでお問い合わせください。(送信時は★を@に)
※全席自由
WEBページ:
出演者プロフィール:
金沢貴恵 (ソプラノ)
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。アントン・ブルックナー音楽大学大学院修士課程声楽専攻修了。
2014年国際声楽コンクール《コンペティツィオーネ・デッロペラ》ファイナリスト。これまでに《セヴィリアの理髪師》ロジーナ役、《フィガロの結婚》スザンナ役、《セルセ》ロミルダ役、《劇場支配人》コロラトゥーラ歌手役、《愛のっw妙薬》アディーナ役、《天国と地獄》ユリディス役で出演。
現在、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程在籍中。
三好すみれ (ピアノ)
東京音楽大学及び同大学院を経て同ピアノ伴奏研究員を務める
平成29年度文化庁委託事業『次代の文化を創造する新進芸術家育成事業 マリエッラ・ デヴィーアによる新進歌手とコレペティトゥアのためのワークショップ』修了
河原忠之氏主宰『Gruppo Kappa』第3~6期メンバー 本番ピアニストや音楽スタッフ、コレペティトゥアとして数々のオペラ団体や合唱団に携わる
横浜合唱協会および黒澤麻美ロシア声楽曲研究会ピアニスト
松谷萌江 (ヴァイオリン)
東京音楽大学卒業。5歳よりヴァイオリンを始め、これまでに磯部夕佳里、松宮麻希子、松原勝也、景山誠治、齋藤真知亜の各氏に師事。室内楽を齋藤真知亜、百武由紀、山口裕之、横山俊朗の各氏に師事。認定NPO法人 トリトン・アーツ・ネットワーク「2018年度アウトリーチセミナー」に参加。現在、洗足学園音楽大学演奏補助要員や、音楽教室等のヴァイオリン講師を務める他、室内楽やオーケストラを中心に演奏活動を展開している。
主催・お問合せ:
(一社)ジャパンエンターテイメント東京
企画: JET音楽研究会
TEL: 050-5359-1554
MAIL: tktsjae★gmail.com(送信時は★を@に)