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「WINTER FESTIVALS CONCERT 冬の祝祭コンサート」ピアノの三好すみれさんによるレクチャーレッスン!
JET音楽研究会がお送りする「WINTER FESTIVALS CONCERT 冬の祝祭コンサート」。
演奏会に向け、ピアノの三好すみれさんに、演奏予定の「花のワルツ」の抜粋レッスンを行っていただきました。(生徒: 制作部A)
** レッスン 2024年11月下旬
A:
三好さんは伴奏ピアニストとしての活動に加え、コレペティトゥア(*1)としての研鑽・経験を積まれているということで、これを読んでいるお客様に、雰囲気を楽しんだり自分の感想を持つだけでは知ることのなかった世界をお伝えできたらと思います。
ピアノは小学校6年生で卒業してしまったAですが、今回の演奏会でも取り上げる「花のワルツ」を、実際にピアノで弾いてみる予習をしてきました。時に楽しみ、時に苦戦しながら感じたことをもとに、レッスンを受けていきます。
三好さん、本日はどうぞよろしくお願いします。
三好:
よろしくお願いします。
<「ラドミ」のお話>
A:
では、楽譜上の色々な部分について解説をお願いします。
三好:まず1~31小節目まではこの曲の序奏部分にあたります。
このセクションは1小節目に登場する「ラドミ」という3つの音によって成り立ち、構成され、さらには支配されています。
A:
3・4小節目や16小節目~の部分などがそうですか?
三好:
そうですね。
16小節目からの部分はハープソロです。
Cadenza ad libitum(カデンツァ・アド・リビトゥム)というのはソリストが技巧を色彩的に、アドリブさながらの自由度の中で表現するという音楽用語です。
細かい音符が並んでいますが、ツェルニーやハノンのような指の練習曲ではありません。
(厳密にいえばこれらも本来は豊かな表現を引き出すためのエクササイズであって、決して非音楽的な営みではないのですが)
しかもこの部分は「ラドミ」の和音の響きをもつ伴奏音形の中から旋律のラインを浮かび上がらせるように弾く必要があります。
A:
実際に私が楽譜を読んだ時と、オケの音を聞いてみた時では、圧倒的にオケの方が情緒豊かに鳴っていました。
私は一音一音、楽譜に忠実に弾きすぎていたみたいです...。
三好:
書かれた音をすべて並列の存在として扱うのではなく、必要な情報を浮かび上がらせるのも読譜のスキルです。
また、この部分はそれまでの拍の縛りから解放されます。
バレエ作品として上演される場合、どのような振付となるかは演出家の解釈によるところだと思いますが、いずれにしても毎小節1・2・3と刻んでいた拍節感が緩みフレーズが大きくなることでバレリーナの動きに変化があるんじゃないでしょうか。
そしてフォーメーションが変わったり、主人公(*2)
を舞台上に招き入れたりといった“段取り”のみならず、舞踏へと誘うエレガントさ、夢心地な足取り、高揚感、あるいは儚さなどをも表現しているのでしょう。
A:
確かに、バレエの「花のワルツ」の色んな振り付けを見ると、だいたいこの部分は出ハケだったり、舞台上での移動だったり、演技していたりしますね。
三好:
この作品はもともとバレエ音楽だけでなく、”組曲・くるみ割り人形” の中の1つとしても演奏されます。単にバレエシーンとして成立するだけでなく、バレエ音楽の芸術性を高めたところからもチャイコフスキーは素晴らしいな、と思います。
A:
やはり色々な観点で凄い作品なんだな、と思います。個人的に「ラドミ」をベースに使ってここまでの部分の曲をつくっている、と言うのは大きな衝撃でした。
では続いて、ワルツが始まる32小節目以降のお話を聞かせてください。
三好:
この部分はホルンです。
dolce cantabile(甘く、歌うように)という楽語が求めるのはおそらく先ほどもお話しした夢見心地な世界観なのでしょう。
ホルンの柔らかい音色がぴったりですね。
ここで少しオケの楽器配置のお話をしましょう。
演奏するスペースの広さや人数などにもよりますが
-弦楽器が前
-中央に木管
-そのだいたい後ろや両脇に金管楽器
という配置が一般的です。(*3)
![](https://assets.st-note.com/img/1734337759-eLUYvrJfkyxwsBDmTCEaKjpH.png?width=1200)
図の通り、弦楽器って人数が多いんですよ(数十人規模)。
ホルンは指揮者の位置からはけっこう遠いんですね。
遠くから聞こえてくるように、立体感・臨場感ある音色を再現したいんです。
ワルツの最初の部分の伴奏音形を担当するチェロやコントラバスは弦楽器の中でも指揮者から離れた位置にいるので、時差が発生しやすいです。
この部分はピツィカート(弦を指で弾く奏法)とアルコ(弦を弓で擦る奏法)が共存しているので、それも再現したいところです。
-レッスン後-
ありがとうございました!楽譜だけでなく総譜やオケの流れからも読み解くことで、より「花のワルツ」という作品がわかってきたと思います。私自身、本番が楽しみです。
ここから少し三好さんについてインタビューができたらと思っています。
まず、 オーケストラをピアノで弾くことについて、とても大きな思いを持っていらっしゃるのがわかりました。それについてもう少し詳しく伺えますか。
三好:
ピアノは歌的な表現、弦楽器の表現、管楽器の表現、なんでもできます。パイプオルガンみたいなイメージですね。自分の指から息が吹き込まれて、オケの音楽のような厚みのある音楽を作っている感じです。
![](https://assets.st-note.com/img/1734344620-WuNXpT02FSjylnswRJiK9C8v.jpg?width=1200)
ピアノはハンマーが弦を叩くことによって発音される楽器ですが、弦楽器や管楽器が音を奏でるのにハンマーを叩くという原理は存在しません。いかに叩く音を殺せるか、想定される楽器を奏するにふさわしい呼吸ができているか、などを考えます。
単に音を出すという点においては、ピアノほどたやすい楽器は他にありません。
どんな音域でもニュートラルに音を出せるということは弊害でもあります。
たとえば同じ金管楽器でも、トランペットが出しやすい音域がトロンボーンには決死の思いで吹かなければならない音域だったりします(笑)
そのニュアンスを持って弾かないと、なんでもない音楽になってしまいます。
これは別にオケを再現する場合に限った話ではなくて、鍵盤楽器のために書かれた作品を弾く際にも同じことが言えるでしょう。
オケあるいは人の声やことばを想定したり、アイデアを拝借したりするのはすごく大事なことだと思います。
A:
三好さんがピアノを始めたきっかけや、コレペティや伴奏ピアニストという役割に関心が向いた経緯についても詳しく伺いたいです。
三好:
まず、ピアノを始めたきっかけですね。母がエレクトーンの講師をやっていたのでエレクトーンは早いうちからおもちゃでしたし、「音楽をやる」というのを小さい頃から疑っていませんでした。むしろ、自分と同じように全国民が音楽をやっていると思っていました(笑)
初めは3歳児向けの教室や幼児科と呼ばれる音楽に必要な基礎を楽しく学ぶ場所に通っていました。
ピアノのレッスンという形で習い始めたのは5歳の時でしたが、小学校3年の時先生が変わり、しっかり専門的なことも学びだしたので、そこから音楽を始めたという感覚があります。
また、カリキュラム上グループレッスンというものが存在し、そこで皆とアンサンブルをする機会がありました。
エレクトーンという楽器には元々備え付けの音色が存在するのですが、オーケストラの作品を本来より少ない人数で演奏しようと思うと音色を作ったり、レジストを組んだりする必要があります。それが楽しかったんですね。(笑)
エレクトーンの講師をしていた私の母親が、みんなのストリングスやフルートの音を作っていたのですが、途中から私が「お母さんその音違う!」などと言い出して、「じゃあやってみなさい」という流れになりました(笑)。それで私がクラスのみんなの音を作ったり、下級生のクラスについても音を作るようになりました。
当時、音を作るのは面白いなとも思ったし、アンサンブルの次はエレクトーンで同じことをソロで挑戦してみたり、自作曲をピアノで自演したり、もっと言うとコンチェルトを作ったり...と続けていきました。
思えばその流れが、色んな音を弾こうとする原点ですね。
そういう流れで作曲科で東京音大に入りました。学部のはじめの頃、同級生から「30分後に声楽のレッスンがあるけど、ピアニストの知り合いがいないから伴奏して!」と言われて...実はそれがオペラの世界との出会いです。
大学院の時にはもともと習っていた先生に戻って色々吸収したくて、東京音大の伴奏科に入りました。在学中は室内楽分野について学ぶとともに、コレペティの先生にも師事しました。
大学院修了後は、伴奏研究員として引き続き3年間大学でレッスンや授業伴奏を務めました。
そうして在籍しながらマスタークラスなどを受講していましたが、研究員の任期が終わる頃にいただいたお話はそれまでとはまったくジャンルの異なる合唱のお仕事でした。
その時出会った合唱団には今もお世話になっていますし、その後の現場も合唱団が多いです。合唱畑にどっぷりと浸かっているかと言われたらそういうわけでもないんですけどね。
ただ、和声的な旨みとなる音を弾いて示したり、言葉のイントネーションを伝達するように弾き真似したりするのは楽しいですし、バッハを中心に作品を取り上げる合唱団などでは普通に平均律などの独奏曲がいつでも弾けるような鍛錬でもしていないとパッとは弾けないものなので、そういった意味でも鍛えられているなと感じますし、自分の学んできたことから大きく外れず自然な流れで生かされているなと思います。
ここ数年はオペラの現場に入る機会も徐々に増えてきていますが、現場に入るピアニストとしての役割も大きく異なります。最近ではプロンプターといって、歌手に次のセリフを示すための役割など様々なスタッフ業務を学んでいます。日々勉強ですね。
![](https://assets.st-note.com/img/1734338534-Z2faYsKJFlTVcQPWN3bw1ouR.jpg?width=1200)
「譜めくりの要らない楽譜」を見せていただきました!
伴奏音形がほとんど止むことのないワルツのリズムでピアニストが譜めくりをするのは至難の業で、極力めくる回数を少なくしたいんだそうです。 ピアノメーカーによっても譜面台の幅が異なるようで、一度に広げられる枚数・用紙のサイズ・演奏上支障がない音符のサイズなどあらゆる観点から自分にとっての最善を導き出すとのこと。
A:
そうだったんですね。では三好さんは今後、どのように音楽に携わっていきたいですか?
三好:
今までの自分のキャリアが色々散らかっていましたが、統一されてきていると感じます。いただいたご縁を大切にしつつ、挑戦も続けてゆきたいです。
…ゆくゆくは、日本語のテキストでオペラを書けたらなと思っています。誰のところでいつやるかはまだわかりません。積み上げるべきこともあるので、いますぐの話ではないです。
とにかくコレペティとしてのスキルアップは急務なので。こればっかりは自分のペースとはいきませんし。
いつかは分業化されて演奏される界隈が限定されてしまっている作品の普及にも取り組みたいです。今はまだあまり深くは話せないのですが、師匠のある一言に触発されまして。
人生を振り返ってみると「ちょっとやってみたら」とか「やってみない?」というのは自分の道を開く魔法の言葉だったと思います。
同じことをやるのでも、そう言われたことの方がが得意になっているし、そういってくれた人とは長く関係が続いています。
また、音楽畑出身じゃない人と一緒にやりたいな、と思うこともあります。
たとえば他の人に対して、自分がどういうハーモニーを感じるか。こういう色を感じています、というのが伝わったり、可視化されたらいいなと前から思っていて。面白い人と出会いたいですね!
A:
今の三好さんの色々な活動が、まさに「いつかやってみる」ということに繋がっていくかもしれませんね。
では最後に、演奏会にいらしてくださる方に向かってメッセージをお願いします。
三好:
私の言っていることはなんだかややこしいってよく言われるんですが(笑)今回は難しく考えなくても聴けるコンサートとして、関わる全員で作っています。
でももう一歩踏み込んで、なぜどんな意図でこのコンサートが存在するのか思いを馳せてみると、一層深い段階で楽しんでいただけると思います。いろんな立場から、それぞれの思う観点で見ていただきたいです。
曲を準備すればするほど、テーマに一貫性があるなと思います。小さな愛や素朴な祈りこそ平和に繋がります。...そういった思いや、願いや、メッセージをぜひ受け取っていただければ幸いです。
A:
たくさんの方に聞いていただきたいですね。本日はありがとうございました!!
*
(*1)コレペティトゥア
主にオペラの現場において作品の原作や舞台背景・テキストを把握し、ピアノでオーケストラパートを弾いたり、歌手にとって手助けとなる必要な音を補ったりすることで稽古をつける稽古ピアニスト、本番指揮者と打ち合わせした通りの音楽作りを伝達し稽古を進めたり、舞台裏など本番指揮者が見えづらい環境にいるキャストや音楽スタッフに対してキュー出しとして棒を振ったりする副指揮などを業務の中心とする音楽スタッフの呼称。
稽古ピアニストは本番時にチェンバロやチェレスタなどの鍵盤楽器を演奏することも少なくない。
本番指揮者や演出家の求めるものを把握し、本番指揮者が稽古場に入るまでの間に表現のニュアンスや間合いなど細部に至るまで歌手たちに共有することが求められるが、日本には専用劇場が少なくこのように機能しているかは現場によって異なる。
指揮・声楽・ピアノなど多角的な知識や技術が求められるため、いずれかの分野出身の者が目指すことが多い。
各言語によって、コレペティトール・コレペティツィオン等の呼称もある。
(*2)ホフマンによる原作ではマリー、ワイノーネン版の原台本ではクララの名が採用されています。筋書き自体も異なるので、ここでは割愛しますがご興味のある方はぜひ調べてみてください!
(*3)オーケストラの配置について
オーケストラの配置は、時代によって編成や人数が異なり、広さによって配置が変わります。今回掲載した内容は一例として挙げております。
***
〜寒い冬を祝祭によって乗り越えてきた ヨーロッパの人々の願いと祈りの調べ。〜
「WINTER FESTIVALS CONCERT 冬の祝祭コンサート」
「冬至のヨーロッパの祝祭」をテーマにしたコンサート。西欧のみならず、東欧や北欧などの世俗的な音楽、またそれを取り巻く詩について解説しながら、演奏を行います。
長く冷たい冬を越えるためのヨーロッパの人々の思いを分かち合い、遠く近い国々に思いを馳せましょう。
日時: 2024年12月18日(水) 18:00開場/18:30開演
場所: スタジオ ヴィルトゥオージ
(〒169-0073 東京都新宿区百人町2-16-17 B1)
<JR大久保・新大久保駅より徒歩5分>
出演:
金沢貴恵 (ソプラノ)
三好すみれ (ピアノ)
松谷萌江 (ヴァイオリン)
Program:
-マリアの子守歌(M. レーガー)
-朝の歌 / 夜の歌(E. エルガー)
-花のワルツ(P. チャイコフスキー)
-O holy night(A. アダン)
-シオンの娘よ、大いに喜べ(G. ヘンデル)
-荒野の果てに(フランス伝承曲)
-Carol of the Bells “Shchedryk”(ウクライナ伝承曲)
-歌いながら生まれ、歌いながら育った(ラトヴィア伝承曲)
-いまクリスマスは雪の門のそばに立って/
さあクリスマスがやってくる/
外は暗くなり/
私は栄誉を求めない/
積雪はうず高く
(J. シベリウス)
ほか
※内容は予告なく変更の場合がございます。予めご了承ください。
チケット代金: ¥3500 (当日券は+¥500)
ご予約:
https://www.quartet-online.net/ticket/wfc/
または、tktsjae★gmail.comまでお問い合わせください。(送信時は★を@に)
※全席自由
WEBページ:
出演者プロフィール:
金沢貴恵 (ソプラノ)
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。アントン・ブルックナー音楽大学大学院修士課程声楽専攻修了。
2014年国際声楽コンクール《コンペティツィオーネ・デッロペラ》ファイナリスト。これまでに《セヴィリアの理髪師》ロジーナ役、《フィガロの結婚》スザンナ役、《セルセ》ロミルダ役、《劇場支配人》コロラトゥーラ歌手役、《愛の妙薬》アディーナ役、《天国と地獄》ユリディス役で出演。
現在、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程在籍中。
三好すみれ (ピアノ)
東京音楽大学及び同大学院を経て同ピアノ伴奏研究員を務める
平成29年度文化庁委託事業『次代の文化を創造する新進芸術家育成事業 マリエッラ・ デヴィーアによる新進歌手とコレペティトゥアのためのワークショップ』修了
河原忠之氏主宰『Gruppo Kappa』第3~6期メンバー 本番ピアニストや音楽スタッフ、コレペティトゥアとして数々のオペラ団体や合唱団に携わる
横浜合唱協会および黒澤麻美ロシア声楽曲研究会ピアニスト
松谷萌江 (ヴァイオリン)
東京音楽大学卒業。5歳よりヴァイオリンを始め、これまでに磯部夕佳里、松宮麻希子、松原勝也、景山誠治、齋藤真知亜の各氏に師事。室内楽を齋藤真知亜、百武由紀、山口裕之、横山俊朗の各氏に師事。認定NPO法人 トリトン・アーツ・ネットワーク「2018年度アウトリーチセミナー」に参加。現在、洗足学園音楽大学演奏補助要員や、音楽教室等のヴァイオリン講師を務める他、室内楽やオーケストラを中心に演奏活動を展開している。
主催・お問合せ:
(一社)ジャパンエンターテイメント東京
企画: JET音楽研究会
TEL: 050-5359-1554
MAIL: tktsjae★gmail.com(送信時は★を@に)
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