見出し画像

一貫して船舶業界で走り続けてきた徒然ではない私の徒然草

はじめに

2023年10月より、JDSC DXソリューション事業部に入社しました横田です。前職では、大手銀行で主に船舶ファイナンスを扱ってきました。

普段あまり見かけることのない船舶関連の仕事の魅力や大企業とベンチャーの違い、私なりの考えや今後の展望についてなど、少しでもお伝えできたらと思い、今回こうして書かせていただく機会をもらいました。


船の研究をしていた学生が銀行に入社するまで

東京大学大学院でシステム創成学を専攻し、船舶の研究をしていました。ちょうどリーマンショックの前後で海運マーケットも好況から一気に不況に転換した時期で、将来の好不況を予測して船を安いタイミングで買って高いタイミングで売れないか?という相場師のような研究や、2030年に造る環境対応船のコンセプトについて、海運会社と共同で研究を行っていました。

就職については、当時リーマンショック後だったので実は海運会社にはほとんど興味がなく、でも大きなお金が動くビジネスというのは魅力的に思っていました。

当時、NHKでやっていた「ハゲタカ」というドラマが結構好きで、メガバンクを辞めた銀行員が外資系金融に転職し海外のビジネスに揉まれて成長して日本に帰り、不況に苦しむ企業を買収しまくる、みたいなドラマなのですが、やっぱりカネを持っていると不景気にも強い、大きなお金を動かすって魅力的ということで、銀行業に興味が湧き、三井住友銀行に入行しました。

倍返しできない銀行員

この頃やっていた「半沢直樹」という銀行のドラマは、実は見ていないので詳しくは比較して話せないですが、作者が三菱銀行出身の人なんですよね。銀行でたまにあるパワハラ上司とか合併のギクシャクとかの事例などを集めてドラマ仕立てにして最後に倍返しで視聴者が気持ちよくなる、みたいなドラマだと思っていますが、現実は倍返しも無ければ、ドラマになるような話も起きていないはずです。

ただ、作中で不良債権が何百億とかそういう話があったと思うのですが、船舶ファイナンスも1隻数十~百数十億の船で百隻単位なので合計していくと数千億とかそういった融資額です。

私は3年目から船舶ファイナンス室に在籍していましたが、入ったときはリーマンショック後の不況と円高のダブルパンチで結構な金額がこのままだと返ってこないかもしれない、みたいな状況で、そういう完全に「冬の時代」に船舶ファイナンスを経験しました。

船舶ファイナンスで経験したこと

船舶ファイナンスについても簡単に説明しようと思います。日本の貿易の99%は船で運ばれているのですが、海運会社に対して船を貸している船の持ち主が船主(せんしゅ)です。

船舶ファイナンスでは船主に対して、船を貸す契約などを見ながらお金を貸しています。不動産とかも中に入っているテナントや借主などの信用力を見て貸していますが、船の場合はそれ自体が動いてしまうので、英語で契約書を作って、担保を外国で設定したり、そもそも貸船料(傭船料って言います)もドルで契約されることが多い、グローバルな環境です。

一方で船主は瀬戸内海あたりの、家族経営の会社が多いです。一見民家のような建物(実際に民家だったりもする)ですが実は色んな銀行から何百億も借りている、みたいな不思議な世界です。

実は銀行の中で船舶ファイナンスというのは結構特殊、というのも船は竣工して15年とか動くため、契約して竣工して、期中返済していって、最後に売船して完済する、というのを1隻通して全て経験することは時間軸が長く、転勤などがあるとノウハウが蓄積しにくいので、船舶案件を集約してチームとして知見を持つ、ということをしています。

そのためAという船は竣工だけ立ち会った、Bという船は返済に関わった、なので今後Cという船が出てきたらどうする、という形で他の船での経験を活かしていくんですよね。銀行では3~5年で転勤するのが一般的ですが、船舶関係の部署には専門性を高めていく過程で長く在籍する人も多く、私も結果的には10年以上在籍しました。

私はどちらかというと管理系の仕事を中心に担当していました。例えば事業再生に関連して船を売ったり、返済計画を見直したりといったことをお客さまと交渉したり、お客さまがどのような船を持っていて、その船が将来どのように収益を出していくのかを予測しつつ、さらに今後どのような船を入れていくべきかなどを話したりしながら、銀行として支援ができるか判断します。

また、内部的には分析をもとに「どのくらいの確率で貸金が返ってくるのか」というのを預金者、もしくは当局にも説明できなければいけません。その判断におけるルール作りをしたり、必要に応じて金融庁にそのルールが適切か、というのも説明していく必要があります。

本部で仕事をしていたこともあり、自身で考えたルールが採用され、それによって銀行として船に貸していけるという態勢に大きく影響したりと、中枢に近いところで仕事ができたことには非常にやりがいを感じました。

海外勤務には興味がなかったのですが、2015年から2年間は、パリに赴任もしていました。パリでも船舶ファイナンスの部隊に所属し、こちらでは主にLNGやクルーズ客船といった大きめの船が中心で、お客さまも大きな会社が中心になります。クルーズ船になると数千億円といった規模になるので当然1つの銀行では貸さず、シンジケーションと言って複数の銀行で分担しながら貸すという形が多かったです。

大きな取引という点では、一部夢が実現したのかもしれません。

結局、日々の入出金から、貸金を実行したり売船等で返済となる案件の対応などの融資にまつわる業務、新商品のルール作りや途中2年間の海外経験、帰国後も規制やマネロンといった金融庁とのやり取りを伴う融資に関連したルール作りなど、一通りの経験を積ませていただきました。

配属直後の「冬の時代」から、コロナ後にはコンテナ船などの空前の好況を経験することになり、両極端を経験できたのは自分の中でも財産と言えると思います。

銀行での仕事については一区切りとし、ここで改めて自分のしたいことを考えてみたわけです。

横田 季和

なぜJDSCを選んだか

大学・大学院の研究室で、現在のJDSC社外取締役の田中謙司先生の助手をしていたことがきっかけです。

2019年頃に田中先生から「船舶の業界について聞きたいという人がいる」と紹介されたのがJDSC代表の加藤でした。

その時は船舶業界の特殊性や、データ収集を進めていくとどのようなビジネスが生まれるのか、というところのブレストでざっくばらんに話し、その後も定期的にアイデア交換をしたり、興味があったら来てほしいという話も加藤からあったのですが、2022年にseawise社を立ち上げて海事全般に本格的にコミットしていくと聞いたタイミングで、銀行での仕事に一区切りついたこともあり、入社を決意しました。

JDSCは、UPGRADE JAPANを目標に掲げ、AIやデータを使うことで日本を盛り上げようとしているところや、伝統的でAIとはかけ離れた業界である海事業界のギャップをどう埋めていくのか、というところにチャレンジしている点に非常に共感でき、そういった環境に身を置くような冒険精神も必要だと思いました。

船舶業界がAIやデータから離れているという点では、例えば船の通信というのはやっと衛星回線でメールが少しできるかどうかというような状況で、大航海時代から変わらず「ひとたび錨を上げれば全責任は船長にある」という船長が全権を握っているような体制ですし、大学でも造船工学は不人気といわれる学科で、別の学科とも統合されており、海事業界全般で専門家不足に悩まされています。

トラックやバスの2024年問題というのはよく言われていますが、船はより早く人材不足の問題にも直面しています。

また、金融機関出身の観点からいえば、船の価値というものがボラティリティの大きい世界であるため、海運業界に慣れた人しか投資家が入れない世界になってしまっているというのも問題点かと思っています。

1日3万ドルで借りられていたはずの船が足りなくなって一気に1日70万ドルになったり、逆に船が余ると5000ドルにまで引き下がることや、コンテナ船も一時期は鉄くず以下の値段で取引されていましたが、5年後くらいに船が不足すると中古船でもその船が新造船の時以上の値段に跳ね上がったりと、正直なところ「一体この船は実際幾ら稼げるんだ」と思ってしまうような状況がここ10年でも平気で起こっています。

そういえばこの鉄くず以下の時代に1隻5億円の中古のコンテナ船を、仮に借金してでも買っていたら60億円超えたので即FIREですね・・・まあ5億円ポンと貸してくれる人は居ないんですが(笑)。

冗談は半分にして(半分でも30億・・・)、今後世界中でGDPが増えていくと船も必然的に増えていきますし、船の価値を上げたり維持する投資が必要になっていくモノだと思っています。今まで扱い切れなかった、数万にも及ぶ船自体のデータや荷動きのデータとAIを用いてどの船がどのような状態で将来を迎えるのかという予測や、将来まで含めて荷物の動きを追いかけていくことができれば、需給バランスを長期で予想する事にもつながります。

情報が集まってくる環境が整えば、証券市場のような形で新しく荷物と資金を紐づける環境が整い、より広い範囲で人とお金を集められる業界にしていけるのではないか、登場人物が増えればリスクヘッジする手段も増え、ボラティリティも収まって投機的な市場からより持続可能な市場になるとも考えており、その中でデータを握っていることにも価値が出てくる、と個人的には考えています。

JDSCに入社して実際どうか

現在、私は物流ユニットの海運チームに所属し、seawise社の取り扱う海事データプラットフォームに関連するプロジェクトに従事しています。チームのメンバーもコンサル、エンジニア、データサイエンティスト、海運会社などそれぞれ第一線でやってこられた人が多く、多様なメンバーがそろっています。

造船会社や船主さんと話をすることで、どのように予測結果を用いるのか、そのためにはどんなデータが見れると嬉しいのかなど、より実務に近いところのデータ収集について利用者目線に立って検討し、データの蓄積とそこからAIを元にして様々な予測をするツールの開発部隊と円滑に意思疎通をしながら、お客さまに最適なサービスが提供できるよう日々取り組んでいます。

長年経験してきたファイナンサーとしての目線も含め、新しい考えを取り入れられたらと思っていますが、まずは癖の強い海運業界の登場人物の考え方をチームに共有していければと思っています(笑)。

JDSCの面白いところは、気づいたところを遠慮なく話してくれたり、さりげない問いかけにも皆さん応えてくれるので、色々な参考になる意見を取り込めるのが良いですね。

打ち合わせの場でも共有シートで記録をし、アクセス権のある社員全員が閲覧できるように記録を残す文化があったりと、誰もが後から検索したり参照できる形で残しているというのも良い点だと思っています。

オープンな環境ですので、他の人がやっているプロジェクトの内容なども参考にして活かしていけるというのは非常に良いですね。

ワークライフバランスに関しては、私は独身なので別の方のnoteを読んでいただけるとありがたいのですが、福利厚生という点だと飲み物やお菓子が自由に取れたり、スポーツジムの補助が一部出たりというのは、銀行では無かったタイプの福利厚生で、面白い取り組みだと思っています。

福利厚生というとやはり大企業の方が金額面では大きいのかもしれないですが、JDSCでは職場に通うモチベーションが上がるような仕組みづくり、という形で福利厚生制度が設定されているので、積極的に活用しています。

東京ドームシティのスパラクーアが近いのでラクーアのジムに通ってみていますが、温泉にも入れるので筋トレも続けられています。
まだ3週間ですが(笑)。

おわりに

結構当社のnoteを書いている人は文献などを引用している人が多く、皆さん教養も高くて、私は曹操の「短歌行」くらいしか知らず・・・あれは「人生酒しかない」みたいな詩なんでとてもこの場には相応しくないので、慌てて探してきたのですが、徒然草(これなら文句ないでしょう)の150段で芸事を習う際の話でこんな文章がありました。

未だ堅固かたほなるより、上手の中に交りて、毀り笑はるゝにも恥ぢず、つれなく過ぎて嗜む人、天性、その骨なけれども、道になづまず、濫りにせずして、年を送れば、堪能の嗜まざるよりは、終に上手の位に至り、徳たけ、人に許されて、双なき名を得る事なり
(徒然草より)

「未熟な人でも上手な人たちに混じって笑われても恥ずかしがらず研鑽していけば、そのうちその道のプロとなり徳も名も備わってくる」といった話です。

私も船や金融の世界で素人だったところから15年間揉まれて成長してきましたが、JDSCに加わり、AI素人の私でも恥ずかしがらずに改めて研鑽を重ねていきたい、と考えているところです。

周りの環境というのは自分で選択していくものだと思っていますし、逆に自分自身も船のスペシャリストとして周囲に好影響を与えられたらと思っています。

まあ徒然草は直後の151段で「50歳になっても身につかないような芸は止めた方がよい」なんて書いてあるんですがね・・・兼好法師の時代は50歳で隠居するのは普通でしょうし、FIREせいって言われてるのだと好意的に受け止めましょう。まあ兼好法師自身は30歳で出家していますけど。強い。

文才も無いのでつらつらと書いてしまいましたが・・・少しでも船の世界に興味を持ってもらえると嬉しいと思っていますし、一緒に働いていけるメンバーが増えたらより良いなと思っています。

船に限らず色々なポジションを募集中なので、少しでも興味をお持ちいただけたら、ぜひ当社の採用ページを覗いてみてください。

いいなと思ったら応援しよう!