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海外動向 9/11〜9/17

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

米国ではComcastやCharterといったケーブル事業者が「攻め」の事業戦略を打ち出し、着々と動いています。過去、主役とも位置付けられていた多チャンネルサービスは重点事業から外れ始めており、固定ネットやモバイル、配信サービスへシフトしているようです。英国で打ち出される独自のブロードバンド政策も興味深いものです。消費者の自由度を高め、結果的にブロードバンド事業者の競争を促しています。新しい、より良いサービスが生まれやすくなる土壌を政策で作り、業界を発展させようとする意図が伺えます。

◆ 業界動向

DirecTVがDisneyとのチャンネル契約の更新で合意、放送を再開

9月1日からDirecTVの衛星放送ではDisney系チャンネルの放送が停止していましたが、これが再開されました。両社の争点は、DirecTVが個々のチャンネルを加入者に契約してもらう「アラカルト方式」、対してDisneyは複数のDisney系チャンネルをまとめて契約してもらう「バンドル方式」を主張していたと言われています。気になる交渉の結果ですが、ニュースや両社から出されているリリースを読む限り、アラカルト方式とバンドル方式の両方を加入者に提示し選べるようにするようです。

また、この契約によりDirecTVはDisneyが2025年秋に計画しているESPNのDTCサービス「ESPN+」を加入者が追加料金なしで利用できる権利を得ています。

ComcastのCFO、固定ネットではFTTHがライバル、モバイルとのバンドル販売は効果的

「Citi Global TMT Conference」で講演しています。Comcastは固定ネット、モバイル、法人向けサービス、テーマパーク、配信サービス(Peacock)、映画・放送の6つを主要事業と定義しています。主要事業の売上は1桁台半ばから後半(5〜9%程度)で成長しておりComcast全体の60%を占めているが、数年後には80%になると予想しています。主要事業の一つである固定ネットは競争が激しいものの、今後も継続して投資を行うと発言。今後、固定ネットが高速化しトラフィックが増えていってもComcastのインフラであれば余裕を持って対応できる点をアピール。逆にFWAやモバイル(5G)は「いつまで対応できるのか」と、いずれ限界が来ると示唆しています。一方、FTTHは長期的な競争相手になると位置付け、打ち勝っていくためにはよりユーザーエクスペリエンスの高い、つまり信頼性が高い固定ネットサービスを提供していくことが鍵となる。加えてモバイルと固定ネットをバンドルすることで、売上も増え、固定ネットを守ることにもつながる。現在、固定ネット加入者でモバイルも契約しているのは12%となっており、これを増やすことに注力しているということです。

CharterのCEO、AIへの積極的な投資姿勢をアピール

「Goldman Sachs investor conference」で講演しています。AIは現実的なソリューションであり、すでに積極的な投資をしていることをアピール。具体例としてカスタマーサポートやエンジニアのスキル向上や補填をAIで行なっていること。社員の育成を短期間で行うのにAIは有効だということです。コスト面でも影響があると述べ、「いつになるかは予測できないが、すでに起こり始めている。それはとても大きな劇的なステップになる」と気になる発言を行なっています。具体的に何を意図した発言なのかは明らかにしていません。

Charter、一部テレビプラン加入者のMaxとDiscovery+を無料化

対象となるプランはSpectrum TV Selectです。MaxにはHBOの番組が含まれます。HBOの番組が無料のバンドルで提供されるのは初めてということです。Charterは大きくテレビ加入者を減らしており、ワーナーも来年からNBAの放映権を失う可能性が高いという両社、負い目のある状況下で複数年の更新契約を締結。これにより無料化が実現しています。

ワーナーのCEO、Maxの加入者を第3四半期に600万増やすと発言

「Goldman Sachs investor conference」での発言です。第2四半期に360万の加入者を増やしており、現在は1億330万世帯となっています。600万の大半は国際市場からの獲得を見込んでいるようです。Maxは65の国際市場(国や地域)でサービスを開始していますが、オーストラリア、日本、英国、ドイツ、イタリアなど世界の半分以上ではまだ提供していません。今後18ヶ月から24ヶ月の間にこれらの市場に参入する計画です。

Comcastの技術会社がAMCの配信システムを受注

CTS(Comcast Technology Solutions)がAMCと複数年契約を締結しています。受注したシステムはチャンネルやVODなどの配信、コンテンツ管理などを行うもので、北米・南米向けにAMCが展開する配信サービスで使用されます。

VodafoneがモデムのソフトウェアにRDK-Bを採用

Comcastなどのケーブル事業者が中心となって開発しているソフトウェア「RDK(Reference Design Kit)」はモデム向けのRDK-B、STB向けのRDK-Vといったさまざまなバリエーションがあります。内蔵ソフトウェアをRDK-Bにすることで、ベンダーが開発・製造するモデムのハードウェアとソフトウェアを分離でき、事業者が自由に内蔵ソフトウェアを変更できるようになります。またRDK対応のモデムは多くのベンダーが製品化しており、モデム(ハードウェア)の選択肢が増えるというメリットもあります。

ComcastのTV加入者の87%がパリ五輪を視聴

2021年の東京五輪と比較して視聴者数は82%増加、五輪の開催中は全視聴時間の20%を占めたということです。

メガスポーツアライアンスVenuの独占禁止法裁判が来年の10月に設定

Disney、Fox、ワーナーが設立したVenuに対しFuboが独占禁止法で訴えているものです。Venuのサービス開始を阻止する仮処分申請が8月16日に認められており、もともとVenu側が計画していた今秋のサービス開始が行えない状況です。来年の10月というのは随分と先になってしまいますので、Venu側は、まずはこの仮処分の解除を求めています。

◆ 業界再編(M&A)

米国の2大衛星放送事業者DirecTVとDishが合併?

両社が初期段階の交渉を進めていると一部メディアで報道されています。DirecTVは「噂にはコメントしない」、Dishはコメントを出していません。両社は2002年にも合併を試みましたが司法省により阻止されています。仮に合併した場合、加入者1600万世帯の米国最大の多チャンネル事業者となります。

◆ 規制・政策

英国政府、一般家庭でFTTH事業者の切り替えを容易にする仕組みを制度化

FTTH事業者の流動性を高め、より競争力を高めるための政策です。OTS(One Touch Switching)プロセスと呼んでいます。これまで一般家庭でFTTH事業者を切り替える場合、新旧の事業者に連絡し切り替え日などを調整する必要がありました。その結果、ネットが使えない期間が生じたり、新旧両方の料金が発生してしまうことがあり、手続きが煩雑であることも加わって事業者の切り替えを躊躇する要因になっていました。OTS導入により切り替える新事業者にのみ連絡をすればよくなります。ネットが使えない期間は1日未満が求められ、また旧(現)事業者は切り替えまでネットサービスの提供が求められるとともに、切り替え完了後は契約を自動的に終了させることが求められます。もし事業者の切り替えに失敗した場合、旧事業者が切り替え完了までネットサービスを維持するといったルールもあるようです。

欧州中央銀行の前総裁、EU域内での通信事業者の合併を促す

前イタリア首相でもあるMario Draghi氏がレポート「The future of European competitiveness」(ヨーロッパの競争力の未来)で述べています。世界におけるヨーロッパの競争力をいかに強化していくかをDraghi氏の視点でまとめたものです。世界で勝ち残っていくためには事業規模が重要であり、EUの規制当局は不要な合併阻止などは行うべきではないとしています。

◆ メディア

米国ではテレビで地上波放送だけを見ている人はわずか4%まで減少

Inscapeによる第2四半期の調査によるものです。配信サービスだけを見ている人は60%、配信サービスや地上波放送、ケーブルの多チャンネルなど複数の放送・配信サービスを見ている人は36%という結果です。前年同期は地上波だけは8%、配信サービスだけは50%、複数は42%でした。テレビでの視聴が配信サービスに急速にシフトしている状況が伺えます。

米国のAmazonチャンネルは趣味性の高いSVODの受け皿に

Antennaによる第2四半期末時点での調査結果です。趣味性の高いSVODに加入したことがあると答えた人はAmazonチャンネルだと56%に上り、2位のiTunes 17%を大きく上回っています。Antennaは、Amazonというユーザーの多いプラットフォームに入ることで発見されやすくなったためと分析しています。またAmazonチャンネルでこういったSVODに加入した場合、解約率が低いというデータもあるようです。なお、趣味性の高いSVODに加入する人は2/3が一つだけ、19%が2つ、3つは8%、4つ以上は6%と、文字通り特定の趣味だけに興味を示すユーザーが絞り込んで加入している傾向が明らかになっています。

原文ではspecialty(専門性)と書かれていますが趣味性と訳しています。また、対象のSVODにはCrunchyrollやBBC Select、MGM+といった日本ではどちらかといえば一般的と思われるものが含まれています。

生成AIによって作られたスポーツニュースは的外れでつまらない!?

ESPNは生成AIを使用して記事やダイジェスト映像を作成しています。これが一部の視聴者から的外れだと言われているようです。人間が感じる重要なシーンが含まれていないという指摘です。ただ、これはすでに生成AIの使用が試験的なものではなく、通常の業務に取り込まれて提供されるようになった結果かと思われます。ESPNは、生成AIの適用範囲を今後も拡大していくとしています。

英国、ネットニュースがテレビニュースの利用率を上回る

Ofcom(英国情報通信庁、Office of Communications)による調査レポート「News consumption in the UK(英国におけるニュース利用)」では、ネットニュースの利用率が71%となり、TVニュースの70%をわずかですが上回りました。利用するニュースでもっとも利用率が高いのはBBC ONE(TV)で43%ですが、2023年の49%から下がっています。ネットニュースではFacebookの30%が最多で、YouTube 19%、Instagram 18%、X(Twitter) 15%と続きます。ネットニュースは若者層ほど利用率が高く16〜24歳だと88%です。ただ高齢層も伸びており55歳以上だと2018年は45%でしたが、2024年には54%となっています。

英国のBBC iPlayer、1年間で利用者が10%増加、視聴回数はNetflixの2倍

2023年夏との比較です。開発したBBCは、英国でもっとも成長している配信プラットフォームであり、グローバルな配信プラットフォームや英国内の競合を上回っていると述べています。

配信サービスのヘビーユーザーほど映画館に通う頻度が高い

RokuとNRG(National Research Group)による調査結果です。配信サービス利用者の61%は過去半年に少なくとも2回以上映画館で映画を観ていました。また週に20時間以上、配信サービスを利用するヘビーユーザーの32%が毎月映画館に行くと回答しています。

◆ インフラ

AT&TがFTTH事業を拡大、4社と提携しホームパスは3000万世帯へ

FTTHを提供可能な世帯、いわゆるホームパスは現在2800万世帯、加入者は880万世帯です。積極的なFTTH網の建設を進め、2025年末にはこれを3000万世帯に増やすとともに、新たにFTTH事業を展開する4社との提携を発表しました。この4社はAT&TのFTTH網が敷設されていないエリアでFTTHの卸販売を行なっており、提携によりこれらのエリアでのFTTH網建設と販売促進を狙っているようです。米国のモバイル事業者であるAT&T、Verizon、T-MobileはいずれもFTTH事業の拡大を図っており、ComcastやCharterといったケーブル事業者と真っ向から対決しています。

米国のモバイルトラフィック、2023年は2021年より89%の増加

米国モバイルの業界団体CTIA(Cellular Telecommunications and Internet Association)が「2024 Annual Wireless Industry Survey」(2024年モバイル業界調査)で述べています。2023年の1年間、米国におけるモバイルのトラフィックは100兆1000億MBとなり、トラフィックの増加傾向は衰えていないということです。5Gのシェアは前年比で34%増加したものの過半数に届かず40%となっています。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

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