海外メディア・通信業界動向 11/13〜11/19
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
John MaloneのLibertyが北米のケーブル事業から撤退。そんな衝撃的な出来事が起こりました。John Maloneといえば、ComcastのRoberts家と並び、ケーブル事業をゼロから作り上げた大御所ともいえる存在です。多くのケーブル事業者やメディア企業を直接・間接的に保有しています。米国で広大な土地を所有していることでも有名で、そこに牧場があることから「Cable cowboy」とも呼ばれていました。そんなLibertyが保有するケーブル事業者CharterとGCIが売却されます。Malone氏は個人株主ではあり続けるものの一連の動きがさまざまな憶測を呼んでいます。
◆ 業界再編(M&A)
Charterが親会社であるLiberty Broadbandを買収、独立へ
買収はLiberty Broadband(LB)の普通株式1株をCharterの普通株式0.236株、LBの優先株式1株をCharterの優先株式1株と交換することで行われます。LBは、このほかアラスカ最大のケーブル事業者GCIの全株式を保有していますが、これは買収前にLB株主に分配という形でスピンオフされます。LB買収によりLB株式保有者にCharterの3400万株が発行されますが、LBが現在保有しているCharterの4560万株が消却されるためCharterの発行済み株式総数は1150万株減少します。消却する株式は、買収プロセスの期間にCharterが毎月1億ドル買い戻すことによって行われます。またLBの債務26億ドルは買収前に返済、もしくはCharterが引き受ける予定です。一連の買収プロセスは2027年6月30日の完了を見込んでいます。
ケーブル業界の大御所John Malone氏がComcastとCharterの合併に言及
Liberty Mediaの会長John Malone氏、Liberty GlobalのCEO、Mike Fries氏もリモートで参加した国際会議での発言です。大規模な合併・買収に厳しい姿勢を見せてきた米国連邦政府の姿勢が大きく変わると予測されることから「可能性が出てきた」といった発言をしたようです。Comcastは2014年にTime Warnerの買収を試みましたが規制当局の承認が得られず断念しています。なおTime Warnerは、その後、Charterが買収しています。今回、ComcastとCharterとの合併に言及したのは、ビッグテックと呼ばれるAmazon、Google、Appleなどとの競合を意識してのものです。ビックテックは事実上の独占企業であり、サービス展開にあたりネットのインフラ費用を負担しておらず、資金力に物を言わせてスポーツ放映権の取得に動いている。これに対抗するには合併で巨大化する必要があるという考えのようです。
John Malone氏、Libertyの次なる展開は「メディア事業ではないかもしれない」
CNBCの生放送でのインタビューで発言しています。「いくつかの改革を加えることで次世代のLibertyを構築できるのではないか。それはメディア事業ではないかもしれない」というものです。その一方、「F1への傾倒がカギ」とも。Moto GPに加えてさらに他のレースも機会があれば買い手になる可能性を示唆しています。気になる放送の将来については「最初は(放送と配信の)ハイブリッド型になると思いますが、最終的には配信になるでしょう」とコメントし、「(Libertyが投資しているモータースポーツを含む)スポーツへの投資は、放送・配信の両方のプラットフォームで効果的であり、現在、もっとも(投資に)適していることは明らかです。また、スポーツは放送が存続する上で必要不可欠。(配信では配信先が)全国、もしくは世界規模となり、ローカリズムが失われることを懸念しています」と述べています。
CharterがGCIを買収しなかった理由
Liberty Broadband(LB)はアラスカ最大のケーブル事業者GCIの株式を100%保有しています。CharterによるLB買収が発表されましたが、同時に「買収前にGCIをスピンオフする」とされました。なぜCharterはGCIを買収(吸収)しなかったのかを分析しています。理由として挙げられているのは、規制当局から承認を得るプロセスが大変なこと、アラスカは地理的に離れておりシナジーが得られないこと、そもそも成長市場ではないことです。加えてCharterは第3四半期決算を発表する場で、BEADプログラムに積極的に参加しない意向を示していました。BEADは米国の過疎地域でのブロードバンドインフラ構築への補助プログラムでアラスカも多くのエリアが対象になっています。Charterに投資している投資家はこの姿勢を歓迎しており、これが結果的にGCIを買収しないという判断になったのではないかと分析しています。
米国のケーブル事業者Cox、買収したばかりの法人向けFTTH事業を売却
Coxは法人向けのFTTH事業を展開するSegraを2021年に、Unite Private Networksを2023年に買収しました。これをZiplyに売却します。売却額は明らかにしていません。買収したばかりの会社を短期間で売却する理由は不明ですが、Coxは最近人員削減を行なっています。なおZiplyはベル・カナダに買収されることが決まっています。
DirecTVによるDish買収が破談になる可能性
買収はDishの社債保有者が15億ドルの減額を受け入れることが条件でした。これを一部の保有者が拒否したようです。DirecTVは11月22日までに応じない場合は、買収計画を断念すると発表しています。
◆ インフラ
ボクシングのライブ中継をピーク時6500万世帯が同時視聴、映像が一時不安定に
先週末に行われたジェイク・ポールとマイク・タイソンの試合中継です。世界中で6000万世帯が視聴しピーク時には6500万を記録したということです。これだけの同時接続に耐えられなかったのか、映像が止まってしまったりノイズが表示されるといったトラブルが発生したようです。NetflixはクリスマスにNFLのライブ中継を予定しており、膨大な視聴者数が見込まれることから心配の声が上がっています。
◆ 業界動向
アラスカ最大のケーブル事業者、GCIが多チャンネルサービスを終了
終了は2020年からアナウンスしていましたが、11月8日にアラスカの規制当局にテレビサービスの廃止申請を提出しました。これにより、既存のインフラであるRF(QAM)を使った放送、それにAppleTVやFireTVを使用したIP TVサービスの両方を2025年半ばまでに終了します。多チャンネルサービスの加入者数は明らかにしていません。また、今後はXumoをあっせんし、GCIはネットとモバイルに注力していきます。米国では小規模のケーブル事業者が多チャンネルサービスを終了する動きは昨年から始まっていますが、アラスカ最大、さらにケーブル業界の技術団体であるCableLabsのボードメンバーでもあるGCIまでこの動きが及ぶほど、多チャンネルサービスの状況は深刻なようです。
米国でのスマートTVの普及率は68%に
Parks Associatesが8000世帯のインターネット利用者を対象に調査した結果です。2020年は54%でした。テレビで映像を視聴するためのドングルなどの外部機器の普及率も42%から46%に増加しています。米国ではテレビ、PC、タブレット、スマホなどの視聴デバイスで1週間あたり平均35.6時間の映像を視聴しており、その半分以上の20.4時間はテレビで視聴されているということです。
インフレ化の米国でもスマートTVだけは別? 今の為替でも日本より安い
米国ではスマートTVへの買い替えが進んでおり、そのためか激烈な低価格競争となっています。これがクリスマス商戦前に一段と激しさを増しています。RokuOSを搭載したハイセンスの4K対応50インチテレビが138ドル(約2万円)、TCLの75インチでも378ドル(約5万7000円)です。これよりずっと小さい個人向けサイズだとAmazonのFireTV OSを搭載した32インチが79.99ドル(約1万2000円)とびっくりするような値段です。これらは安い部類に入るモデルですが、ComcastのXumoを搭載したテレビでも55インチが249.99ドル(約3万8000円)、65インチが359.99ドル(約5万4000円)ですので、スマートTVだけはインフレとは無縁のようです。
◆ 新技術
生成AIが視聴しているドラマなどを解析するAnokiのFASTチャンネルにワーナーのコンテンツが登場
一般的なレコメンドはコンテンツのメタデータを使用します。これに対しAnokiの「LiveTV」は生成AI搭載FASTと謳っており、ユーザーが視聴した番組に何が映っているのか、どんなストーリーなのかを生成AIが解析することで嗜好を分析・学習してレコメンドを行います。今回、ワーナー系のコンテンツが追加され26チャンネルが始まりました。FASTはチャンネル数が数百程度となるところが多く、いかに視聴者の嗜好に沿ったレコメンドができるかがポイントになっているようです。
◆ メディア
Disney、DTCサービスの加入者数は前四半期から3%増加し9月末時点で2億3620万人に
第4四半期のDTC(Direct to Consumer)の売上は前年同期比13%増の62億9600万ドル、利益は前年同期は3億8700万ドルの損失でしたが3億2100万ドルのプラスに転じています。通年だと売上は14%増の249億3800万ドル、利益は26億1200万ドルの損失から1億3400万ドルのプラスになっています。成長軌道に乗ったDTC事業とは対照的に放送ネットワークは悪化傾向です。第4四半期だと売上は6%減の24億6000万ドル、利益は38%減の4億8900万ドルとなっています。
Netflix、広告付きプランの月間アクティブユーザーが7000万人に
5月時点では4000万人でしたので大幅に増加しています。広告付きプランを提供している国では新規加入者の50%以上が広告付きを選択しているということです。第3四半期には全世界、全プランで510万の加入者を獲得、総数は2億8270万となりました。Netflixは広告プラットフォームに関してMicrosoftと提携していましたが、5月にそれを解消、独自のプラットフォームを立ち上げています。これを現在カナダで稼働させており、2025年第2四半期までに米国、2025年末までに全世界で稼働させる計画です。
Amazon Prime Videoが米国の配信サービス、人気ランキングで3年連続トップを獲得
Parks Associatesが「Streaming Video Tracker」で計測した9月までの推定加入者数に基づいて順位を決定しています。以前はNetflixがトップでしたが2022年からはPrime Videoがトップの座にいます。今年は3位以降の順位に変動がありました。Disney+が3位に浮上、Huluは4位の転落、またPeacockが初めて5位に入りMaxとParamount+を追い越しています。同社の調査によると全米の88%の世帯が配信サービスを利用しており、42%が広告付きを利用しているということです。
米国でのサブスク型配信サービスへの消費支出、前年同期比26.7%増の119億ドル
Digital Entertainment Groupによる調査結果です。映画館での支出などを含めた映像(エンターテイメント)関連の総支出は130億ドルでしたので、サブスク型配信サービスは全体の91%を占めるまでになっています。
米国の配信サービスに関する視聴者の捉え方を調査
Hub Entertainment Researchが米国の16歳から74歳までのブロードバンド利用者で少なくとも週に1時間テレビを視聴する1602人を対象にした調査レポート「Conquering Content」を公開しています。これによると視聴者は配信サービスのオリジナル作品が減少傾向にあること、またコンテンツが一つではなくいくつかの配信サービスで視聴できることを認識しているということです。また、コンテンツへの満足度は年々向上しており2020年の68%から2024年は79%になりました。ただ、必ずしも最新の番組を見ているわけではなく、しばらく前に始まったものから見始めている人も多い(60%)という結果になっています。おもしろそうなエピソードを見つけたものの、それは実は複数のシーズンを経たものだったということのようです。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
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