海外動向 6/19〜6/25
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
映像視聴が放送から配信へとシフトする流れは変わらないものの、その契約形態には変化の兆しが現れ始めています。もともとNetflixなどの配信サービスはシンプルで低価格を特徴に躍進しました。ですが類似のサービスが多数登場、結果として視聴者は複数のサービスをそれぞれ契約することになり、その管理の煩わしさが顕在化。それを解消できる、ケーブルテレビの特徴でもあったビッグベーシック(バンドル)、オールインワンTVパッケージへ回帰する可能性も感じられます。
◆ 業界動向
米国、有料テレビ加入者の減少が過去最悪のペースで進む、YouTube TVも減少
MoffettNathansonによる分析です。2024年第1四半期は過去最悪となる12.3%の減少を記録。これまで加入者を増やし続けてきたYouTube TVも15万の減少となっています。ただ、主因はスポーツリーグのシーズン終了、ここではNFLが2月に終了した影響が大きいようです。配信サービスは加入・解約が容易ですので、シーズン終了で一旦解約した人が多かったという分析です。なお、現在の米国・有料テレビサービスの約30%を配信サービスが占めていますが、これが2028年までに約50%まで増えると予測しています。
米国におけるテレビ視聴の傾向分析
Hub Intelによる調査レポートです。ケーブルの多チャンネル(放送)や配信サービスなどテレビで映像を見るためのサービスをいくつ併用しているかを調査しており、2024年の集計結果は7.4。2年前の2022年と同じで、これは昨年、2023年には一旦6.4に減っていました。いずれにしろ視聴者は多くのサービスを併用して使い分けている実態がわかります。
また、主要な配信サービスであるNetflix, Amazon Prime Video, Disney+, Hulu, Maxのうち3つ以上を併用している加入者は2021年の40%から2024年は52%と過半数を超えるまでに増加しています。FASTも同様に44%から65%に増加しており、配信サービスの普及が表れています。
このほか複数の配信サービスをまとめて管理できるバンドルサービス、古くはケーブル事業者のテレビサービス(ビッグベーシックやオールインワンパッケージと呼ばれていたもの)のような形態に魅力を感じるかという調査に対しては、実に74%が肯定的な反応を示しています。
米国、5月のテレビ利用シェア、配信サービスがトップの38.8%を占める
4月は38.5%でしたので微増です。一方、ケーブルTVは4月の29.1%から28.2%に減少。配信サービスの中ではYouTubeがトップで9.7%(4月は9.6%)、続いてNetflix 7.6%(7.6%)、Hulu 3.1%(3.1%)、Amazon Prime Video 3.0%(3.2%)、Disney+ 1.8%(1.8%)となっています。
ComcastがSpaceXの衛星ネットStarlinkを法人顧客向けに提供
ComcastとSpaceXが契約を締結しています。固定ネットの提供が困難な地域の法人顧客向けに提供する計画です。Comcastの法人向けサービスは2024年第1四半期時点で250万契約、24億1000万ドルの売り上げがあります。
Charter、昨年7月から半年置きに3度目の値上げを実施
2023年7月、2024年1月に続き7月に値上げを予定しています。対象は固定ネット、テレビ、電話など多くのサービスに及び、固定ネットは3ドルの値上げです。ただし激しい競争を繰り広げているモバイルは対象外ということ。
米国の中規模ケーブル事業者Cable Oneが社員4%をレイオフ
全米24州で「Sparklight」ブランドのケーブルTVサービスを展開しています。現在の事業は多チャンネルから固定ネットにシフトしていますが、FWAやFTTHとの競合が激しくなりレイオフに至ったようです。
Comcastが映画の配信サービスMoviePassに出資
Comcast NBCUniversalのベンチャーグループであるForecast Labsからの出資です。金額は非公開。MoviePassは加入者が1日1本映画を見ることができる定額制サービスですが、2020年に経営破綻。その後、再建が進み2023年には初の黒字を達成する見込みと言われています。
◆ メディア
Netflixを裏側から支える映像技術
いわゆるコーデック、映像をデジタル化、符号化、圧縮する技術のことですが、技術系でない方にはなじみのない用語かもしれません。大雑把に言うと、大量のデータを使えば綺麗な映像になりますが、それを配信するときに安定した通信回線が必要になります。そこでNetflixでは自社でコーデックの最適化を行なっています。長い歴史があり、当初はたとえばアニメのようなシンプルな映像と動きの激しいアクションドラマのようなものでコーデックの最適化を変えるところから始まり、次第にきめ細やかな制御、たとえば番組単位からシーンごとへと進化させたようです。そして最近、課題になっているのがライブ配信。オンデマンド配信であれば、あらかじめ映像の特性を把握して最適化できますが、ライブだとそうもいきません。これを解決すべく継続的に取り組んでいるということです。
英国の無料配信サービスFreelyに4社のテレビメーカーが対応
東芝、シャープ、パナソニック、それにドイツのMetzが新たに対応します。すでに対応していたBush、Hisenseと合わせ合計6社のスマートテレビでFreelyが利用可能となります。FreelyはBBCやITV、Channel 4などいわゆる地上波で流れていた「地デジ」をストリーミングで配信するサービス。スマホなどでは視聴できず、スマートテレビのみに対応しています。
米国、Paramount+が値上げ
8月20日からParamount Plus With Showtimeが1ドル上がって月額12.99ドルに、Paramount Plus Essentialは新規加入者向けに2ドル上がって月額7.99ドルになります。米国ではケーブル事業者のサービスや配信サービスでも値上げが相次いでいます。
南アフリカで無料の配信サービスが開始
南アフリカで放送・通信サービスを提供する国営企業Sentechが「Freevision Play」の立ち上げを発表しています。この計画は最初にアナウンスされたのが2013年4月。10年越しのプロジェクトになったようです。また日本で馴染みのないチャンネルが書かれています。KZN TV, Cape Town TV, Soweto TV, Tshwane TV, Faith.tvなどですが、特に目を引くのが「dedicated stream for the Presidential Inauguration、大統領就任式専用ストリーム」。滅多に配信される機会がないように思うのですが…。
◆ インフラ
世界の固定ネット市場はファイバーが牽引、FWAは未知数
Point Topicsによる分析です。記事の元となったレポートは無料の概要版がWebサイトで公開されています。「2030年にはファイバーを使用した固定ネットは11億2000万世帯へ」。
世界の固定ネット市場上位29カ国を分析しています。固定ネットは2023年から2030年までで15%増加。牽引するのはファイバーで、この期間に25%増加すると予測しています。FWAは伸び率では61%と最大ですが、ベースの数値が小さいため10年後でも総数は1600万世帯。ただし、現時点でFWAがある程度普及しており、また、信頼できる数値を入手できる国は米国、カナダ、イタリアしかなく、この3カ国の合計です。つまりそれ以外の国の動向によっては大きく数を増やす可能性があります。
◆ 新技術
テレコム5社がAIモデル開発のためのJV契約を締結
GTAA(Global Telco AI Alliance)設立メンバーであるSingtel、Deutsche Telekom、e&、SK Telecom、ソフトバンクが共同でJVを設立。テレコム向けのLLM(Large Language Model、大規模言語モデル)を開発します。韓国語、英語、ドイツ語、アラビア語、バハサ語など(記事に「日本語」の表記はありません)多言語に対応させ、革新的なAIアプリケーションを各社の市場で展開し、50カ国で13億人に提供する計画です。
米国、最適な広告の出稿先を判断する「AI Bid Optimizer」
Viantが提供する広告主が使うツールです。最適な広告枠の選定や価格をAIが判断することで、同社によれば24%から40%のコスト削減、パフォーマンスはケースにより3倍になったということです。
◆ その他
Netflixが米国の2都市で体験型施設を計画
2025年にペンシルベニア州のKing of Prussia(地域名)とテキサス州のDallasに施設をオープンします。配信しているコンテンツに関連した体験型アクティビティやレストラン、ショップなど。ただし、同社によれば「新たなビジネスセグメント(=収益の柱)になるとは考えておらず、あくまで(配信サービスの)マーケティングの一貫」ということです。
違法な配信サービスJetflicksに有罪判決
18万3200以上の違法な方法で入手した番組を保有し、これらを月額9.99ドルで提供していましたが、ラスベガスの連邦陪審は有罪判決を下しました。2007年に運営を開始、2019年に起訴されています。運営していた5人が有罪となっており、最長で禁固48年になるようです。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集メンバー
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