海外メディア・通信業界動向 12/18〜12/24
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
2024年の総括・2025年に向けた展望
米国の配信サービス、2024年は大きく成長し収益化にも成功、しかし今後は再編へ
2023年と比較すると定額制配信サービスの売上は第3四半期の比較で94.3億ドルから26.7%増加し119.4億ドルに伸びています。広告モデルだと2023年の60億ドルから2029年には216億ドルに成長するという予測もあります。また2024年には米国成人の80%が配信サービスを利用、番組視聴の中心的サービスと考えている人の割合は配信サービスが73%で、これはケーブルテレビの15%、地上波などの放送 6%を圧倒しています。またFASTのチャンネル数も劇的に増加しています。2年前となる2022年5月から2023年5月にかけて47.3%、624チャンネル増加、さらに2024年5月にかけて13.1%、225チャンネル増加し1943チャンネルに達しました。ディズニーは6月末時点の四半期決算で配信サービスの黒字化を発表、Netflixは第3四半期に売上は前年比15%増、営業利益は52%増の29億ドルと発表しています。2024年は、まさに上り調子の年だったといえます。ですが、2025年は業界の再編が起こると予測しています。Comcastとワーナーの動きやRoku買収の可能性、さらにはRupert Murdoch氏のFox Corpの売却などが噂されています。こういった動きは、衰退しつつある既存のテレビ業界の最後の「痙攣」なのか、今後、配信サービスを中心に再編される新たなメディアエンターテイメント業界の誕生に伴う苦痛なのかはまだわからない、とまとめています。
2024年の米国テレビ業界は、まさに「DNAレベル」の変化が起こった
根源的な変化・悪化が起こったといいたいようです。生命線ともいわれたスポーツのライブ中継が放送から配信サービスへ移りつつあり、アルファ世代、Z世代といった若い世代がソーシャルメディアへシフト。この流れは、もう戻らないようです。残念ですが、今後、どうすれば良いかといった前向きな展望は書かれていません。
米国での光ファイバー事業者の2025年展望、事業統合がさらに加速
コンサル会社AlixPartnersの調査によるものです。光ファイバー事業を展開する企業の幹部60名、および関連ファンドを対象に8月に調査したところ、93%が「合併・買収はすでに進行中、もしくは行われる」、そのうち70%が「今後1年間に活発化する」と回答しています。米国には約1900社の小規模事業者がありますが、このうち400社がより規模の大きな事業者との事業統合の有力候補になっているようです。2025年には一部の統合が行われ、2026年と2027年にはさらに多くの統合が行われると予想しています。
◆ 業界再編(M&A)
DAZNがオーストラリアのFoxtelを買収
Foxtelはオーストラリアで最初に有料多チャンネル事業を開始した大手メディア企業で470万の加入者がいます。この会社をDAZNが22億ドルで買収、規制当局の承認待ちですが2025年度下半期のプロセス完了を目指しています。DAZNの目的はオーストラリアでの事業強化と併せて、スポーツ配信権の取得もあるようです。まだ詳細は不明ですが、DAZNの番組をFoxtel加入者は視聴できるようになり、またFoxtelのスポーツ番組をDAZNで全世界に展開するようです。現株主であるNews Corpは完全に売却するのではなく6%を残し引き続きFoxtelに関与します。株主のもう1社、TelstraはDAZNに3%出資しています。
Liberty MediaによるMotoGP買収に欧州委員会が介入
5月に買収を発表し2024年末までに完了する予定でした。Liberty MediaはF1も所有しています。欧州委員会によれば、欧州のモータースポーツにおいてF1は代表的な存在であり、これに唯一競合できているのがMoto GP。この両者を保有することは独占禁止の枠組みに違反している可能性があるというものです。今後、詳細調査が開始されます。
◆ 業界動向
コムスコープが債務の借り換えを完了、財務の懸念を払拭
ApolloとMonarch Alternative Capitalのファンドおよび貸付グループから41.5億ドルの資金を調達します。31.5億ドルは2029年、10億ドルは2031年に満期が設定されています。これにより2025年に満期を迎える債権を全額返却でき、また2026年に満期を迎える債権はAmphenolへの事業売却で得た資金で全額返済する予定です。Amphenolとの取引は2025年第1四半期に完了の見込みです。
米国の固定ネット料金、FWAの影響により実質価格は値下がり
米国電気通信工業会(USTelecom)によるものです。この組織はBPI(Broadband Price Index)と呼ぶネットの料金指数を算出しています。BPIには100Mbpsから940Mbpsまでのネットサービスを対象にした「Speed」、940Mbpsから1Gbpsの「ギガ」カテゴリーがあります。インフレ調整後の実質価格ですが、どちらの価格も前年比で9.4%下落しています。比較的安価なFWAの増加がBPIに影響を及ぼしているようです。
Roku TVがアップデート、セキュリティカメラの映像や通知をテレビ画面に表示
テレビで配信サービスの映像を視聴中でも、セキュリティカメラが侵入を検知したタイミングでカメラ映像に切り替えたり、画面の一部に表示したりといったことができます。またスマートホーム機器からの通知がテレビ画面に表示されるようになります。これらの機能はRoku TVが搭載されているテレビやSTBで利用可能ということです。
2024年のVRゴーグルなどの出荷台数、前年比で8.8%増の960万台
TrendForceによる調査結果です。出荷シェアではMetaが73%と圧倒しています。299ドルという手頃な価格のQuest 3Sが牽引しており、出荷台数は前年比で11%増加する見込みです。2位はソニーの「PS VR2」で9%、3位はアップル「Vision Pro」 5%と続きます。シェアだけ考えるとアップル製品は期待はずれですが、高機能・高性能であることからTrendForceは「VR/MRアプリケーションの多様化と推進役」と期待を寄せています。
◆ メディア
日本のアニメ、2023年の世界収益が198億ドルに
Parrot AnalyticsとAJA(日本動画協会)によるものです。今年(2024年)ではなく昨年の集計結果です。内訳は配信サービスが55億ドル、関連商品が143億ドルです。アニメ以外を含めた配信サービス全体の収益の6%を占め、なかでも北米の比率が大きく22億ドルに上るようです。一方、関連商品の売上ではアジアがトップで54.6億ドル、北米は49.7億ドルとなっています。Parrot Analyticsは「日本はグローバルなエンターテイメント・エコシステムの中心であり、アニメは日本の創造的な能力の証です」とコメントしています。
2024年の映画興行収入、ヒット作は続編頼み、ディズニーは50億ドルを突破
興行収入の上位10作品のうち9作品が続編でした。2023年は「バービー」、「スーパーマリオ ブラザーズ」、「オッペンハイマー」といった作品がヒットしたのとは対照的です。今年のヒット作の大半はディズニー、ユニバーサル、ワーナーが手がけており、特にディズニーは「インサイド・ヘッド2」(16.9億ドル)、「デッドプール&ウルヴァリン」(13.3億ドル)、「モアナ2」(7.17億ドル、1月には10億ドルを超える見込み)の3作品が10億ドルを超え、2024年の収益は全世界50億ドル、米国内は20億ドルに到達しています。
スポーツ中継の新たな試み、試合をリアルタイムでアニメ化、ディズニーキャラも登場
ソニーのBeyond SportsがESPN、ディズニー、NBAと提携し、クリスマスに行われるバスケットボールの試合をアニメ化して中継する「Dunk the Halls」を実施します。Beyond SportsのHawk-Eye Innovationsの光学追跡技術を使用して、試合を行う選手などの動きを追跡、リアルタイムでアニメ化するものです。それだけではなくディズニーキャラ、ミッキーマウスやドナルドダッグも登場し試合を盛り上げるようです。新しい視聴者、多世代の視聴者を惹きつけ維持するための新しいスポーツ中継のあり方として試みられているものです。NHL(ホッケー)、NFL(アメフト)に続き、今回は3回目の試みとなります。
米国の配信サービス加入総数が4億690万契約に、トップはNetflixの7610万
S&P Global Market Intelligenceが発表したレポートによるものです。第3四半期の契約数などが調査されており、それによると配信サービスは2桁の増加、逆に既存の多チャンネルといったテレビ契約は2桁の減少だったということです。四半期ではなく年間の成長率だと、最も伸び率が大きかったのはコムキャストのPeacock Premiumで28.2%の増加、続くのがワーナーのMaxで23.2%でした。契約数でNetflixに続く2位はHuluで5200万、以降、Disney+ 5020万、Paramount+ 3720万、Peacock Premium 3640万となっています。
コムキャストのPeacockが2025年初頭から地域スポーツの配信を開始
スポーツの中継には全米で放送・配信されるものと、試合が行われる地域だけに限定されるものがあります。後者を扱う事業者はRSN(Regional Sports Network)と呼ばれ、これまではケーブル事業者のテレビ(放送)サービスなどで扱われていました。今回、コムキャストは傘下の4つのRSNが扱うスポーツ中継を配信サービスであるPeacockで配信します。有料オプションとなり月額10〜15ドルで提供されるようです。また、傘下のRSN以外とも交渉を進めているということです。日本で人気が高まっているメジャーリーグ(野球)も対象で、コムキャストによればリーグ開幕から配信できるようです。
米国、11月のテレビの視聴シェア、パラマウントが3位に上昇
ニールセンによる11月の調査結果です。NBCやDisney+といった放送、配信サービスごとのシェアではなく、メディア企業ごとに集計した視聴シェアとなっています。パラマウントの視聴シェアは10月の8.7%から9.3%に増加し、10月に3位だったNBCUniversalを抜きました。この数値は2月に人気のスポーツ中継「スーパーボウル」を放送して以来、最大です。NFL、カレッジフットボール、それに人気ドラマ「イエローストーン」の効果が大きかったようです。
米国の配信サービス、広告付きプランの比率が43%に
Antennaによる調査結果です。2022年第3四半期の28%から2年間で43%(2024年第3四半期)と急激に増加しています。Antennaによれば第3四半期の新規加入のうち56%が広告付きプランを選択しているということです。
Amazon Prime Video、番組のお勧めにAI技術を導入した「AI Topics」
AIが視聴履歴を分析し、何を好むかを判断、Prime Videoの番組からトピックスごとにグループ化して表示します。さらにここから絞り込んだり検索したりといったこともできるようです。
ワーナーのMax、個人の2024年の視聴回顧録「Max Rewind」
1年間の視聴履歴を振り返ったり他人と共有したりできるほか、視聴履歴に応じてMaxのキャラクターが割り当てられ、そのキャラクターに関連した番組一覧にアクセスできます。
◆ インフラ
米国でのFTTH、2024年度は過去最高となる1030万世帯に新規設置
RVA社の調査によるもので対象期間は2023年10月から2024年9月までです。2023年度は910万世帯でした。総数は3510万世帯、使用可能なホームパスは7650万世帯、全米の56.5%となっています。ケーブル事業者のDOCSISと競合していますが、RVA社によれば固定ネットの切り替えでは41%がFTTH、33%がDOCSISを選んでいるということです。
iPhoneの衛星通信をサポートするGlobalstarは何をやっているのか?
iPhone 14以降は、モバイルとWi-Fiが圏外になると衛星ネットに接続されます。この接続先がGlobalstarの衛星群で、アップルはこの会社に17億ドルの投資を行っています。詳細は発表していませんが、Globalstarは現在24機の低軌道衛星を運用しており、衛星のネットワーク容量の85%をアップル(iPhone)に割り当てているようです。さらにアップルから得た17億ドルを用いて衛星のアップグレード・増設を行っており、新しい衛星は2025年から打ち上げる予定です。記事ではGlobalstarのCEOにインタビューを行っており、そこで衛星を使用した音声通話、高速データ通信の可能性を尋ねています。CEOは技術的な問題というより、そういったサービスで追加料金を得られるか、追加料金を設定した場合に利用するユーザーがどれくらいいるのかという点に懸念を示しています。
◆ 新技術
Google、Sora対抗の動画生成AI「Veo 2」を発表
システム上は4K解像度で2分以上の動画を生成できますが、現在、Veo 2が利用できるGoogleの動画作成ツール「VideoFX」では720p、8秒に制限されています。また利用には待機リスト(記事の中にURLがあります)に登録する必要があります。時期は不明ですがVertex AI開発者プラットフォームで利用できるようにする計画があるようです。Veo 2はテキストによる指示や静止画から動画を生成できます。特徴はより鮮明な映像、動画の視点(カメラ位置)を設定できること、流体力学や光の特性に忠実な映像が生成できることなどです。例えばコーヒーをマグカップに注ぐ映像を生成する場合、コーヒーという液体の動き、見え方を流体力学をベースに現実世界のもののように生成します。
◆ その他
新規格HDMI 2.2が2025年1月に登場か!?
CESで発表される可能性が高いようです。現在の最新版であるHDMI 2.1は48Gbpsのデータ転送、4K 120Hzや8K 60Hzをサポートしていますが、2.2では8K 120Hzや10K映像が加わると言われています。また同時にコンテンツ保護規格も後継版となるHDCP 2.2となるようです。
男性の半数近くが恋人への愛のメッセージにAIを使用する考え
マカフィーが世界7ヵ国7000人を対象に調査したレポート「現代の恋愛(Modern Love)」によるものです。バレンタインデーで恋人に伝える愛のメッセージを書くのにAIを利用する考えの男性は45%に上り、これは昨年の30%から増加しています。また米国の男性の30%、女性の27%がネットのプロフィール、写真、メッセージを充実させるためにAIを利用。その影響なのかもしれませんが、58%が偽プロフィールを見たことがあると回答しています。また実際に相手とコミュニケーションをとったところ31%が詐欺師だったということです。マカフィーは「AIの可能性は無限ですが、残念ながら危険性も無限です」とコメントしています。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
記事のご利用について:当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、JCOM株式会社及びグループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。