海外動向 7/10〜7/16
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
メディア関連では、先週に引き続きParamount関連のニュースが数多く飛び交っています。さまざまな視点で語られているものの、今後の変革、将来に期待する向きが多いという印象です。第1四半期に契約者数を減らした配信サービスは第2四半期で反転、増加傾向に。ネットインフラでは着実に衛星ネットが存在感を増しています。
◆ 業界再編(M&A)
Paramountの行方、大予算のスペクタクル映画が復活!?
メディア関連の業界誌Hollywood Reporterの記者による推測です。Skydanceのこれまでの制作方針を見ると、十分な収益を得られなくても大予算の映画制作に挑戦し続けており、この方針がParamountにも及ぶのではないかというもの。Paramountの代表作とも言えるスタートレック、トップガン、ミッション・インポッシブルの続編への期待もあるようです。
Paramount+、改善が求められるグローバル展開
メディア関連の業界誌DEADLINEによる分析です。新生Paramountの事業全般について触れられていますが、興味深いのはParamount+に関するもの。米国内では比較的好調なものの、グローバル展開ではNetflix、Amazon、Disneyなどと比べて十分なシェアを獲得できていません。Paramountの新しい経営層はParamount+の事業展開の選択肢としてJV(Joint Venture)を強調しており、グローバル展開において各国でのJV設立を進めていくのではないかと予しています。
ハリウッドはParamountがSonyに買収されず一安心
合併によりこれ以上ハリウッド・スタジオが減少してしまうことを危惧したものです。2019年にDisneyがFoxを買収、2022年にはAmazonがMGMを、そして同年にワーナーとDiscoveryが合併し、スタジオの数が減少しています。もし今回、SonyがParamountを買収していた場合、おそらく数千人が解雇されたと想定しています。もともとこの取引には映画制作に関わる関係者からも反対が多く、「これ以上、スタジオを減らすべきではない」と言われていました。
Paramount、Skydance以外との代替買収案の検討期間は延長可能
両社は買収に関して合意していますが付帯条件がついており、Paramountは45日間の間にSkydanceより条件の良い買収提案があった場合は評価できるとなっています。この期間は8月21日までですが、仮に第三者と協議に入っていた場合、その期間を9月5日まで延長できるというものです。両社の合意条件には、このほかParamount+を含む事業を合意なく売却できないといった条件もついているようです。
サウジのテレコムSTCがVodafone Portugalの買収を検討?
STCはAltice Portugalを買収しようとしていましたが条件面で折り合わず。報道ではAltice側が企業価値を100億ユーロとしていたのに対し、STC側は80億ユーロ以下だったということです。その結果、買収相手をポルトガル第2位のテレコムVodafone Portugalに切り替えたと言われています。
◆ 業界動向
米国、配信サービスの普及率が85%に上昇
MoffettNathansonによる第2四半期の調査レポートによるものです。普及率が最も上昇したのはComcastのPeacock、逆に普及率が少なかったのはHuluとApple TV+です。世帯あたりの配信サービスの契約数は3.8から4に増加しています。
Charterがテレビ契約者以外にもニュース番組を配信
Spectrum News Plusは、これまでCharterのSpectrum TV加入者しか視聴できませんでした。Xumo Playで無料で視聴できるようになります。
オーストラリアのテレコムが安価なサブブランドを立ち上げ
Aussie Broadbandが、コールセンターなどを除外したサブブランド「Buddy」を立ち上げます。ネットワーク(インフラ)はAussie Broadbandと同じで、サポートもAIなどを活用したシステムで提供するようです。価格はAussie Broadbandより15%程度安く設定されています。
Ericssonの第2四半期決算、アナリストの予想を上回る
売上高は前年同期比7%減の598億スウェーデンクローネ(56億8000万ドル)で、アナリストの予想は583億クローネでした。利益は第1四半期の26億クローネから110億クローネの損失に。Ericssonはモバイルの5G関連とクラウドのソフトウェア開発に事業をシフトしていますが、CEOによれば「業界の投資水準が持続不可能なほど低い」。もっとも北米マーケットでは売上高が14%増加し回復基調にあるということです。
◆ メディア
Disney、Amazon、Comcastが760億ドルでNBAの放映権を獲得?
正式発表ではありませんが、一部のメディアが報じています。これまで40年に渡りワーナーが保持していたものです。現在の契約は2025年までの9年契約で240億ドルと言われていましたので3倍以上になります。
CNNの変革プラン、既存メディアに求められるデジタル化
CNNのCEOがスタッフに向けて非常に長いレターを発信し、デジタル化に向けた方針や組織の改革などを説明しています。かなり細かく具体的なものですが、全体を俯瞰すると放送と配信、海外と国内の区別をなくし、AIを積極的に活用していく。CNNといえばケーブルのニュース専門チャンネルというイメージが強いのですが、これをストリーミングやFASTなどの配信サービスを含むあらゆるプラットフォームで展開していくようです。
AIを使った初のSF短編映画「Message in a Bot」が公開
家電メーカーTCLの配信サービスTCLtvPlusが制作したもの。YouTubeでもこちらで視聴できます。異星人からのメッセージを解読、優れた技術を手にした人類がワープ(時空移動)で異星人の星に行きコンタクトするというストーリーです。
◆ インフラ
米国、衛星ネットStarlinkの加入者が130万人に
Parks AssociatesがBroadband Market Tracker(レポート)で発表した2024年第1四半期時点での契約者数です。米国の家庭向けISPで12位の規模であり、2024年末には10位に入るのではないかと予測しています。
北極圏もブロードバンド圏内に
ノルウェー(国)が7月中旬にSpaceXのFalcon 9ロケットで2基の衛星を打ち上げることで実現します。これまではイリジウムなどの衛星電話しかなかったということです。
◆ 規制・政策
米国、ネット中立性ルールの復活が裁判所により停止
ISPが差別的にトラフィックをコントロールすることを禁止するネット中立性ルールの復活が8月5日まで停止されます。オバマ政権(民主党)のときに制定され、トランプ政権(共和党)のときに廃止されていました。これを復活させようとしていましたが、ISPからは「恒久的な停止(廃止)」要請が出されており、裁判所がこれを検討するため一時的な(執行)停止を決定しています。
◆ サステナビリティ
Comcastが固定ネットの電力効率を40%改善
固定ネットで1TB(テラバイト)のデータを転送するのに消費する電力を2019年の18.4kWh(キロワット時)から2023年には11.0kWhに40%削減したと言うもの。エネルギー効率を2030年までに半減させ、2035年までにカーボン・ニュートラルを達成する目標を掲げています。
◆ その他
米国、AT&Tから個人情報が流出、盗んだハッカーが公表
AT&Tのモバイル顧客、ほぼ全員分の過去6ヶ月の通話とテキストメッセージの記録、関連する電話番号が流出したようです。ただし、通話やテキストメッセージの内容は流出しておらず、また顧客名などの個人情報は含まれていないということ。AT&Tのモバイルネットワークには1億2700万台のデバイスが接続されています。
Apple Vision Pro、初年度の販売は50万台に届かず
今年の2月2日に発売されましたが、すでに販売台数が大幅に減少しており、第3四半期は第2四半期と比べて75%減と予測されています。対応アプリケーションの少なさと3500ドルという価格がネックになっており、Hub Entertainment Researchによる米国での調査では、半数以上が興味を持っているものの76%は購入するつもりがないと答えています。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
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