海外メディア・通信業界動向 11/20〜11/26
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
Comcastがケーブル放送ネットワークの分社化を発表
公式に発表されました。NBCUniversalからCNBC、MSNBC、USA Networkやゴルフチャンネルといったケーブル放送ネットワーク(チャンネル)を独立会社「SpinCo」(仮称)として分離します。分離プロセスは1年間を見込んでおり、SpinCoの加入者はケーブル事業者を通じて7000万世帯、分離事業の売上は2023年10月1日から2024年9月30日まで1年間の実績で70億ドルでした。CEOには現NBCUniversal会長のMark Lazarus氏が就任します。ComcastのCEOは「これにより変化するメディア業界に攻勢をかけられる」、SpinCoの新CEOは「視聴者へのサービス提供、株主への利益還元を、現在の非常にダイナミックなメディア事業でより効果的に行える」とコメントしています。
Comcastの狙いは?
あくまでメディアによる分析ですが、今回のNBCUniversalからの分離はNBC、Peacock、Bravoという主要資産を維持するためだったといわれています。衛星とケーブル事業者は2013年以降、3000万の加入者を失っており、広告売り上げも減少しています。経営状況の厳しい資産を切り離し、今後、成長が見込めるものだけを残したという見立てです。注目されているのがBravoで、これはケーブル放送向けのチャンネルで例外として残りました。リアリティ番組で人気を集めており、今後、NBCやPeacockとの密な連携を考慮したのかもしれません。公式なコメントでも「株主への利益還元」を謳っていますが、実際、ケーブル放送ネットワークがNBCUniversalの株価を押し下げているといわれています。「SpinCoを業界全体のケーブルネットワークの統合手段として利用できる可能性がある」と書いているメディアも多く、今後の注目点は他社との事業提携、もしくは合併などへ進むかどうかです。ワーナー、Paramount、Starzなどが候補として噂されています。
ここまではNBCUniversalに関連したものですが、Comcast Cableについてはどうでしょうか。こちらはグループから総量規制のある放送資産を切り離すことで、ほかの大規模ケーブル事業者との合併にあたっての規制上のハードルを十分に引き下げられる可能性があるといわれています。
このほか少し違う見方でIndieWireは分析しています。本当の成果はDonna Langley氏をDisneyの次期CEO候補から外すことだったというものです。噂レベルでよく名前が挙がっていますが、NBCUniversalではコンテンツの総責任者として重要な役割を担っています。ComcastのCEOがスタッフ向けに送ったメモをIndieWireは入手しており、このメモには「NBCUniversalの全社的な事業に関し最終的な判断を主導し、すべての番組制作およびマーケティングを監督する」と非常に大きな権限を付与すると書かれています。
ニュースメディアが報じた考察記事の概要
11月20日に公式に分社化が発表されたのち、ニュースメディアでこの件に関する考察記事が相次いで報道されています。主要なものは以下のとおりです。
分離されたケーブル向けのニュースチャンネルCNBCとMSNBCは、NBCから独立した運営が可能なのか。CNBCはNBCとは別にオフィスを構え運営面でも独立しているが、MSNBCはNBCと同じオフィスを拠点にしている。また、NBC、CNBC、MSNBCは取材や報道時のキャスター、アナリストなどで共有しているケースが多い。
SpinCoとして独立することでPeacock以外の配信サービスと新たなライセンス契約を結ぶことが可能になる。
ComcastはワーナーやPeacockとの事業統合を見据え、意図的にSpinCoに負債を持たせなかったのではないか。
Peacockにおける番組のパフォーマンスを分析している記事では、Peacock全体に占める番組の供給シェアと視聴シェアで分析しています。視聴シェアを供給シェアで割ったものがパフォーマンスとなり高いほど効率的という定義です。これによるとNBCの番組は供給シェア12.9%、視聴シェア36.1%でパフォーマンスは2.8倍です。ケーブル放送ネットワークは供給34.1%、視聴38.7%で1.1倍、今回、分離されなかったBravoは供給5.7%、視聴9.8%で1.72倍となります。
米国でのニュースチャンネルの人気はFox、MSNBC、CNNの順。CNNを抜かしたものの、それ以上にFoxに勢いがあり差が開いている状況。
Comcastがケーブル放送ネットワークを分離したことでワーナーの事業提携、もしくは合併もあるのではないか。
◆ 規制・政策
LGI、ドラギレポートに賛意、欧州での規制緩和を促す
ドラギレポートによれば、欧州は転換期にあり、生産性と成長を改善するためには、今、あらゆる手段を講じる必要があると書いています。これに対しLGIは「歓迎すべきものであり、一翼を担うことを厭いません」とコメントしています。デジタルやテレコム分野においてもEU域内の統一市場化を進め、規制緩和や規制に関する負担を軽減すべきだというものです。加えて「競争規則の改革」を求めています。世界的な競争を行うための柔軟なルール、つまり世界で存在感を発揮できる大規模合併への道筋を求めているようです。
Ericssonなどが本社を米国に移転する可能性
スウェーデンの大手通信機器ベンダーであるEricssonが本社を米国に移転する可能性についてCEOが「検討に値する」といったコメントを出していました。アナリストは「可能性は低い」と分析していますが、発言の真意を巡り波紋を呼んでいます。CEOは今年公開されたEUの競争力強化に関する「ドラギレポート」を支持しているといわれており、EU当局による規制緩和が進まないことへの当てつけ、米国では2025年以降、規制緩和が進むとみられることへの期待、米国のモバイル事業者がEricssonの大口顧客になっていることなどが背景にあるのではないかと分析しています。アナリストはほかにもフィンランドのNokia、イスラエルのAmdocsについても可能性はゼロではないといったニュアンスのコメントをしています。
◆ 業界再編(M&A)
DirecTVによるDish買収が破談に
Dishの社債保有者が減額を受け入れなかったため破談となりました。DirecTVのCEOが「買収取引を終了(中止)した」と発表しています。Dishは11月に20億ドルの債務償還期限を迎えますが、これを返済できるだけの資金調達に成功したといわれており、「(破談になっても会社を)運営していくだけの基盤がある」とコメントしています。
強まるHarmonicへのCienaとの合併圧力
Harmonicはケーブル事業者向けの仮想CMTSなどがComcastやCharterといった大手ケーブル事業者から高い評価を受けており業績は好調です。この分野では1強といっていいほどですが、今後の経営に関しては慎重な見方をしており、それが株価の低迷につながっています。これに対しHarmonicの株式を保有する一部の投資ファンドから会社の売却(他社との合併)を検討するべきというコメントが出されていました。これにほかのファンドが同調し、現在は「Cienaと合併すべきだ」といわれています。両社ともに事業の多角化が行えるのがメリットです。また合併により事業規模を拡大し販売先との交渉力を強めるべきだという主張のようです。
◆ メディア
米国、配信サービスの番組視聴ランキング、20年前の人気シリーズ「LOST」が2位に食い込む
Nielsenによる米国での番組視聴ランキングの調査結果です。10月21日から27日の期間にテレビで視聴された総時間(分)をランキングにしています。トップはNetflixのオリジナル作品「The Lincoln Lawyer」でしたが、2位に20年前、ABCチャンネルで放送されていた「LOST」が入りました。それ以外にも2011年から放送されていた「Bob’s Burgers」、2005年の「Grey’s Anatomy」など放送が主流だった時代の人気作品が数多く上位に入っています。
Netflixはなぜ解約率が低いのか? その要因を分析
配信サービスはクリックで簡単に解約できるため解約率は高めに推移しがちです。米国では主要な配信サービスの月間の平均解約率は5%。これに対しNetflixは過去2年間、1〜3%で推移しています。解約率が低い要因としてまず挙げているのは先行者利益です。配信サービスの中ではもっとも早い時期に開始しており、長期間、継続的に利用しているユーザーが多いというものです。次に挙げているのがオリジナル作品の豊富さ。配信サービス向けに制作されたオリジナル作品の総数に対し、Netflixの制作数は2021年第3四半期には30.2%を占めていました。その後、このシェアは徐々に低下し2023年第3四半期は14.7%に。ですが、その後、増加傾向に転じ、2023年第4四半期から2024年第3四半期にかけては20%以上を維持しています。3つ目はユーザーエクスペリエンスです。使いやすいユーザーインターフェイス、そしてアプリ内のコンテンツのプロモーションの方法や検索機能など、スムーズに番組を見始められ新しい番組を発見しやすい作りになっています。最後に挙げているのが柔軟な価格設定、戦略的なプロモーション、質の高いカスタマーサポートです。まとめると先行者利益、魅力的なコンテンツ、優れた技術力により業界トップクラスの低い解約率を実現しているというものです。
MLB、メジャーリーグの放映権を一括管理し全米展開を模索
試合の放映権は球団ごとに、球団自らが管理しているところもあれば、MLB機構が管理しているところもあります。球団が管理している放映権契約のうち7球団は2028年に契約が切れるため、このタイミングでMLBがリーグ全体の放映権を一括管理する形に移行させたいというものです。これにより全米規模のメディア放映権パッケージを組成し、Amazonなどの配信サービス、ESPNなどのスポーツチャンネルと契約を結びたい考えのようです。配信サービス側も夏季は人気スポーツがオフシーズンとなるため解約が増える時期であり、夏場に多くの試合が行われるメジャーリーグは価値があると見込んでいます。ただ、ロサンゼルス・ドジャースのように2039年までの長期契約を結んでいる球団もあり交渉は一筋縄ではいきません。
米国の配信サービスを対象にした顧客満足度指数、Apple TV+が4位に上昇
調査会社ACSI(American Customer Satisfaction Index)によるものです。トップは指標(スコア)82となったAmazon Prime Video、2位は80でPeacockとYouTube Premium、4位は79でApple TV+、Hulu、Netflix、Sling TVが並んでいます。
◆ 業界動向
米国の多チャンネル放送、第3四半期は加入者の減少ペースが若干の改善
前年同期との比較です。衛星放送のDishだけが悪化していますが、ケーブル事業者のCharter、Comcast、Altice USAは若干改善しています。もっとも減少数は依然として大きく、四半期(3ヶ月)で多チャンネル加入者がChaterは2.4%、Comcastは2.8%減少しています。
米国、10月のテレビ視聴シェア、野球のワールドシリーズなどを中継したFoxがNetflixを抜いて5位に
上位4社の順位に変動はありませんでした。野球やNFLを中継したFoxが視聴シェアを9月の7.3%から8.4%に増やし順位を上げています。Nielsenによれば、Foxにとってこのシェアは記録を始めてからもっとも高いということです。
米国、10月の配信形態ごとの視聴シェア、スポーツ中継により従来型の放送がシェアを増やす
配信形態ごとのシェアでは放送が24%、ケーブル(多チャンネル) 26.3%、配信サービス 40.5%、その他 9.2%でした。放送のシェアは1月の24.2%以来、もっとも高い数値です。NFLが大きく寄与しているようです。ケーブルもシェアを増やしたのは4月以来です。
◆ その他
Amazon、Fire TVデバイスの販売数が2億5000万台を突破
ドングルやSTB、スマートTVなどのデバイスの世界での販売台数です。2014年に販売を開始し10年で達成しました。スマートTVの成長が著しくこの分野に注力、サウンドバーといった周辺機器も拡充していくということです。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所
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