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海外メディア・通信業界動向 12/25〜2025/1/7
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
DisneyがFuboを買収しYouTube TVに次ぐ配信サービスが誕生、Venuに関する訴訟は和解へ
DisneyがFuboの株式の70%を取得し、Disney傘下のHulu+Live TVとFuboを管掌する新会社を設立します。これにより配信サービスの契約数はHulu+Live TV 460万人、Fubo 160万人の合計で620万人となりYouTube TVの800万人に次ぐ規模となります。新会社設立後もHulu、Fuboのブランドは維持され、加入者の統合なども行われないようです。
FuboはDisney、Fox、ワーナーが共同で設立したメガ・スポーツ・アライアンス「Venu」を独占禁止法で訴えていましたが、これも和解します。訴えられていた3社はFuboに2億2000万ドルを支払い、さらにDisneyは2026年までの1億4500万ドルの期間限定融資も提供します。また、FuboはDisneyからESPNとABCが持つ番組の配信権を取得、これにより多数のスポーツ配信権を得られることからVenuが狙っていたサービスに近いものを提供できるようになります。非公式なコメントですが、Disneyは和解後もVenuの立ち上げに進むわけではなくESPN+に注力すると言われています。Venuの代わりをFuboとESPN+に担わせようとしているのかもしれません。
◆ 業界再編(M&A)
欧州でFTTHインフラを提供する最大の事業者が誕生
Vodafone SpainとMasOrangeがスペインで1220万世帯をカバーし両社の顧客450万世帯にサービスを提供する新会社を設立します。両社の既存インフラと顧客を統合し新会社に移管します。MasOrangeが50%、Vodafone Spainの親会社であるZegonaが10%を出資、残りの40%は投資家からの出資を求めています。なお新会社の設立は規制当局の承認が必要で、投資家からの出資と合わせて2025年上半期の完了を目指しています。Vodafone SpainはTelefonicaとの連携でも合意しています。同様の動きをLiberty Globalでは英国でも計画しており、今後、欧州では事業再編が進むと思われます。
Liberty MediaによるMotoGP事業の買収は6月末まで延期
当初の計画では2024年末までに完了させる計画でしたが、欧州委員会による詳細調査が入ることになったため延期されました。調査の結果、買収が承認されるか拒否されるかはわかりません。承認を得るために買収条件を修正する可能性もあるようです。関係者は否定していますがバイク関連のレース事業を切り離すのではないかといった憶測も出ています。
米国のメディア幹部13名が匿名で語った2025年の予想
CNBCが毎年行っている年末の恒例行事です。ちなみに2024年の予想はあまり当たらなかったようです。2025年に起こることとして予想されているものはM&A関連が多いようです。筆頭に挙げられているのはComcastがワーナーのスタジオと配信サービス事業を買収しNBCUniversalと合併させるというもの。これと若干異なるのがComcastが買収するのはCharterで、NBCUniversalは逆に分離するというものもあります。ワーナーはどうやら買収される側と予想している幹部が多いようで、別の幹部はFoxがワーナーを買収と考えているようです。このほかパラマウントがライオンズゲートを買収するといったものまでありました。ただ正反対の予想もあります。M&Aの話題は大げさに誇張されすぎで、実際ははるかに少ない案件数になるというものです。
◆ 規制・政策
米国、控訴裁判所がFCCのネット中立性規則を破棄
FCCが打ち出していた、すべてのネットトラフィックを平等に扱うことを義務付け、利用者のアクセス速度を高速化したり低速化したりといった操作を禁止する規則です。ケーブルやテレコム事業者が破棄を求めていました。裁判所が判断した理由は、ネット事業者は情報サービスを提供しているのであり、FCCが電気通信サービスに関する規定によりネット中立性規則を課す法的権限はないというものです。
◆ 業界動向
Comcast、YouTubeやFacebookなどに対抗する新たな広告プラットフォームを発表
GoogleやMetaといったいわゆるテック企業大手がシンプルな広告出稿プロセスによって中小企業を含む多くの広告クライアントを獲得してきたことに対抗するものです。新たな広告プラットフォームはビックテックと同様に容易な出稿が可能で、さらにAIを活用した無料の広告制作ツールを提供する計画もあるようです。これらは第1四半期に開始され、当初はComcastのNBCUniversalとXumoのほか、DirecTV、Fox、Paramount、Roku、ワーナーなどのメディアが対象で、今後さらに増えていくということです。ビックテックにメディア業界が連携して対抗する構図となっています。
米国、Connected TVの広告市場が急速に成長
調査会社eMarketerによるものです。関連する広告の市場規模は2024年が287.5億ドル。これが2025年には325.7億ドル、2028年には443.2億ドルと年率10%以上の成長を予測しています。背景にあるのは関連機器の普及で、米国では全世帯の90%がネットに繋がるテレビやRoku、Amazon Fire Stickなどのデバイスを保有。多くの広告主が放送から移っているということです。
Xperi、TiVoを搭載したシャープのスマートテレビで米国に参入
早ければ2月にも発売されます。米国参入は当初は2024年末までの計画でした。なお、ヨーロッパでは昨年から展開しています。Xperiは2025年末までにTiVo搭載スマートテレビの出荷を700万台とする目標を掲げています。
◆ メディア
Netflix、クリスマス休暇中の視聴者数が過去最高を記録
今年から配信権を獲得したNFL(アメフト)の2試合、それと「イカゲーム」のシーズン2が大きく寄与しました。NFLは12月25日に2試合が行われ、平均視聴者数が米国だけで2650万人となり、配信された218カ国中60カ国以上でトップ10入りしています。今年の5月にNFLからNetflixが配信権を獲得、クリスマスの2試合を3年間で4億5000万ドルという巨額の必要が話題になっていました。
米国ではスポーツ番組の配信サービスへの移行が進展、プロレス「Raw」はNetflixで独占配信へ
WWE(World Wrestling Entertainment)の人気番組「Raw」がNetflixで独占配信されます。この番組は過去30年以上に渡り放送で提供されていました。全世界で2億8300万の利用者を持つNetflixでの提供はWWEにとって「ゲームチェンジャー」であるとコメントしています。新たな視聴者、特に若い視聴者の獲得を期待しているようです。規制当局への提出書類では、WWEとNetflixの10年間に及ぶ契約の価値は50億ドル以上、Netflixは5年後に契約を終了するか、さらに10年延長するかを選択できます。米国、カナダ、英国、中南米における「Raw」の独占配信権を保有し、世界中への配信権も保有しています。
配信・テレビサービス事業者にとって有用なAIによる収益改善策
事業者が視聴者に直接配信するD2CサービスにおいてAIをいかに活用していくべきかをまとめています。書かれているのは顧客の繋ぎ止めに関するものが中心です。解約リスクの高い加入者を洗い出し、個々に特別オファーや番組の推奨、プロモーションを実施。さらにそれら施策の効果分析など、一連の作業をすべてAIで行うというものです。D2C事業者にとって、こういったAI分野での取り組みは、今後、不可欠なものになると分析しています。
◆ インフラ
米国テレコムの第3四半期、光ファイバーとFWAが好調に推移
Verizonは第3四半期に固定ネット加入者が38万9000世帯の増加となり、9四半期連続で37万5000以上の増加を続けています。AT&Tは光ファイバーベースの固定ネットの新規加入者は22万6000世帯です。大手2社以外の中小事業者も加入者を増やしており、この数値だけを見ると米国でもネットのファイバーへの移行が進んでいるように見えます。
英国でのFTTH利用可能エリアが69%に拡大
Ofcom(英国情報通信庁)の最新レポート「Connected Nations」によるものです。2023年9月の57%から2024年12月には69%、2000万世帯に増加しました。英国政府は2025年までに85%をギガビット対応のエリアにする目標を掲げており、これを達成できる可能性が高いということです。実際に利用している契約数は750万世帯、理由は不明ですがFTTHの普及率は地方の方が著しく高いと書かれています。
インドにおけるブロードバンド、普及率向上に向けた衛星ネットの役割
ブロードバンドの普及率は現在48%。これを増やしていくための施策が議論されており、モバイル、光ファイバーと並んで衛星ネットが一定の存在感を示しているようです。インド国内でも衛星ネットは過渡的なソリューションでありモバイルやファイバーが中心になると主張するグループ、それと正反対に衛星ネットが大幅に増加すると予測するグループがあるようです。世界最多の人口を持つインドですが、ブロードバンドの普及率は比較的低く、今後の普及策に注目が集まっています。
◆ 新技術
2025年、AIに関連する12の予測
バンク・オブ・アメリカによると2025年は企業によるAI導入の年となり、今後5年から10年の間に生成AIが効率性と生産性の進化を促進、人の生活ですら変える可能性があると予測しています。そんな中、メディア「CIO」が今年のAIに関する12の予測を発表しています。最初に挙げているのが「小規模言語モデル」の登場。2024年に大きな注目を集めた生成AIで用いられる大規模言語モデルは高性能な反面、処理コストが高価で速度も遅いという課題があります。これを小規模言語モデルにすることで、特定用途、企業内での使用、スマホなどデバイス内での実行に用いられるというものです。このほかAIが人間の推論能力に近づくことへの規制強化、AIエージェントがサービスを置き換え始めるエージェント型アシスタントの台頭、マルチモーダルAIなどが書かれています。
Google TV搭載テレビにGemini AIを導入
ソニー、Hisense、TCLなどのテレビが対象になるようです。また、センサーを使用してテレビにユーザーが近づくと役に立つと思われるニュースや天気情報などを表示するモードが追加されます。このモードを搭載したテレビは2025年末にTCL、2026年にはHisenseが提供する計画です。詳細はCESで発表されるようです。
2025年、モバイル基地局でのAIサポート「AI-RAN」の可能性は?
5Gや6Gのモバイル基地局でAI機能を実行できるようにする「AI-RAN(Radio Access Network)」ですが、AIを実行するGPU提供ベンダーとして中心的存在のNVIDIAが積極的な姿勢を見せています。AIアプリケーションなどを基地局で実行できるようにすることで、モバイル事業者は投資額の5倍の収益を得ることができるという主張です。ただ、既存の基地局はEricssonやNokia、Huaweiなどによりモバイル用途に特化して構築されておりAI-RANへの転換は容易ではありません。そもそも5G SAへの投資ですら進んでおらず、果たしてまだマーケットが立ち上がっていないAI-RANへの投資が進むのか未知数だと分析しています。
モバイル事業者の次世代規格「5G-Advanced」
モバイルの標準化団体3GPPが2024年夏にリリース18の大半の作業を完了し「5G Advanced」が提供可能になっています。これにより改良型のMIMOやエネルギー消費量の削減、モバイル基地局同士の干渉を検知しネットワークのパフォーマンスを向上させる機能などがサポートされます。ですが、これらは5Gが4Gとの兼用(NSA、Non-Standalone)ではなく「SA(Standalone)」で実装されている必要があり、今後、事業者がどう展開するかは未知数です。米国ではT-Mobileが2024年末までに提供計画があると10月にコメントしています。
◆ その他
HBOやCablevisionを創業したメディア界のパイオニア、Charles Dolan氏が逝去
享年98歳、自然死ということです。Dolan氏はCNNの創業者Ted Turner氏、LibertyのJohn Malone氏、ComcastのRalph Roberts氏と並ぶケーブル業界のパイオニア的な存在でした。米国でもテレビは当初、電波で受信するスタイルが当たり前でしたが、電波状態の悪さに悩まされていた人たちにケーブルで接続されたテレビサービスを提供。さらに月額料金を払うことでコマーシャルなしで番組を提供する、今でいうところの有料多チャンネルサービスを始めた人です。
XRスポーツアライアンスにAtemeなどが加入
仮想現実などを使用したスポーツの商業化を推進しているXRSA(XR Sports Alliance)にAteme,とSkyrim.aiが加わりました。XRSAは昨年夏にAccedo、HBS、Qualcomm Technologiesによって立ち上げられた組織です。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
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