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海外メディア・通信業界動向 2/5〜2/11

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

Fox、年内にスポーツやニュースを扱う新たな配信サービスを開始

決算報告の会議でCEOのLachlan Murdoch氏がコメントしています。年初に中止が発表されたスポーツ特化型の配信サービス「Venu」の代わりというわけではなく、Foxが単独で提供する、Foxの番組を包括的に提供するものになるようです。同社は、これまでケーブルテレビの多チャンネルサービスにとってマイナスとなる事業には断固として反対してきました。この方針を転換します。CEOの発言をそのまま引用します。「ケーブルテレビでの放送は、視聴者にとってもFoxにとってももっとも価値があるものです。よってFoxはケーブルテレビのバンドルを強く支持しており、今後もそれは変わりません。ただ、Foxは視聴者がどこにいようとリーチしたいと考えています。そして今やケーブルテレビを利用していない視聴者は非常に多くなっています。そういった人たちをターゲットにサービスを設計しています」。なお、既存の番組を配信サービスで利用する場合、権利処理や新たな権利費用は発生しない見込みということです。ただ、「既存の多チャンネルサービス加入者を新たな配信サービスに移行させたいとは思っていません。よって、新サービスはその点を考慮した価格設定となります」とも発言しています。既存サービスと同等の価格設定を考えているようです。

◆ メディア

Disneyの新たなフラッグシップ・スポーツ配信サービス

CEOのBob Iger氏が四半期決算発表の場でコメントしています。今年の秋ごろに開始予定の新たなサービスは既存のESPNアプリから視聴可能になります。「ESPNとESPN+が扱うすべての番組がカバーされ、高度なインタラクティブ性とパーソナライズ機能を備え、スポーツファンにとって新たなものになるでしょう」。ESPN+は他社の同様のサービス(末尾に「+」をつけたもの)と位置付けが異なり、ESPNの番組は含まれていない、独立したものです。新たなフラッグシップはESPNとESPN+の両方をカバーするものとなります。価格はまだ明らかにしていません。

Disney CEOが明かす、Venuを止めた本当の理由

米国の配信サービス市場で、新たなスポーツ専門のスリム化されたバンドルが登場したことを理由に挙げています。その結果、DisneyにとってVenuは冗長なものとなり結果として廃止したというもの。実際、DirecTVは「MySports」、Comcastは「Sports & News TV」を発表しています。またDisneyはESPN、ESPN+に加え両者を統合した新たなサービスを計画、さらにFubo買収によりラインナップが増えており、これ以上、スポーツ専門配信サービスは不要と判断されたようです。

Disneyの四半期決算、Disney+は加入者が減少したものの配信サービス全体では売上増

2024年10月から12月までの四半期決算です。Disneyは配信サービスを値上げしており、その影響が懸念されていました。結果はDisney+が世界で60万の加入者を失ったものの、同様に値上げしたHuluは160万の増加。両者を合わせた売上は9%増の60億7000万ドル、営業利益は29億3000万ドルでした。映画やテーマパークを含む会社全体では5%増の246億9000万ドル、営業利益は31%増の51億ドルです。好調な収益の主因として映画「モアナ2」を挙げています。なお別記事になりますが、ケーブルなど多チャンネル事業者向けの放送チャンネル事業についても言及しています。Comcastが放送チャンネル運営会社を分社化し、ワーナーも同様の動きを見せる中、CEOは「Disneyにとってこの事業は全く負担になっておらず、むしろ資産です」とコメント。他社の放送事業を買収する可能性については「わからない」と完全には否定しませんでした。ほかの事業が成長する中、放送関連の四半期売上は22億ドル、営業利益は8億3700万ドルと横ばいです。

Netflixが米国でのF1放映権獲得レースに参戦

F1は今年でESPNの独占期間が終了するため、2026年シーズン以降の新たな事業者の選定に入ります。これをNetflixが積極的に検討しているというもの。現在のESPNとの契約は年額9000万ドルですが、これを上回る金額になる可能性があります。なおF1の権利を持っているのはLiberty Mediaです。なお、この交渉はあくまで米国内での配信に限られたものです。

米国ではYouTubeで長編番組を視聴するユーザーが増加傾向

Digital iによる調査結果です。番組の視聴本数ではなく視聴時間におけるシェアです。30分以上の長編のシェアは2023年10月が65%だったのに対し、2024年10月には73%に増加しています。興味深いのはどういった画面(機器)で見ているのかという点。調査によれば大画面のテレビではなく、モバイル端末が牽引しているようです。この傾向は特に18歳から24歳までの若年層が顕著で、長編をモバイルで視聴する時間が同期間で21%増加しています。

世界の番組制作費、2025年は初めて配信が放送を上回りトップに

Ampere Analysisによる分析です。2025年は前年から0.4%増の2480億ドルになると予測しています。5年前となる2021年はメディア業界全体の制作費に対して放送が全体の41%、配信サービスが33%を占めていましたが、その後、配信が徐々に増え、2025年には放送37%、配信39%と初めて逆転する見通しです。

英国、配信サービスの勢いが止まる

Barbによる調査結果です。配信サービスに加入する世帯数は第3四半期が2010万世帯だったのに対し、第4四半期は2000万世帯、全世帯の68.3%とわずかですが減少しています。

AIで修復されたビートルズの楽曲がグラミー賞を受賞

2023年にリリースされた「ナウ・アンド・ゼン」が最優秀ロックパフォーマンス賞を受賞しています。この楽曲は1970年台後半にジョン・レノンが録音したものがベースとなっています。その後、1990年台半ばにポール・マッカートニーなどがアンソロジーアルバムへ収録を試みましたが、当時は技術的な理由でレノンのボーカルとピアノを分離できず断念しています。2021年、映画監督のピーター・ジャクソンとそのチームはAIの機械学習技術を用いてボーカルやピアノなどを音源ごとに分離することに成功、2023年にリリースしました。当時はAIにより生成された音楽と誤解され反発を呼んでいました。ジャクソン氏は「何も人工的に、もしくは合成的に作られたものではない。全て本物だ」としています。

◆ 規制・政策

Vodafone Germany、集合住宅への一括販売禁止規制が業績を直撃

同様の規制が米国では撤回されましたが、ドイツでは2024年7月に施行されています。この規制が固定ネットや多チャンネルテレビサービスを提供する事業者の業績を直撃しています。Vodafone Germanyは施行直後の第3四半期に収益が6.2%減少していました。その後の第4四半期は、さらに悪化し7.6%減の31億ユーロとなっています。

参照(1/29):FCC、固定ネットの集合住宅向け一括契約を認める
政策の転換です。昨年、禁止する方向で検討されていた規制案が廃止されました。今後は集合住宅の家主が固定ネット、ケーブル・衛星テレビを全住戸を対象に、仮に居住者が希望しないでも一括契約することを認めます。

米国の放送局Tegna、全米規模のファクトチェックを停止

完全にファクトチェックをやめるのではなく、今後はローカル局が個々にこの業務を担うことになります。全米規模で行っていた同社の業務チーム「Verify」所属のスタッフはすでに解雇されたようです。放送局を所轄するFCCのCarr委員長は「検閲カルテルを粉砕する」としてファクトチェックの取り組みを調査する可能性を示唆していました。「自分たちの意見に反対する政治的言論にレッテルを貼っている。政治・宗教・科学的言論の中核部分を守らないといけない」という考え方のようです。

◆ インフラ

中国と英国で進む固定ネットの50Gbps対応

中国が50Gbps対応で世界をリードか
Dell'Oroの調査によれば、中国の通信事業者が50GbpsのFTTHインフラ整備に重点を置いていることがわかったようです。2024年と2025年は世界で唯一中国のみが商用ベースの50Gbpsサービスを大規模に展開。結果として50Gbps市場では世界の93%を占めるという予測です。2027年には15億5000万ドルの収益を生み出すと書かれています。使用する技術規格はITU-Tの50G-PON、理論値ですが下り50Gbps、上り25Gbpsをサポートしています。

英国のOpenreach、50Gbpsネットを検証
BTで光インフラの構築・運用を行うOpenreachが発表しました。イングランド東海岸地域でNokiaの50G-PONを使用して試験を実施、実効速度で下り41.9Gbps、上り20.6Gbpsを達成しています。BT/Openreachは商用ベースでは10GbpsのXGS-PONを展開しています。50Gbpsの商用展開は「まだ先」であるものの、データ消費量は増加の一途を辿っており、今後はより高速なネットが必要になるだろうとコメントしています。

◆ 新技術

Comcastの新技術、低遅延のライブ中継、ネットの自動修復、Wi-Fi 7など

この記事では放送からネットインフラまで多数の新技術が紹介されています。今月、開催されるNFL(アメフト)優勝決定戦のライブ中継ではフィールドでの競技から10秒以内に映像が表示される低遅延の配信技術が用いられます。また、映像は4Kで配信され音声はDolby VisionとDolby Atmosに対応します。ネットの配信で中継されますが、既存のものより大きい30Mbpsのストリームになるようです。

このほか、固定ネットについても触れています。CNO(Chief Network Officer)のElad Nafshi氏によれば、固定ネットインフラのルーティングやバックエンドプロセスの99%を自動化しており、これにAIを組み合わせることで、障害が発生しても利用者が気がつく前に問題の60%が自動的に解決されているということです。このほか、Wi-Fi 7とDOCSIS 4.0をサポートするネットのゲートウェイ「XB10」の展開を進めていること、音声リモコンによる音声認識は5つの言語で毎日5000万の音声指示を処理していることなどを紹介しています。

Hitron、DOCSISモデムやWi-FiアクセスポイントでAIをサポート

モデムなどを手がけるベンダー、HitronがAI技術を持つAprecommと提携してAIエンジンをモデムなどに組み込みます。当初はカスタマーサポートのコストを削減するためにAIを使用するようです。カスタマーからの問い合わせ時に適切な情報をサポートスタッフに伝えたりといった機能を持ちます。Hitronによれば、既存のモデムでも同様の機能がサポートできないか検討しているということです。

◆ 業界動向

Rogers、Netflixをバンドルした低価格パッケージを発表、DOCSIS 4.0の検証も開始

新しいパッケージはNetflixの広告付きプラン、40以上の放送チャンネルとVOD、それにFAST 20チャンネルで構成されます。月額25カナダドル(2700円弱)でiOSやAndroidアプリ、Rogers Xfinity Stream Box(IP STB)、Webブラウザなどで視聴可能です。Rogersは第4四半期に3万5000世帯のテレビ加入者を失いました。このパッケージにより減少を抑制したい考えです。昨年末時点でのテレビ加入者の総数は261万世帯です。このほか下り4Gbps、上り1GbpsのDOCSIS 4.0技術トライアルを開始したことも発表しています。

Charterのモバイルサービス、回線数が1000万を突破

2025年2月4日に大台を超えました。モバイルサービスを開始してから6年での達成です。これを発表したプレスリリースでは、Charterのモバイルサービスと固定ネットの組み合わせがAT&TやVerizonといった競合他社と比較して、いかに安価かつ高速であるかをアピールしています。

Amazon、音声アシスタント「Alexa」のアップデートを2月26日に発表

ニューヨークで発表イベントが行われます。内容は不明ですが、何らかのニュースがあるとAmazonの広報がコメントしています。ただ、まだ最終決定されていないという情報もあります。機能強化されたAlexaを一般公開するかどうかを決める会議が2月14日に行われるというものです。あくまで噂レベルですが、有力視されているのはより高度なAI機能をAlexaに適用するというもの。ただ、これを有料にする可能性もあるようです。

Rokuの機器が配信サービスで圧倒的な存在感を示す

Pixalateによる2024年第4四半期の調査結果です。市場での露出量を表すSOV(Share Of Voice)という指標で分析しています。それによるとRokuのSOVシェアは米国で39%、カナダで35%、メキシコでは74%とトップでした。米国の2位はAmazonの15%ですので倍近い差をつけていることになります。ただ、Rokuは2023年の55%から大きく減少しているのに対し、Amazonは11%から15%に増加させています。

シルベスター・スタローンがAI企業「Largo.ai」に出資、戦略的パートナーとして参画

映画、テレビ、広告業界向けにAIベースの分析プラットフォームを提供している会社です。2018年にスイスのローザンヌ工科大学での研究を基に設立されました。スタローン氏の参画意図は不明です。

◆ サステナビリティ関連

米国のケーブル事業者団体などがネット機器のエネルギー効率改善のための協定を延長

ケーブル事業者の業界団体NCTA(Internet & Television Association)や家電業界などの業界団体CTAなどが連携し、モデム、ルーター、Wi-Fiといったネット機器のエネルギー効率を改善する自主協定の2028年までの延長が発表されました。厳密なエネルギー効率化が規定されており、これにより2026年以降の新機種では10%以上の改善が見込まれています。この協定を締結したケーブル事業者は購入する機器の90%以上がこの規定を満たすことを誓約しています。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所

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