見出し画像

海外メディア・通信業界動向 1/22〜1/28

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

スペインのモバイル事業者、FTTHと同様に上下分離と統合の可能性

スペイン最大のモバイル事業者MasOrangeと第2位のVodafone Spainがモバイル基地局などインフラ部分を保有・運用するジョイントベンチャーRANco(仮称)の設立に向けて協議していると一部のメディアが報じています。協議はまだ初期段階ですが、この2社はFTTHインフラに関しても同様の取り組みを公表しています。スペインはモバイル事業者が3社ですので、その2社がインフラ部分だけとはいえ統合されることに対しては規制当局の懸念を招く可能性があります。モバイル事業者で顧客にサービスを提供する事業者と、基地局などのインフラ部分が分離(上下分離)されるのはおそらく大手では初めてです。

参照(1/3):欧州でFTTHインフラを提供する最大の事業者が誕生
Vodafone SpainとMasOrangeがスペインで1220万世帯をカバーし両社の顧客450万世帯にサービスを提供する新会社を設立します。両社の既存インフラと顧客を統合し新会社に移管します。MasOrangeが50%、Vodafone Spainの親会社であるZegonaが10%を出資、残りの40%は投資家からの出資を求めています。なお新会社の設立は規制当局の承認が必要で、投資家からの出資と合わせて2025年上半期の完了を目指しています。Vodafone SpainはTelefonicaとの連携でも合意しています。同様の動きをLiberty Globalでは英国でも計画しており、今後、欧州では事業再編が進むと思われます。

◆ 業界再編(M&A)

またもや波乱!? ParamountにSkyDanceを上回る135億ドルとの買収提案

SkyDanceは80億ドルで今春にも買収プロセスを完了させる計画でした。Project Rise Partners(PRP)はこれに対抗する法的に有効な提案文書を提出したといわれています。全額現金による提案で、PRPによれば資金は「信頼のおける投資家から確約された融資」としています。ただ、名前が明らかになっているのは2人だけで謎が多いようです。Ellison氏に匹敵する業界の大物、世界で最も裕福な人物の一人、衛星業界のパイオニアといった抽象的な表現で出資者を表現しています。一般論ですが、上場企業は株主の利益につながる正当な価値のある提案は検討する法的義務を負っています。

◆ 規制・政策

英国、地デジを終了させ配信に一本化する年を巡り議論が続く

放送局は少なくとも2034年までは地デジによる放送を続けるよう政府に働きかけているということです。言い換えると「いつ、放送を終了するのか」という議論が具体的に行われているということです。さまざまな意見が書かれています。仮に配信へ一本化されると、視聴者の5%、150万世帯が視聴できなくなる可能性があります。BBCは「誰も取り残されないようにすることが最優先事項」とコメント。一方、老巧化した放送インフラをいつまで維持しなければならないのか、といった主張もあるようです。10年後を見据えた議論が活発化しています。

英国の規制当局、ISPの契約期間中の値上げを制限する新たなルールを施行

政府機関Ofcom(英国情報通信庁)によるものです。英国では多くのISPがインフレによる物価上昇を月額料金に反映させる、つまり契約期間中に値上げを行うことを加入時に締結する契約条項に盛り込んでいました。これが禁止され、値上げを見込んでいる場合は契約締結時点でその価格を明示することが義務付けられます。また条項で値上げを規定しない場合は、契約期間中に値上げする場合、加入者に30日間の通知期間を設け違約金なしで解約できる権利の付与が求められます。

◆ 業界動向

Comcastがスポーツとニュースに特化した配信サービス「Sports & News TV」を発表

ABCやCBSといった放送チャンネル、CNBCやCNNといったケーブル向けニュースチャンネル、ESPNやゴルフチャンネルといったスポーツチャンネルがラインナップされています。これら50以上のチャンネルと300時間分のクラウドDVR、通常は月額7.99ドルで提供されるPeacock Premiumがバンドルされた配信パッケージ(サービス)です。Comcastのネット、テレビ加入者には月額70ドル、それ以外には90ドルで提供されます。なおこのサービスを提供するのはComcast Cableであり、現時点でComcastのエリア外の顧客に提供する計画はないということです。

参照(1/14):配信サービスはジャンル特化型に進む? DirecTVが「MySports」を発表
先週立ち上げが中止されたVenuと同種のスポーツ特化型配信サービスですが、チャンネル数はさらに多く40以上となっています。ただし月額料金はVenuが43ドルだったのに対し強気の70ドル。DirecTVによれば、今後数ヶ月の間に他のジャンルに特化した配信サービスも計画しているということです。

LGIのCEO、Mike FriesがCNBCのインタビューに登場、ヨーロッパの規制緩和などを語る

8分間のインタビュー映像が公開されています。冒頭と終盤でヨーロッパの規制緩和について語っています。ヨーロッパではインフラ政策において消費者への提供価格だけに焦点を当ててきたことが問題。インフラ投資のことも考えるべきだったと述べています。終盤では、今後、規制緩和に向かうでしょうとも。またメディア業界の再編については進行するだろうと示唆。買収したFormula Eに関しては今後の成長、特に女性や若い世代への浸透、さらにSDGsと絡めた今後の展開に期待を示しています。

DisneyのCEO、報酬が30%アップ、後継者候補は来年初頭までに選出

報酬額は前年度の3160万ドルから4110万ドル(約63億円)になりました。好調な業績が反映されたものです。なおCEOのIger氏は2026年12月に退任が予定されており、現在、後継者の選定プロセスが本格化しています。Disneyによれば2026年初頭までに社内候補者4名と社外候補者を選出する予定ということです。

通信事業者のAIへの投資額はデジタル予算の5〜15%

GSMAが世界の通信事業者100社から2024年9月、10月にアンケート調査した結果です。5〜10%と10〜15%と回答した事業者が全体の50%を占めました。AI投資の重点項目では、新たな収益源の創出と顧客サービスの向上がそれぞれ19%でトップ、続いて従業員の生産性向上(14%)、意思決定の改善と製品の強化(14%)、ネットワークの改善(10%)、運用コストの削減など(5%)となっています。

コンサル会社がStarlinkは今後数年のうちにバンドルプランを投入すると予測

Strand Consultによるものです。配信サービスやゲーム、それに同じオーナーElon Musk氏が所有するX(旧Twitter)のプレミアサービスなどのバンドルプランです。ただ記事にはアナリストによる否定的な意見も書かれています。その一方あくまで仮定の話ですが、自らコンテンツの制作を行いStarlinkをベースとした配信プラットフォームで提供することになれば、それはAmazonやNetflixといった大手事業者の脅威になり得ると分析しています。

◆ メディア

絶好調のNetflix、第4四半期に過去最多となる1891万の加入者を獲得、総数は3億を突破

アナリストの予測は910万増でしたので2倍となります。過去、もっとも加入者が増えたのは2023年第4四半期の1300万でしたので、これも大きく上回ります。四半期の売り上げは102億4000万ドルで前年同期比16%増、純利益は18億6000万ドルで前年同期の9億3800万ドルから倍増しています。なお、日本は対象外ですが、米国、カナダ、ポルトガル、アルゼンチンでの値上げを発表しました。「Netflixをさらに改善するために再投資する」と絶好調であっても手綱を緩める気配はありません。

Netflix、ゲームへの取り組みをアップデート

ゲームをテレビ画面に表示して、家族や友人と一緒に遊べるものを強化していく方針のようです。Netflixの番組(知財)とゲームを融合させ、番組視聴と同じような体験にしていきます。同社によれば「テレビで放送されていたゲームショーの進化系」だということです。具体的な計画は明らかにしていません。

米国12月のテレビ視聴シェア、配信サービスがまもなく放送とケーブルの合計を上回る

Nielsenによるものです。週(月曜から日曜)単位で収集しているため対象は11月25日から12月29日までです。配信サービスのシェアが11月の41.6%から43.3%に増加。これは放送とケーブルの合計46.2%に近く、まもなく上回る可能性があります。配信サービスごとの順位に変動はありませんでした。1位のYouTubeと2位のNetflixがシェアを増やし、3位のAmazon Prime Videoは減らしています。

再掲(12/10):Nielsenによる米国のテレビ視聴シェア、配信サービスが拡大
対象期間は10月28日から11月24日までです。テレビの利用時間は10月と比べて5%増えています。配信形態ごとのシェアは、配信サービスが10月の40.5%から41.6%に増加、ケーブルテレビは26.3%から25%に減少、放送は24%から23.7%に微減となっています。配信サービスのシェア拡大を牽引したのはTouTube、Prime Video、Rokuでこの3つは過去最高となるシェアを達成しています。

TBSとStories Internationalが提携、放送番組を世界に展開

TBSが持つ番組ライブラリ群の中から40(原文ではプロジェクト、ドラマのシリーズという意味合いでしょうか)程度を選び、翻訳、パッケージ化などを行い、英語圏や世界に向けて展開していくようです。

CNNが事業再編、人員削減と配信サービスへのシフト

昨年発表された放送から配信サービス、つまりデジタルシフトに伴う再編です。全体の6%にあたる200人のスタッフを解雇します。また開始予定の配信サービスについても発表しています。米国内外に向けて、CNNの番組が視聴できる新たな配信サービスを近々開始すると予告。放送と同様なものになるようです。また、これとは別にフードやフィットネスなどを扱うライフスタイル番組を中心にした定額制の配信サービスを計画しています。

値上げが続く配信サービス、米国での価格はどうなった?

2020年1月時点と現在の価格を同じプラン比較しています。Disney+は広告なしのプランだと月額6.99ドルが現在は月額16ドルに、つまり2.3倍に上昇。NetflixとAppleTV+は2倍、DirecTV Streamは1.74倍、YouTubeTVは1.66倍、Paramount+とPeacockは1.6倍です。もっとも値上げ幅が小さかったのはワーナーのMaxで1.13倍でした。各社番組ラインナップを強化していますので、単純に比較はできませんが負担が増えているのは確かなようです。なお、こちらの記事では配信サービスのトレンドと合わせて2023年と2024年の価格比較を行なっています。

◆ 新技術

超低遅延の配信サービス「リアルタイム・ストリーミング」

スポーツ中継が配信サービスで扱われることが増え、それに伴い配信遅延を究極まで削減する取り組みが進行しています。この超低遅延システムを開発しているPhenix Real Time Solutionsによると、スーパーボウルのライブ中継における遅延はParamount+の最短で42.73秒、Fuboの最長で86.75秒です。つまり実際にプレーが行われてから画面上にその映像が表示されるまでに42.73秒、86.75秒といった遅れが生じるわけです。これを改善する技術としてこの記事では2つ紹介しています。一つはWebRTCを用いる方法、もう一つはIETFで策定が進められているMoQ(Media over QUIC)です。WebRTCはすぐにでも実装できますが、汎用性に欠け標準化もされていません。一方のMoQは仕様策定が完了しCDN事業者などが対応するまでに数年かかるといいます。この記事の中でAkamaiのチーフアーキテクトは「すぐに必要でなければMoQを待つべきだ」とアドバイスしています。これらの技術によって実現されるものは「リアルタイム・ストリーミング」と呼ばれ遅延時間は0.5秒。少し前まで放送のメリットとして配信より遅延時間が短いことが挙げられていましたが、今後は配信のほうが圧倒的に短くなっていくようです。

究極の安全性を求めデータセンターを月に設置

この取り組みをLonestarが進めています。CEOによれば「地球上にデータをバックアップするための完全に安全な場所はない」といいます。気候変動、戦争、自然災害、サイバー攻撃などにより地上であればどこでも危険にさらされるという主張です。Lonestarが進めているのは災害などでデータが失われた場合に復旧するためのバックアップセンターを月に設置することです。この会社は2018年に設立され2024年に月面にデータセンターを設置、バックアップなどを行うミッションを成功させました。今年2回目のミッションを計画しており、2030年までに6機を打ち上げる計画です。なお、こういった究極の安全性を持つバックアップセンターの需要は「異常なほど」。月だけに限定していませんが、Statistaによれば災害復旧サービス市場は2024年の155億ドルから2029年には367億ドルに成長、需要の大半は米国、中国、インド、ドイツ、日本になると分析しています。

◆ サステナビリティ関連

Liberty Globalが英国の太陽光発電所を買収

傘下のエネルギー関連会社egg Groupを通じて英国Bristol(ブリストル、ロンドンの西側にある港湾都市)にある太陽光発電のプロジェクト権をBayWare社から買収しました。今年の初頭に建設に着手し、第4四半期に稼働させる計画です。発電規模は50メガワット、買収金額などは不明です。

◆ インフラ

FWAのスタートアップKwikbit、狙いは移動住宅

Kwikbitは5Gなどのモバイルネットワークではなく、独自の60GHzを使うFWA事業者です。このスタートアップが大手がカバーしにくい移動住宅に焦点を当てているというもの。トレーラーハウスやキャンピングカーなどを住居として使用している世帯です。移動住宅と名前がついていますが、KwikbitのCEOによれば「99%は固定されたまま」。米国にはこのコミュニティ(村のようなもの)が6万6000箇所あり、2000万から2500万人が居住しているということです。ちなみにこの数は低所得者世帯に向けた米国政府の支援プログラムACPに登録されていた数とほぼ同じです。これだけの数がブロードバンドの整備から取り残されており、また高価な衛星ネットは導入が難しいため、今後、政府が支援する形で利用が加速する可能性があるようです。

EricssonのCEO、「6Gを普通の新世代だと考えないように」と発言

モバイルサービスは2030年前後から6Gが登場するといわれています。Ericssonの第4四半期決算報告の電話会議での発言ですので、基地局のベンダーとしての見解です。これまでのようにハードウェアの大きな投資は見込めないといいたいようです。ただ、6Gを実現するには5G SA(Standalone)、つまり4Gとの兼用タイプであるNSA(Non SA)ではなくSAが必要ですが、これを米国で全米規模で展開しているのはT-Mobileのみです。各国も似た状況でSAの整備は進んでおらず、6Gはこれまでと異なりあまり目立たない、インパクトの小さな新世代になる可能性を示唆しています。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

記事のご利用について:当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、JCOM株式会社及びグループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。