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海外動向 9/25〜10/1

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

先週はケーブル業界の技術イベント「SCTE Cable-Tec Expo」が開催されたため、インフラ関係のニュースが数多く報じられています。固定ネットはグローバルで捉えればFTTHが主流になっていますが、米国ではケーブル事業者がHFC・DOCSISの技術開発と整備を活発に行っています。SCTEでは5.0と噂される次世代DOCSISの開発着手が発表されました。速度は25Gbpsに達するほか、障害の局所化、自己修復、サイバーアタックやウィルス感染の検知にネットワークのモデム、アンプ、ノードが協調して対応するなど、FTTHに勝る高速で信頼性の高いネットワークを目指しているようです。

◆ インフラ

信頼性がブロードバンドにおける新たな注目点に

カナダのRogersとアラスカ最大のケーブル事業者GCIの幹部がケーブル業界の技術関連イベントSCTE Cable-Tec Expoで発言しています。依然、速度は重要ではあるものの、ブロードバンドマーケットは信頼性に注目し始めている。顧客は途切れることのない接続をもっとも重視しているというものです。重要なのはアクセスネットワークだけの信頼性ではなく、クラウドから家庭内に残るレガシー機器まで全区間を通して信頼性を確保すること、そしてそれを顧客に示すことだといいます。

Comcast、ネットワークの信頼性をAIにより向上させる「Janus」

エッジクラウドで動作する仮想化されたネットワークコア(コンポーネント、システム)と、それらをAIを用いて統合的に管理・制御するシステムです。例えば従来はルーターなどは専用のハードウェア(機器)でしたが、これを汎用のハードウェアとソフトウェアに置き換えエッジクラウドに分散配置。これによりトラフィックの急増に柔軟に対応できるほか、AI/ML(機械学習)などの導入も可能となります。また管理システムはリアルタイムにエッジ側の動作状況を遠隔測定しAIを活用した分析や障害検知時の自己修復機能を備えています。異常気象や事故などにより光ファイバーや関連施設などに障害が生じた場合、問題のある箇所をピンポイントで特定、正常な冗長ネットワークにリルートする切替作業などが自動で行われるようです。

Rogers、インフラ強化のためComcastのネットワークデザインを採用

Comcastの最先端のネットワークデザインをRogersの全エリアに導入する計画です。これにはComcastの仮想CMTSやDOCSIS 4.0のFDXが含まれます。ケーブル事業者にとって基幹部分であるネットワークインフラのデザインに他社のものを採用するのは、おそらく業界で初めてになると思われます。

ComcastがDOCSIS 4.0の展開を加速

現在は全米10エリアで100万世帯に提供していますが、この展開を今後、加速していくということです。速度は上り下り対称で2Gbpsですが、2025年には3Gbps、2026年には5Gbpsを投入する計画です。日本と異なりベストエフォートの速度ではなく、実際に出る速度を謳っています。エリア展開を増やしていくにあたりBroadcomのFDXとESDの両方をサポートしたノード、アンプ、モデム向けの統合チップセットを採用。アンプとノードはHarmonicとComScopeから調達。これにSercommも加わる可能性があるようです。宅内側のモデムにはWi-Fi 7を搭載したDOCSIS 4.0対応の「XB10」の初期フィールドトライアルを開始、FDX/ESD兼用型の「XB10u」も開発中です。さらにDOCSIS 3.1モデムがFDXの下り帯域(チャンネル)を使用できるようにする「FDX-L」(LはLimitedの略)技術を開発しており、これを既存のDOCSIS 3.1モデムに組み込むと、DOCSIS 4.0と3.1で下り周波数を共有できるようになります。

DOCSIS 5?、Comcast、Charter、BroadcomがHFCで25Gbpsを実現する技術開発に着手

3社で次世代DOCSISチップセットの開発に関するJDA(Joint Development Agreement、共同開発契約)を締結しています。HFCで使用する周波数帯を3GHzまで拡張し、さらにネットワークのノード、スマートアンプ、モデムにNPU(Neural Processing Unit)を組み込みAI/MLで分析・最適化します。これにより25Gbpsという速度を実現するほか、ネットワークの異常検知や自己修復、外部からの攻撃への対応や侵入検知を行うサイバーセキュリティなどを実現する計画です。

BroadcomがDOCSIS 4.0チップセットの供給制限を解除

これまではComcast、Charter、Liberty Global、CoxなどBroadcomと高額なJDAを締結した事業者のみに供給されていました。MaxLinearがESDのみに対応したモデム向けチップセットを製品化していますが、FDX/ESD兼用タイプ、さらにノード、アンプ向けチップセットまで擁しているのはBroadcomのみです。今回の供給制限解除により北米のケーブル事業者ではDOCSIS 4.0への対応が加速する可能性があります。

衛星ネットのStarlink、加入者が400万世帯に急増

加入者の獲得推移ですが、2020年10月にベータ版のサービスを開始、26ヶ月後の2022年12月に100万世帯、9ヶ月後の2023年9月に200万世帯、8ヶ月後の2024年5月に300万世帯でした。これが10月には400万世帯を超える見込みです。衛星ネットサービスは現在6000機の衛星で構成されており、100カ国で利用可能です。

◆ 業界再編(M&A)

米国の衛星放送事業者DirecTVが同業のDishを1ドルで買収

DirecTVがEchoStarからDishと配信サービスSlingTVを買収します。買収対価は1ドルですが、Dishが抱える債務の97億5000万ドルを引き受けます。加えてDishの社債保有者が少なくとも15億6800万ドルの債務放棄に応じることを買収条件にしているようです。Dishは11月23日に20億ドルの債務償還期限を迎えますが資金調達のメドが立っていませんでした。今回の合意によりDirecTV側が100億ドルの融資を行い、これによりDishは債務を返済する見込みです。買収によりDirecTVは全米最大となる1800万世帯の加入者を持つ多チャンネル事業者になります。ただ、この2社は2016年以降、加入者を63%も失っており、単独では事業継続が危ぶまれていました。

CharterとLibertyが株式交換に関する協議を開始

Libertyのグループ会社であるLiberty Broadband(LBC)は北米事業を担っており、Charterの株式26%、それにアラスカ最大のケーブル事業者であるGCIの株式を100%保有しています。Charterは9月15日にLBCに対し拘束力のない株式交換提案を行なっています。LBCの1株に対しCharterの0.228株を受け取るものです。この取引はLBCがGCIを売却する前提ですが、CharterはGCIを含めた取引条件についても話し合う用意があるとしています。一方、LBCは9月23日に対案を提示。LBCの1株に対しCharter 0.29株、さらにCharterがLBCの負債などを引き受けるか借り換えを要請しています。GCIはCharterの一部となります。どちらの提案も合併プロセスを2027年6月30日までに完了させることを目標にしています。こういった動きの背景は不明ですが、LibertyのオーナーであるJohn Malone氏はポートフォーリオの整理統合を進めており、その一環ではないかと言われています。

◆ メディア

米国、テレビサービスの満足度調査ではYouTube TVがトップ

J.D. Powerによる「2024 U.S. Television Service Provider Satisfaction Study」(2024年テレビサービス満足度調査)によるものです。スコアは1000点満点でYouTube TVが651点と2年連続でトップを獲得。2位はHulu+Live TVの635点です。配信形態別のスコアもあり、これだと配信サービスが625点、ケーブル・衛星放送が524点でした。ケーブル・衛星放送のトップはCharterの530点です。調査は2023年10月から2024年8月にかけて3万2349人から行っています。

米国、8月のテレビの視聴シェア、パリ五輪の効果でNBCUniversalが13.4%でトップ

7月は3位、9.5%でした。これだけ増やすのは異例の出来事であり、Nielsenが調査を開始して以来、最大のシェアとなります。

再掲:米国、7月のテレビの視聴シェアでYouTubeが初の首位、NBCUniversalは五輪で躍進
Nielsenによる7月の調査結果です。NBCやDisney+といった放送、配信サービスごとのシェアではなく、メディア企業ごとに集計した視聴シェアとなっています。例えば放送のNBCチャンネルと配信サービスのPeacockはどちらもComcast NBCUniversalに合算されています。

7月の視聴シェアは、YouTube(Google)が10.4%で初めて首位となりました。配信サービスが首位になるのも10%を超えるのも初めてのことです。6月まではDisneyが10.8%で首位でしたが、7月は9.9%となり2位に下がっています。6月の注目点として3位争いもありました。3位のNBCUniversal 8.5%に4位のNetflix 8.4%が迫っていたからです。ですが7月はパリ五輪を放送・配信したNBCUniversalがシェアを大きく伸ばし9.5%に、対してNetflixは6月と変わらず8.4%にとどまり順位は変わりませんでした。パリ五輪は7月26日から8月11日まででしたので8月のほうが影響は大きいと見込まれており、NBCUniversalがどこまでシェアを伸ばすのかが今後の注目点です。

John Malone氏、ワーナーを高評価

Malone氏はワーナーの取締役ですので、その点は割り引いて捉える必要がありますが、ウォール街のアナリスト、Craig Moffett氏との対談で述べています。ワーナーのバランスシートは揺るぎない状態にあり、CEOは精力的に活動しており、また国際展開の潜在力を秘めているというものです。国際展開についてはNetflixがすでに70%(進捗度を指すと思われます)なのに対し、ワーナーは10〜15%であり、まだまだこの先の成長余地が残っているというものです。対してParamountとDisneyは「国際展開では行き詰まっており、成長も見込めない」と厳しい評価をしています。

このほか配信サービスについても言及。GoogleのYouTubeなどを指したものと思われますが、ビッグテックが巨額の資金を活用してスポーツの配信権を獲得している現状について苦言を呈しています。

ワーナーのMaxが日本のパートナーにU-NEXTを選んだのはアニメ強化のため?

Maxでは今でもアニメ作品、ジブリ作品や宮崎駿作品などが人気を博しており、ワーナー側が今後の世界戦略においてアニメの強化を検討。今後はU-NEXTからアニメ作品の供給を受けていくとあります。Crunchyrollにも触れており、今後、日本のメディアが世界と交渉していく上ではアニメが大きな武器になるようです。

Venuのサービス開始計画の再開許可をDisneyなどが申し立て

VenuはFuboから独占禁止法違反で訴えられており、裁判所はFuboが求めたサービス開始を差し止める仮処分申請を認めています。これに対し、Disney、Fox、ワーナーの3社が連邦控訴裁判所に再開許可を求めて申し立てを行なっています。

◆ 規制・政策

加入と同じくらい簡単に解約できる「クリックで解約法」がカリフォルニア州で成立

「Click to Cancel法」、正式にはカリフォルニア法「AB 2863」が成立し、2025年半ばに施行されます。自動更新の購読サービスで、クリックで加入できるものは同程度のステップ数、複雑さで解約できるようにしなければならないというものです。加入が簡単なのに対して解約に複雑なステップを強いたり、電話でしか解約できないといった手続きは禁止されます。FTC(Federal Trade Commission、連邦取引委員会)は、こういったルールを全米に適用することを提案しています。

◆ 業界動向

Android TV、アクティブデバイスが1億2000万台増加し2億7000万台に

2021年は8000万台、2022年は1億1000万台、2023年は1億5000万台でした。世界各国のテレビメーカーでの採用が増えたことにより急増しています。

AIを活用した顔認証が求められるセキュリティカメラ

Parks AssociatesとXailientが発表したホワイトペーパー「the Door: Driving New Revenues」に書かれています。玄関などに設置するカメラ付きのデバイス、インターホンやセキュリティカメラのニーズを調査したものです。こういったデバイスから得られる収益は2023年の13億ドルから2027年には24億ドルに増加すると予測しています。また、セキュリティカメラの購入意向を持つ人の85%が家族や友人を顔認識するAIの搭載を希望、1/3は必須だと答えています。

◆ 新技術

James Cameron監督が生成AI技術を開発する会社の取締役に

就任したのはテキストによる指示などから映像を生成するAI技術を開発しているStability AIです。Googleの元CEO、Eric Schmidt氏やNapsterの共同創業者Sean Parker氏が主要な出資者として名を連ねる新興企業です。Cameron監督はかねてから映画などの制作にAI技術を取り入れることに前向きな姿勢を示しており、取締役就任にあたっても「CGと生成AIというまったく異なる創造のエンジンが融合することで、アーティストがストーリーを語る新しい方法が解き放たれ、私たちが想像もできなかった表現が生まれるでしょう」とコメントしています。

ワーナーが字幕の作成にGoogleのAIを活用

制作した番組に付与する字幕の作成にGoogle CloudのVertex AIプラットフォームを活用します。正確な字幕にするためにAIを活用、人による監視も行なっており、間違いがあればAIへフィードバックし、継続的に改善できるワークフローにしているようです。これらにより字幕の作成時間を最大80%、コストを最大50%削減できるということです。

◆ サステナビリティ関連

IDC、AIエンジンを稼働させるデータセンターのエネルギー消費量が年率44.7%のペースで増加と予測

2027年には146.2テラワット時(TWh)に達すると予測しています。AI以外を含む世界のデータセンター全体では2023年から2028年までで電力消費量が年率19.5%増加し2028年には857テラワット時(TWh)になるという予測です。

◆ その他

Paramountが新たな人員削減を開始

Skydanceによる買収手続きが進行する中、計画されていた5億ドルのコスト削減策の一環で、米国従業員の15%削減を計画しています。具体的な人数は明らかにしていませんが、年末までに2000人を削減すると報じているニュースサイトもあります。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

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