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海外メディア・通信業界動向 11/27〜12/3

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

米国発の時代劇「SHOGUN 将軍」、その制作の舞台裏

制作したのはディズニー系の有料チャンネルFXです。制作を始める前の2019年、ある人がオフィスにやってきて「何百年も前を舞台にした限定シリーズを作りたい。ほぼ全編が日本語でキャストも日本人だ」という企画をディズニーのCEO、Bob Iger氏に伝えたといいます。Iger氏は「そんな賭けに勝てるわけがない。しかし、結局、Johnと彼のチームを信じて賭けに出た」。そのJohnこと John Landgraf氏が将軍を制作したFXのトップです。この記事では、Landgraf氏の考え方、番組制作への姿勢などが書かれています。とても長い記事ですので一部を抜粋して紹介します。

Landgraf氏は、コンピューターやネットは、人類がこれまでに経験したほとんどのものより影響が大きい。それは認識的なものであり、文化的なものだといいます。その結果、視聴者がある番組を見るか見ないかを判断する時間は10秒から25秒ほどになった。制作時の懸念事項として、この点を挙げています。同氏が作り上げたFXはメディア業界では珍しく、一つの判断ミスで職を失うことを恐れる人がいない、つまり失敗を恐れない企業文化です。将軍はシーズン1の制作費だけで推定2億ドルがかかっていますが、Iger氏は「Landgraf氏とそのチームは優れた創造性を見抜く目を持っているだけでなく度胸もあります」「大胆不敵で大きなリスクを厭わない」といいます。結果的に将軍は大成功を収めましたがLandgraf氏は「ほっとしたのと興奮したのと半々でした。この作品にすべてを賭けていた」。エミー賞を18部門で受賞し、FXはHBOやNetflixを抑え、受賞数で初めて業界トップとなりました。ただそれまでの道のりは順風満帆ではなかったようです。将軍の制作に理解を示し制作を承認したIger氏が2019年に退任、新CEOの新たな経営姿勢は「ビジネスとクリエイティブを機能的に分離したため困難な状態に陥った」といいます。切り離したことで互いが協力関係になるのではなく反目させることになってしまったようです。ただその後、2022年にIger氏がCEOに復職。Landgraf氏は「Bob(Iger氏)がいなかったら何も存在しなかった。私はここ(FX)にいなかったでしょう」。ディズニー・エンターテイメントの共同会長は「FXを特徴付けているのはLandgraf氏の審美眼、知性、アーティストやクリエイターに対する深い愛情、物語へのセンス、そしてテレビと映画に関する百科事典のような知識だ」とコメントしています。

◆ 業界再編(M&A)

ComcastのSpinCoは売られるのか? それとも買い手になるのか?

SpinCoのCEOに就任するMark Lazarus氏がテレビ局グループやスポーツ関連企業を買収する可能性を示唆しているようです。分離・独立会社化を発表した場でも「投資を行い、さらなる規模拡大を図る絶好の機会」とコメントしていました。Comcastはケーブル事業者向けのチャンネルを2015年以降、8つ閉鎖しており、現在のSpinCoはワーナーやパラマウントの同事業よりは健全な状態にあるといわれています。実際、Comcastは「(SpinCoは)十分な資本力と優れた信用指標のバランスシートを持っている」といいます。ただ、別の可能性としてファンドがComcastと同じことを考え、SpinCoの買収に動く可能性も否定できません。いずれにしろ有料多チャンネル放送サービスは混乱が続いており、SpinCoの独立会社化は今後、より変革的なM&Aが起こること兆しであることは間違いないようです。

明らかになるSkydanceによるParamount買収が決着するまでの道のり

この記事では買収にあたり証券取引委員会に提出された669ページにおよぶ書類を分析しています。ParamountがSkydanceより有利な条件を求めて設置した45日間の「Go Shop」期間に50以上の会社と接触、さまざまなやり取りがあったことを明らかにしています。時間はGo Shop期間以前に遡りますが、ワーナーとの交渉では買収条件が折り合わず、Comcastとは当初、配信サービスの共同事業に関して可能性を協議。ジョイントベンチャーを設立した場合、Comcastが過半数を支配できるなら前向きに検討すると伝えていたようです。ただ、並行して協議していたSkydanceとの交渉が前進しComcastとの交渉は中断。その後、Go Shop期間中にComcastに接触したものの新たな提案は出されなかったということです。それ以外にもApollo、ソニー、ファンド、謎の集団からの提案などさまざまな交渉の過程が記されています。

米国の制作スタジオが分割、LionsgateがStarzを分離

Lionsgateが正式にSEC(証券取引委員会)へ分割計画書類を提出しました。SECが質問やプランの明確化を求めない場合、有効と宣言されます。形式的には現在のLionsgateから新会社Lionsgate Studioが分離独立し、LionsgateがStarz Entertainmentに社名変更されます。

Bending Spoonsが日本でも配信プラットフォームを展開するBrightcoveを買収

イタリアのBending Spoons社が2億3300万ドルの現金取引で買収します。同社はスマホの画像加工アプリ「Remini」などの開発元です。2022年にはEvernoteを買収しています。

◆ 業界動向

2024年は世界の55億人がネットに接続、まだ世界人口の1/3は未接続

ITUの最新の統計によるものです。ネットに接続している人は2023年から推定値で2億2700万人増加しました。ただ、依然、世界の26億人、32%は未接続ということです。ITUが課題としているのは低所得国・発展途上国での接続率の向上。統計によると高所得国では93%がネットを利用しているのに対し、低所得国は27%にとどまっています。

モバイルの加入者数とデータ使用量の増加ペースが鈍化

世界を対象にモバイルサービスの利用動向を調査したEricssonのレポートによるものです。第3四半期のデータ使用量(トラフィック)の伸びは前年同期比で21%にとどまりました。これは昨年の25%から減少しており、3年前の40%、6年前の95%と比べると大幅な減少です。この傾向は今後も続き2030年には16%になると予測しています。利用者数の伸びも減少しています。2022年と2023年の新規利用者は1億6000万人。2015年から2021年は毎年2億人でしたので、こちらも大幅な減少です。記事では要因を分析しようとしていますが結論は「わからない」となっています。

生成AIを搭載したスマホの売れ行きは期待はずれ?

IDCによる分析です。「生成AIは依然ベンダーにとっては最優先事項であるものの、需要に大きな影響を与え、ユーザーの買い替えを促すまでには至っていない」とコメント。要因として生成AIを活用したキラーアプリの不在を挙げています。もっとも今後については生成AI搭載スマホの価格低下とともに需要が増え、2028年にはスマホ販売数全体の70%を占めると予測しています。

◆ メディア

地上波、有料放送、配信という分類は現実にそぐわない? 米国の広告団体が新たな分類を提案

ARF(Advertising Research Foundation)によるものです。テレビを地上波、ケーブルなどの有料放送(多チャンネル)で見る人が減り、主流が配信サービスに移る中、従来の分類は現実にそぐわないというものです。新たな分類は6種類です。アンテナで地上波放送だけを見ている世帯は「OTA」、米国では15.4%の世帯が該当します。STBなどを使用して有料放送を見ている世帯は「Pay via hardware」で34.7%、アプリで有料放送を見ている世帯は「Pay via App」で3.3%、STBとアプリを併用している「Pay via Both」は9.2%、YouTubeなど配信での多チャンネルサービス「vMVPD」は11.8%、FASTなどを使用しOTAや有料サービスを使用していない「Digital Only」が25.6%です。

米国司法省や17州の司法長官がFuboを支持する意見書を提出、Venuのサービス開始は当面厳しい状況に

VenuはNFLなどのシーズン開幕にあわせ、今年の秋にサービスを開始する計画でした。このVenuに対し、Fuboが独占禁止法違反で訴え、サービス開始の取り止めを求めた仮処分申請が認められていました。Venuはこの仮処分の解除を求めていますが、今回提出された意見書により厳しい状況になっています。なお、意見書には「被告(Venu)の共同事業は、関連市場における競争を大幅に減退させる」と記述されています。

◆ 新技術

フランスの大手テレコムOrangeがprplOS搭載ホームゲートウェイを2025年に投入

ネット、固定電話、TVサービスに対応したゲートウェイ「Livebox 7 Essential」を、まずルーマニア、その後、欧州全域に投入する計画です。既存OSの置き換えを念頭にAT&Tやベルなどと協力して開発したprpl(Purple、パープルと発音)OSを搭載しており、アプリのダウンロードにも対応しているようです。

◆ インフラ

モバイルの6Gへの取り組みが2025年から本格化、2030年に商用サービスを目指す

6Gの仕様策定を主導している3GPPの取り組みをQualcommのJohn Smee氏がコメントしています。モバイル規格の重要な要素である無線インターフェイスの策定を2025年に開始、2028年から2029年にかけてフィールドでのテストを実施する計画です。

英国でファイバーを敷設する中小のネット事業者が苦境に

英国では一般家庭にネットサービスを提供するISPとファイバーを敷設・運用する事業者が分離されています。敷設事業者の最大手はBTグループのOpenreach、次いでVirgin Media O2のNextfibreとなります。このほかにも代替ブロードバンドプロバイダー、altnetsと呼ばれる事業者が多数設立されていますが、大手との競合により十分な顧客が得られず経営が苦境に陥っているというものです。altnetsの数は150から100まで減少したものの、それでも多くの企業は数千万ポンドの売上した得られていないようです。GlobalDataの分析ではファイバーを敷設したエリアで30%以上の顧客を獲得することが経営を軌道に乗せるための目安となりますが大半が到達していません。altnetsはネットワークの建設・拡大に重点を置きすぎており顧客獲得、特に法人顧客の獲得を怠っているのが問題ではないかとしています。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

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