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海外メディア・通信業界動向 1/8〜1/14

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

AIとセンサーによりスマートホームは新たな段階へ

ラスベガスで開催されたCESで各社が発表しています。LGはMicrosoftと戦略的提携を発表、家電製品にMicrosoft Copilotを導入します。生成AIと家電に搭載されたセンサーにより人が何をしているかを理解し、その上で人とAIが会話を行い機器を制御するデジタルアシスタントの開発を進めています。今回のCESではテレビを中心と位置付けた発表が多いようです。中国のテレビメーカーTCLはGoogleのGemini(AI)をテレビの一部モデルに組み込むことを発表。センサーとマイクを組み込むことで、テレビを進化させ新しい利用方法を育んでいくということです。HisenseはGoogle Homeを自社機器へ導入すると発表、Samsungは「AI for All」を掲げ「ホームAIの時代」をアピールしています。

◆ 業界再編(M&A)

Disney、Fox、ワーナーがVenuのサービス立ち上げ中止を正式に発表

米国時間で1月6日にDisneyによるFuboの買収とVenuに関する和解が発表されたばかりでした。Venuという会社は去年から活動を開始していますが、社員に立ち上げ中止が伝えられたのは1月9日の遅い時間、正式に中止を発表したのは1月10日です。社員は和解発表によりサービス立ち上げに向かうと考えていたようですが、急転直下の結果となりました。Venuに対するFuboの独占禁止法違反の訴えは衛星放送事業者であるDirecTVやDishが支持を表明していました。Fuboと和解しても別の事業者から訴えられる可能性があり、そういった訴訟リスクを避けたのが中止の理由のようです。なお、Disneyは8月にESPNのフラッグシップと位置付けられる配信サービスを計画しています。これはESPN+と異なりESPN(放送)で扱われるすべての番組が配信されるということです。

再掲(1/6):DisneyがFuboを買収しYouTube TVに次ぐ配信サービスが誕生、Venuに関する訴訟は和解へ
DisneyがFuboの株式の70%を取得し、Disney傘下のHulu+Live TVとFuboを管掌する新会社を設立します。FuboはDisney、Fox、ワーナーが共同で設立したメガ・スポーツ・アライアンス「Venu」を独占禁止法で訴えていましたが、これも和解します。

◆ 規制・政策

英国の担当大臣が国営放送BBCの財源のあり方を検討、受信料以外を模索か?

まだ検討段階のようですが、英国の文化・メディア・スポーツ大臣(Secretary of State for Culture, Media and Sport)が示唆しています。現在の受信料収入に依存した形は「財政的に持続可能ではない」と考え、一般税としての徴収を含む新たな資金調達モデルを検討しています。英国の「王立憲章(Royal Charter)」はBBCの目的、使命、公共における存在意義を定めており、BBCの憲法上の根拠となるものです。この憲章は10年ごとに更新されており、現在のものは2017年1月1日に発行し2027年末で失効します。更新タイミングに向けてBBCのあり方が検討されているようです。

欧州委員会がドラギ・レポートの支持を表明か?

まだ正式な報告書は公開されていませんが、一部のメディアが入手した草案に記載されているようです。

再掲(11/21):LGI、ドラギレポートに賛意、欧州での規制緩和を促す
ドラギレポートによれば、欧州は転換期にあり、生産性と成長を改善するためには、今、あらゆる手段を講じる必要があると書いています。これに対しLGIは「歓迎すべきものであり、一翼を担うことを厭いません」とコメントしています。デジタルやテレコム分野においてもEU域内の統一市場化を進め、規制緩和や規制に関する負担を軽減すべきだというものです。加えて「競争規則の改革」を求めています。世界的な競争を行うための柔軟なルール、つまり世界で存在感を発揮できる大規模合併への道筋を求めているようです。

中国工業情報化部、10ギガの光サービス促進を中国の関連事業者に通達

工業情報化部は中国の行政機関で日本でいうところの「省」に該当する組織です。10ギガの光サービスの開発促進は、投資の活性化や新たな情報消費の促進、産業化の推進、デジタル変革の支援において重要な役割を担うとしています。中国では世帯の80%は光ファイバーのサービスエリアですが、3つの通信事業者のレポートによると1ギガ以上のネットサービスの普及率は20~34%と低いままです。これを国策により改善したいようです。

◆ 業界動向

米国の有料多チャンネルサービス、第3四半期は30万5000世帯の減少

第3四半期の過去3年間は2021年が61万6000の減少(以下、すべて減少数)、2022年59万7000、2023年53万7000でしたので、減少幅はやや落ち着きの兆しが見られます。ただ、2024年1月から9月まででは累計430万世帯が減少しており、依然、大きな数値です。なお、この有料多チャンネルサービスにはケーブルや通信事業者が提供するMVPD(Multichannel Video Programming Distributor)とYouTube TVなどの仮想MVPDの両方が含まれています。MVPDだけに限定すると第3四半期は164万世帯の減少、その中でもっとも減少したのはケーブル事業者で91万9000減でした。MVPDの総数は4818万世帯です。一方の仮想MVPDはYouTube TVの80万世帯の増加を筆頭に合計133万世帯の増加、総数は2033万世帯になりました。調査会社によれば、2029年までに有料多チャンネルの半数が仮想MVPDになると予測しています。

参入相次ぐTV OS、テレビメーカーの奪い合い状態に

今年早々にXperiがTiVoを搭載したシャープ製テレビを米国で2月に発売することを発表。米国ではRokuを筆頭にVizio、Google TV、Amazon FireTV、ComcastとCharterのXumoがありますが、新たな参入も相次いでいます。年初、Xperiと同じタイミングで発表したのがシンガポールのWhale TV。第1四半期にWhale OS 10のリリースとテレビメーカー向けの新たな利益配分プログラムを発表しました。Whale TVプラットフォームの収益の最大40%を還元するという大盤振舞いです。VIDAAはHisense傘下のTV OSメーカーで、2024年は月間アクティブユーザーが3300万になったと発表。平均利用時間も10%近く増加しており平均だと1日あたり1時間52分でした。

Xumo搭載テレビにシャープ製が登場

シャープのQLED(量子ドットLED)が搭載された2025年モデルがベースになるようです。Xumoのユーザーインターフェイスとなり音声検索機能をサポート。数百のアプリも搭載されます。対応スピーカーが必要ですがDolby Atmosの再生も可能だということです。発売日やサイズなどのラインナップは明らかにしていません。Xumo搭載テレビを製造するのはElement、Hisense、パイオニアに続いて4社目となります。

ComcastがParamountと放送チャンネル・配信サービスに関する複数年契約を締結

Xfinity TV、つまりComcastの多チャンネルサービスで提供するCBSやMTVといったParamount系の放送チャンネル、Paramount+やShowtimeなどの配信サービスが対象です。Xfinityの加入者にParamount+を提供する権利を含みます。

Comcastの配信サービスPeacock、ミニゲームと縦型動画を導入

今月からiOSとAndroidのアプリで一部のユーザーに試験的に導入、今春後半に本格展開を予定しています。競合となるNetflixやYouTube、Sling TVなどはすでに無料ゲームを提供しており、これに対抗するものです。配信する番組に関連したゲームなどを展開し、ユーザーの関心をより強く惹きつけることを狙っているようです。縦型動画は、Peacockのスポーツやニュースなどの番組から提供されます。米国ではTikTokが禁止される可能性があり、また競合のTubiが「Scenes」でショート動画をサポートするなど若者世代で普及している視聴スタイルを導入する動きが活発化しています。

◆ メディア

ソニーが事業戦略における重点分野の一つにアニメ、今後の成長に期待を寄せる

ラスベガスで開催されているCESにソニーの十時社長、CrunchyrollのRahul Purini社長、アニプレックスの岩上社長が登壇し、アニメの成長に大きな期待を寄せていることを示唆しています。Crunchyrollは2020年にAT&Tから12億ドルで買収した当時の加入者数は300万人でしたが、2024年7月には1500万人に増加しています。今年の後半には「鬼滅の刃」の3部作を公開する予定です。鬼滅に対するファンベースは世界レベルで大幅に増加しており、ソニーグループ各社がアニメを軸にグローバルで協力できる機会は多数ある、アニメのキャラクターや知財は数十年という長さで受け入れられ、ソニーは持続可能な成長のためにこの分野に投資していきたいとコメントしています。PlayStationのゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」を原作とするアニメシリーズをCrunchyrollとアニプレックスが共同制作することも発表、さらに映画化もソニー・ピクチャーズで進行中ということです。

英国で存在感を増すNetflix、BBCなど既存放送局との激しい競争が続く

英国の国営放送BBCは放送チャンネルだけでも5チャンネルあり、これとは別に配信サービスでも番組を提供しており、英国でもっとも人気のある放送局です。一方、Netflixの存在感も増しており、2024年はBBCの中で筆頭格となるBBC1チャンネルが、初めてNetflixに視聴者数でトップの座を明け渡したというものです。通年ではなく9月から11月までの3ヶ月間のみですが、BBC1の平均視聴者数が4230万人だったのに対し、Netflixは4320万人と上回りました。ただし12月はBBC1がトップに戻っています。12月の放送局のチャンネル全体(合計)で見るとBBCは5270万人でNetflixの4640万人を引き離しています。ただNetflixは8月以降、英国2位のITV(放送局)と激しいデッドヒートを繰り広げています。

米プロレスWWE Netflixでの初回配信は全世界で490万回視聴

1月よりNetflixでの配信が開始されたWWE Monday Night Rawの初回配信は米国では平均260万世帯が視聴。これは2024年にUSAネットワークで放送されていた平均視聴者数の約2倍以上という結果でした。全世界で見ると、カナダ、イギリス、ラテンアメリカ諸国、オーストラリアなどの配信地域を加えた490万世帯となります。
これは、Netflixの平均視聴回数の基準からすると高い数字ではないものの、Netflixの配信では視聴できないフランス、ドイツ、イタリア、韓国、インド、日本、フィリピンなど92か国がある為、真の実力はまだ発揮されていないともいえます。

米国では配信サービスの広告付きプランの受容性が拡大

米国で週に1時間以上テレビを視聴する14歳から74歳までの消費者3000人を対象にしたHubによる調査レポート「TV Advertising: Fact vs. Fiction(テレビ広告:事実と虚構)」によるものです。調査によれば配信サービスの月額料金が3、4ドル安くなるのであれば広告付きプランを選ぶかという問いに対し肯定的に答えた割合が2021年6月の58%から2024年12月は66%に増加しています。広告に対する印象では、ライブ中継の広告のほうがオンデマンド視聴中より2倍近く肯定的な結果です。これはスポーツ中継などの広告が試合をじゃましないように工夫されている結果だと分析。このほか、実際に広告を見ているかも調査しています。大半を見ていると答えたのはライブが32%、FASTが25%、オンデマンドが27%、逆に全く見ていないと答えたのはライブが31%、FASTが34%、オンデマンドが36%でした。

◆ インフラ

FTTHの建設費削減策、水道管に光ファイバーを通すAqualinq

地下に光ファイバーを埋設すると多額の建設費がかかります。電柱を使って空中に敷設すればコストは下げられますが、悪天候の被害を受けやすく、また電柱への取り付け認可が必要です。これらを解決する方策としてAqualinqは水道管を使った敷設を推奨しています。人の住んでいるところには必ず水道管があり、また大勢が住んでいるところには太い水道管が敷設されている。ここにファイバーを通すことは理にかなっているというものです。水道管ファイバーを実現するために、独自の技術を開発しているようです。水道管には栓(バルブ)が設けられていますが、このバルブ間にファイバーを通す仕組み(専用の器具を用意しているようです)、バルブの迂回などです。課題は水道事業者が水質へのリスクを負うのに対しメリットが薄いこと。敷設したファイバーによる通信サービスの提供や利用料の支払いなどを行なっているようですが、普及の決め手にはなっていません。米国では川底や線路、高速道路などファイバーの建設が困難なエリアで、ケンタッキー州とワシントン州の2都市で利用されています。

英国、ネット・トラフィックの伸びが急減

Openreachが公開したデータによるものです。これを報じたLightreadingによればOpenreachの公表値には不自然な点があると指摘しており、独自に補正を行なっています。この補正後のデータによれば、コロナ禍の在宅勤務などでトラフィックが激増した2020年は前年比で120%(2倍以上)もの増加を記録したのに対し、2021年は50%、2022年は20%、2023年と2024年は10%程度まで伸び率が急減しています。CDNベンダーなどが公表しているデータでも世界のトラフィックの伸び率が10%以下まで落ちており、Openreachの数値はこれを裏付けるものです。

Liberty Globalなどが出資するNexfibre、光ファイバーのカバー世帯数が200万に到達

Nexfibreは2022年にTelefónica、Liberty Global、InfraVia Capital Partnersが45億ポンドで設立した光ファイバー網を建設、提供するファイバーの卸売事業者です。英国のネットサービスでは一般家庭にサービスを提供するISPと、ISPにファイバー網を卸売する事業者が分離する方向で再編が進んでいます。TelefónicaとLiberty Globalは共同でISP事業者VMO2(Virgin Media O2)を保有しており1600万世帯を対象に自社保有のファイバー網でISPサービスを提供しています。Nexfibreはこれ以外のエリア700万世帯でのファイバー網構築を進めています。10月末時点では156万世帯でしたので2ヶ月間で44万世帯が追加されたことになります。なおVMO2は今年前半に自社保有の1600万世帯のファイバー網をファイバー卸売事業者NetCoとして分離する計画です。

Amazon、衛星ネット事業で英国に参入か

Amazonが推進しているプロジェクト「Kuiper(カイパー)」は、Starlinkと同様に低軌道衛星を用いた衛星ネットサービスを提供する計画です。これを英国で行うため、使用する周波数へのアクセス免許を申請したということです。専用のアンテナで住戸(世帯)にネットサービスを提供する形態のほか、スマホと衛星が直接通信するD2D(Direct to Device、端末直接接続型サービス)も検討しているようです。英国の規制当局Ofcomは、今後、数ヶ月の協議を経て早ければ年内にもD2Dサービスが利用可能になる可能性があるとコメントしています。

◆ 新技術

NVIDIAがメディア業界向けAI基盤「Media2」を発表、Skyが評価を開始

Media2のことをNVIDIAは「AI-powered initiative」という呼び方をしています。メディア業界に向けたAI基盤で、コンテンツ制作、配信、ライブメディア体験を変革するとコメントしています。これをComcast傘下でヨーロッパでメディア事業を展開するSkyがラボに導入、スポーツ中継で要約を表示させたり、関連情報へアクセスするなどスポーツを対話的に楽しめるようにできるか評価を行なっているようです。

来月にも月面にモバイル基地局が設置され映像のストリーミング配信が可能に

現実のお話です。Intuitive Machinesが来月、月への飛行・着陸を予定している宇宙船「Athena」にNokiaの月面通信システム(LSCS)を搭載。このLSCSにはモバイル端末のような機能を持つ装置があり、これを月面車両に搭載。車両から宇宙船、宇宙船から地球へHD画質の映像をストリーミング配信できるということです。LSCSはモバイル4G/LTEの技術が使われており、月面初のモバイルネットワークを展開する計画です。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

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