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海外メディア・通信業界動向10/30〜11/5

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

米国にはケーブル事業者の業界団体としてNCTAという組織があります。National Cable Television Association(全米ケーブルテレビ連盟)の略語でしたが、現在、この言葉は使われておらず、「Internet & Television Association」に変わっています。背景にはケーブル事業における多チャンネル放送サービスの位置付けの変化があります。ケーブルテレビは文字通り「テレビ」から始まり、長い間、テレビ事業が中心でした。そこに固定ネットや電話、モバイルが加わり、徐々に事業の中心が固定ネットへシフト、もはやテレビだけの事業者団体ではないというのがNCTAの主張です。今週、Comcastからこの流れをさらに進める動きが発信されています。

◆ 業界動向

Comcast、放送事業の一部切り離しを検討

ComcastのMike Cavanagh社長が第3四半期決算発表でコメントしています。ケーブル事業者の既存テレビサービス(リニア放送)で使われるNBCUniversalのケーブル(放送)ネットワークが対象で、これを切り離し分社化、株式公開を検討しているということです。NBC自体、NBCの放送事業ではありません。Comcastは6つの主要な事業領域、すなわちネット(家庭向け固定ネット、モバイル)、法人販売、テーマパーク(Universal Studio)、配信サービス(Peacock)、プレミアムコンテンツ(NBCなど)、映画スタジオ(Universal)を成長ドライバーと位置付けており、これらは第3四半期に9%の成長を達成しています。一方、ケーブル事業の放送サービスはすでにこの主要事業から外れており、新たな展開を検討しているものと思われます。

Comcastの固定ネット加入者、第3四半期は8万7000の減少も回復の兆し

内訳は個人向けが7万9000減、法人向けは8000減で、期末の総数は3798万加入です。前年同期は1万8000減でしたが、今期の減少にはブロードバンド支援プログラムACP(Affordable Connectivity Program)の終了が大きく影響していますので単純比較はできません。むしろ第2四半期は12万減でしたので回復の兆しが見えてきたといえそうです。ComcastもACPの影響がなければ9000増だったとコメントしています。ただ、Comcast CableのDave Watson CEOによれば、FWAやFTTHとの競合、加入者の流動性の低さ(解約率の低さ)などは変わっておらず、競争は依然として厳しいようです。
Comcastは第4四半期からセールスでAIの活用を開始しますが、その影響についてはコメントしていません。サービスエリアの拡張も行っています。第3四半期は32万世帯を追加、2024年は合計120万世帯が新たなComcastのサービスエリアとなります。
Xfinity Mobileは前年同期の29万4000増を上回る31万9000増となり総数752万加入となりました。連結売上は前年同期比で6.5%増の321億ドル、モバイル事業は19.2%増の10億9000万ドル、固定ネットは2.7%増の65億3000万ドル、法人向けは4.5%増の24億2000万ドルです。アナリストによればモバイル事業は2025年に通年で50億ドル規模になると予測しています。

Comcastの配信サービスPeacock、第3四半期は300万増の3600万加入

放送を含めた平均視聴者数が3100万人となり、東京五輪と比べ82%増加したパリ五輪が追い風になったようです。黒字化はできておらず4億3600万ドルの損失でしたが、前年同期の5億6500万ドルの損失からは改善しています。

Charter、第3四半期の加入者数はテレビが29万4000、固定ネットが11万の減少

テレビ加入者は前年同期は32万7000の減少でしたのでこれと比べると改善していますが、前年はDisneyとの契約更新が難航し放送を中断した影響が出ていましたので単純比較はできません。固定ネットは前年同期は6万3000の増加でした。Charterによれば、5月にACPが終了した影響が及んだためとしています。固定ネットの総数は3030万世帯となりました。モバイルは引き続き好調で59万4000件の増加、総数は940万件となっています。売り上げは1.6%増の138億ドル、利益は2%増の12億8000万ドルです。
ケーブルの多チャンネル事業については「顧客獲得に役立つ。依然としてキャッシュフローを生み出しており、オプション価値も提供している」、テレビ事業の成長を予測しているわけではないと前置きしながら「(セールスなどの)初期の傾向は、大幅な上昇を示している」とコメントしています。CharterはDisney+やMaxといった大手事業者の配信サービスをテレビ加入者が無料で利用できる施策を推進しています。2025年初頭には、仮に個々に配信サービスと契約した場合、月額78ドル相当になるまで増やしていくと発表しました。

Roku、第3四半期に配信世帯が300万の増加、合計8550万に

アナリスト、およびRokuが以前示していた予測を上回っています。重要なマイルストーンにしている1億世帯の達成は、12〜18ヶ月以内に達成の見込みです。Rokuによれば、世帯数の増加は大半が米国外からもたらされている一方、収益の大半は米国から得ているといいます。なお、今後、配信世帯数の発表は行わないと表明しました。世帯数が事業の成長を表すものでないというのが理由です。代わりに配信サービスの再生時間、セグメント収益、調整後のEBITDA、フリーキャッシュフローで示していくようです。第3四半期の総再生時間は320億時間で前年同期比20%増、第2四半期の301億時間を若干上回っています。売り上げは前年同期比16%増の10億6200万ドル、粗利益は30%増の4億8000万ドル、調整後のEBITDAは9820万ドルでした。第4四半期の売り上げは16%増の11億4000万ドルを見込んでいます。

55インチのXumoテレビなどをスーパーマーケットで販売

全米で2000店舗を展開するスーパーマーケットTargetで販売されます。55インチが249.99ドル、65インチが359.99ドルです。テレビはComcastのEntertainmentOSを搭載しています。すでにWalmartなどでは販売しており、これにTargetが加わることで、Xumoテレビを購入できるのは8000店舗まで拡大します。米国ではRokuやFireTVなどを搭載したスマートテレビが普及しています。ComcastとCharterの合弁事業であるXumoが、このマーケットに挑戦しています。

Samsung TV Plusが月間アクティブユーザー8800万人を達成

Samsungによればグローバルな視聴が前年比で50%以上増加したということです。急増した要因として米国のZ世代、ミレニアル世代、X世代のユーザー基盤を挙げています。また、最近、シンガポールとフィリピンでサービスを開始、今後タイでも予定しており世界30地域で利用可能になります。こういったエリアの拡大も背景にあるようです。Samsung TV PlusはFASTと広告付きVODなどで構成される無料の配信サービスです。

AT&T、FTTH障害時にモバイル5Gに切り替わる統合型ゲートウェイ

FTTH回線に障害が発生すると自動で5Gに切り替わり、復旧するとFTTHに戻ります。この統合ゲートウェイを法人顧客を対象に2025年から投入していく計画です。

Altice USA、テレビ加入プランの組成を見直し

2022年秋にAltice USAの経営陣に加わった元Comcast幹部によれば、既存のテレビプランは破綻しており組成を見直す方針を示していました。スポーツチャンネルや主要ニュースチャンネルをほとんど含まない低価格(30ドル)のプラン「Entertainment TV」、125以上のチャンネルにニュースとスポーツチャンネルを追加した「Extra TV」、Entertainment TVとExtra TVを合わせ、さらにStarz EncoreやNFL Network、YESなどを加え200チャンネル以上にした「Everything TV」です。

◆ メディア

主要配信サービスの広告収入、第3四半期は44%増の35億ドル

MoffettNathanson Researchによるものです。時期や期間は明記されていませんが、おそらく第4四半期の配信サービスは44%の増加になるとする一方、放送やケーブルネットワークは6.3%の減少と予測しています。第3四半期は配信サービス主要10社の合計が35億ドル、放送やケーブルネットワークは51億ドルと推計しています。

Netflix、Universal作品の独占配信契約をアニメ以外にも拡大

これまではUniversal傘下のIllumination、DreamWorksが制作していたアニメ映画を独占的に配信していました。2027年から、これを実写映画にも拡大します。Universalの映画は劇場公開後、まずPeacockで配信され、その後、Netflixに移り独占配信されます。これらは劇場公開から8ヶ月以内に行われ、Netflixでの独占配信期間は10ヶ月間となります。また新作以外に過去の作品もピックアップして提供していきます。
Netflixが2024年前半に公開したアニメ作品トップ10のうち8作品がUniversalのもので、任天堂も制作に参画した「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は米国で38週もトップを維持したということ。こういった高い人気が今回の契約拡大の背景にあるようです。

Netflix、Disney、Comcastなど6社の番組制作費が2024年は総額1258億ドルに

Ampere Analysisによる予測です。Netflix、Disney、Comcast、Google、ワーナー、Paramountの合計で、2020年から47%増加しています。メディア業界全体に占める6社の割合も半分以上となる50.6%で、こちらも2020年の46.8%、2023年の47.5%から増加しています。また、この中から400億ドルは配信サービス向けに割り当てられるようです。ただ、今後については、各社が見直しを図るため頭打ちになると予測しています。会社別の支出額では多い順にDisney 358億ドル、Comcast 245億ドル、Google 176億ドル、ワーナー 168億ドル、Netflix 160億ドル、Paramount 151億ドルとなっています。

合併後のSkydanceとParamount、David Ellison氏が全権を掌握へ

以前、合併プロセスで必要な書類をFCCに提出したときは、David氏の父親であるオラクルの創業者Larry氏が過半数の株式を所有すると記載されていました。これが更新されています。2025年前半に予定されている合併プロセス完了後にDavid氏は新生Paramountの会長兼CEOに就任する予定です。なお、併せてEllison一族の資産などを管理する事業体の単独経営者にも指名されました。余談になりますが、日本文化に造詣の深いLarry氏の影響でしょうか、事業体の名前はHikouki LLC、Furaito LLC、Aozora LLCと命名されています。

◆ インフラ

FDX/ESDの統合DOCSIS 4.0検討のためDOCSIS 4.0への投資は遅れる?

Harmonicが第3四半期の決算発表の場でコメントしています。2025年初頭にはDOCSISへの投資が減速する可能性があるようです。SCTEでBroadcomが統合DOCSIS 4.0対応チップをすべてのケーブル事業者に供給可能になったと発表しています。これまでは合同開発契約を結んだComcastやCharterなど一部に限られていました。これ受けて関心が統合DOCSISに移っているようです。
Harmonicの第3四半期の売り上げは前年同期比54%増の1億9580万ドルでした。好調な背景にはクラウドで稼働する仮想CMTS「cOS」が広くケーブル事業者に受け入れられている点が挙げられます。顧客は第3四半期に3社が加わり合計121社に、cOSに接続されているモデムは第2四半期の3010万台から3200万台に増加しました。cOSはFTTHもサポートしています。懸念材料としては売り上げの70%近くをComcastとCharterの2社だけで占めている点です。なお第4四半期の売り上げは2億500万ドルから2億2000万ドル、通年では6億6200万ドルから6億6700万ドルを見込んでいます。

英国、FTTHの世帯カバー率が70%に到達

Point Topicによる調査結果です。第2四半期の67.7%から第3四半期は70.5%、2320万世帯になりました。ファイバーを敷設している事業者が複数いるエリアもあります。2つ以上の事業者がFTTHを提供しているエリアは830万世帯、3つ以上は110万世帯ということです。

◆ 新技術

Google、スマートホームの制御にAI「Gemini」を使用可能に

Google Homeの拡張機能をGeminiアプリに追加できるようになります。現在はGoogle Homeパブリックプレビューの一環としてAndroidユーザーに提供されています。より自然な、抽象的な表現でも照明やエアコンなどの制御ができるようになります。制御可能な機器は照明、エアコン、テレビなど。セキュリティに関連するカメラ、ロック(鍵)などは対象外です。

◆ 業界再編(M&A)

米国の衛星ラジオSiriusの筆頭株主がLiberty MediaからBerkshireへ

10月末の3日間で新たに6070万ドル分の株式を取得、発行済み株式の33.2%を所有したことで筆頭株主がJohn Malone氏のLiberty MediaからWarren Buffett氏のBerkshire Hathawayへ変わっています。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

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