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海外メディア・通信業界動向 2/12〜2/18
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
BTが導入するマルチキャストを使用したトラフィックの効率化技術MAUD
BTのディレクター、Ian Parr氏がトラフィックの効率化技術MAUD(Multicast-Assisted Unicast Delivery)について解説しています。配信サービスを提供する事業者側、つまり送信側とそれを受信、つまり使用する世帯側は従来と変わらずユニキャストを使用しますが、その中間、BTのネットインフラではマルチキャスト化することで、トラフィックを効率化する技術です。たとえばBTの同じネットワーク内で同じライブ中継を100人が視聴していたとします。ユニキャストの場合は、100人分のストリームが個々に流れますが、マルチキャストでは原則1本となり大きな効率化が見込めます。ポイントとなるのは、配信事業者側にも、それを再生するユーザーのアプリ側にも修正が必要ないことです。配信事業者からCDNを通じてBTのネットワークに入ってきた時点で、それをマルチキャストに変換、ユーザー宅に設置されたBTのルーターが再びユニキャストに戻すのです。
BTは開発パートナーであるBroadpeakと共同で1000人以上のBT利用者を対象に検証を行なっており、年内の商用展開に向けて準備を進めています。2024年第4四半期には実際の使用環境での耐障害性の検証や配信事業者との連携強化、サービスの拡張と最適化を実施。BTのルーターは最新モデルはすべてMAUDに対応しており、既存モデルも毎年200万台のペースで置き換えており、数年のうちにすべてのMAUD対応が完了する見込みということです。
◆ 規制・政策
米国のメディア業界で吹き荒れるDE&Iへの取り組みの方針変更
FCC(連邦通信委員会)がComcastのDE&I(diversity, equity and inclusiveness、多様性、公平性、包括性)に関する取り組みを調査します。FCCのCarr委員長は、ComcastにおいてDE&I関連の雇用と昇進が増加していることに言及した上で「不当な差別を助長することは、連邦法のいかなる合理的な解釈とも一致しない」とコメントしています。Comcastは調査に協力する意向です。別記事になりますが、同時期にDisneyはDE&I戦略を変更。1940年代と50年代に制作された古い作品の中には人種差別的な描写が見られるものがあります。Disneyは2019年にこういった作品に対し「このプログラムはオリジナル作品として提供されています。時代遅れの文化描写が含まれている可能性があります」というテロップを追加しました。2020年には、これをより長い文章に変更しています。そして、今回、これをまた2019年当時の文章に戻すということです。
ParamountとSkyDanceの合併、(米国)証券取引委員会と欧州連合が承認
連邦通信委員会(FCC)の承認も必要ですが、まだ得られていません。
◆ メディア
スポーツのライブ中継、遅延時間を気にするなら放送、配信ではComcastが最短
2月9日に行われたスーパーボウルのライブ中継での遅延時間をまとめています。フィールドで実際にプレイされてからユーザー宅のテレビなどで表示されるまでの時間です。Comcastは4Kのネット配信を低遅延で行うと試合前に表明していました。結果、もっとも遅延時間が短かったのはFoxによる放送で11.5秒の遅延。次いでComcastの配信で14秒でした。Phenixが遅延時間を計測しまとめています。これによると最短はtubiの17秒。配信サービスによっては1分以上遅延しているものがあります。
YouTubeの視聴にもっとも使われているデバイス、米国ではモバイルからテレビへ
YouTubeのCEO、Neal Mohan氏が明かしています。米国ではYouTubeの多チャンネルサービス(vMVPD)の加入者が800万人を超えており、また毎月公開されるNielsenの視聴シェアでも大半がトップです。Mohan氏によれば「番組のクリエイターは制作作業に役立つAIを期待している」とコメント、その具体的な支援策として他言語による音声吹き替えを挙げています。吹替音声を付けた番組では、40%以上が吹替音声による視聴だということです。
配信サービスが世界のスポーツ放映権の20%を占める125億ドルを支出
Ampere Analysisによる2025年の予測です。2021年は8%でしたが年々増加し今年は20%になるというものです。支出額のトップはDAZNで全体の1/3を占めます。次はAmazonで2024年の18%から23%に増加。これはNBAの放映権獲得が影響したようです。3位以降はYouTube TV、Netflixとなっています。
1周ぐるっと回って出発点に戻った感じ? FASTを放送で提供する事業者が現れる
米国では放送から配信への世代交代が鮮明になりつつありますが、それと逆行する動きです。いや、進みすぎて、ぐるっと回って出発点に戻った感じでしょうか。FASTチャンネルである「Fubo Sports Network」が放送局であるHC2 Broadcastingと提携し、地上波のチャンネルとして放送され、アンテナ経由で受信するレガシータイプのテレビで受信できるようになったというもの。全米ではなくエリアは限定されるようですが、ニューヨーク市内はほぼ受信できるようです。ただし低画質による放送になるということです。ここでいう放送局とはテレビ電波の送出を専門とする会社を指します。
ESPN、F1の放映権契約の更新はしない方針
F1側に意向を伝えたということです。2026年以降についてはNetflixとNBCが有力視されています。NBCはESPNの前に放映権を保有していました。NetflixはF1をテーマにした人気のドキュメンタリー「Drive to Survive」がありシナジーが見込めます。ESPNによれば、2024年のF1の平均視聴者数は110万世帯。ESPNがF1の放送を開始した2018年は55万世帯でしたので2倍に増えています。
参照(2/8):Netflixが米国でのF1放映権獲得レースに参戦
F1は今年でESPNの独占期間が終了するため、2026年シーズン以降の新たな事業者の選定に入ります。これをNetflixが積極的に検討しているというもの。現在のESPNとの契約は年額9000万ドルですが、これを上回る金額になる可能性があります。なおF1の権利を持っているのはLiberty Mediaです。なお、この交渉はあくまで米国内での配信に限られたものです。
米国の定額制配信サービスのシェアはほぼ固定化
MoffettNathansonによる調査レポート「U.S. Media: Streaming Scale Matters」によるものです。これによると加入者の伸びは鈍化しており、また加入者が視聴した時間数もほぼ横ばいとなっており、市場シェアの変化は起こりにくくなっているということです。シェアは大きく4層に分類でき、最上位がNetflix、その下がDisney(Disney+、Hulu)、続くのがAmazon、最下層はワーナー、Peacock(Comcast Universal)、Paramountです。Apple TV+は圏外という扱いのようです。今後はM&Aによる事業再編が起こらない限り、大きなシェア変動は起こらないと分析しています。なお、この分析はあくまで定額制の配信サービスに限定したもので、広告付きモデルやFASTは活発な変化が起きているということです。
オーストラリアとニュージーランドのDisney+でESPNが視聴可能に
Disney+のすべてのプランでバスケットボールやアメフトのライブ中継などESPNが提供する番組が視聴できるようになります。これまではFetch TVとFoxtelで放送・配信されていました。Foxtelは「番組編成に変更はない(引き続き視聴できる)」と声明を出していますが、加入者の流出につながる可能性があります。Foxtelのテレビ加入者は460万世帯、そのうち1/3がESPNを含むプランの利用者だということです。なお、12月にDAZNがFoxtelを買収することを発表しています。
YouTube TVとParamount、チャンネル契約の更新で期限までに合意できず、ブラックアウトは回避
Paramountが保有するCBSやMTVといったチャンネルの契約更新でYouTube TVと合意できませんでした。配信料(キャリーフィー)が争点になっているようです。しかし両社は既存契約の短期延長には合意、放送の中断を回避しています。延長期間は不明です。なお、このニュースを報じているのは(リンク先の記事は)CBSです。そのCBSが親会社であるParamountにコメントを求めたところ、「ここ数ヶ月に主要な配信事業者と友好的に契約更新しており、YouTubeとも合意できるよう努力を続けていく」という一方、YouTubeは一方的な条件を認めさせようとしていると批判しています。
YouTube TVとParamountがチャンネル契約の更新で合意
当初の更新期限であった木曜(2/13)までには合意できず、放送の中断を回避するため現契約の短期延長を行なっていました。さすがにまずいと思ったのか週末まで交渉していたようで、新たな契約の合意は土曜(2/15)の夜に発表されています。
アカデミー賞への応募条件にAIの使用有無の明確化を検討
AMPAS(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、映画芸術科学アカデミー)が応募資格に関する規定変更を検討しているというものです。背景には、どこまでがリアルで、どこにAIが使われているかがはっきりせず論争になっていることです。記事では具体例として、映画でハンガリー語を話す主要キャラクターのセリフにAI企業Respeecherの技術を利用してより本物らしく聞こえるようにしている、俳優の声域をAIで拡張している、目を認識して自動で着色などを挙げています。
メディアにおける映像コーデックの利用動向、主流はH.264/AVC、次世代はAV1
Bitmovinが34カ国の動画開発者および業界の専門家から調査した結果を「Video Developer Report 2025」としてまとめています。それによると、現在、もっとも使われている映像コーデックはH.264/AVCで全体の79%でした。次いでH.265/HEVCの49%。事業者が次に使用を検討しているコーデックだとAV1が32%、H.265/HEVCが25%です。H.265/HEVCなどの置き換えを目指して規格化されたAV1は2019年に最初のバージョンが公開されましたが、現在のシェアは13%と低いままです。なお記事には明記されていませんが、放送サービスは調査対象になっていないと思われます。
◆ 業界動向
Harmonic、好調な四半期決算を発表するも2025年通年の見通しは厳しい
2024年第4四半期の売上は前年同期比33%増となる2億2200万ドルでした。牽引したのはネット関連で48%増という記録的な業績を達成しています。ただ、あわせて発表された2025年通年の見通しは厳しいものです。アナリストによる予測は7億2700万ドルでしたが、Harmonicはこれを大きく下回る5億8500万ドルから6億4500万ドルという見通しを示しています。主因はケーブル事業者がDOCSIS 4.0への通しを遅らせる、もしくは見送っていることです。Harmonicの売上の43%はComcast向けですが、そのComcastがリモートPHY機器の大部分をCommScopeにしたことも影響しているようです。CommScopeは2月25日に四半期決算を発表します。別記事になりますが、カナダのベンダー、Vecimaも同様の理由で厳しい見通しを示しています。加えてこちらは関税の影響が危惧されています。
Rokuが好調な四半期決算を発表、収益は22%増、利用者は430万の増加
第4四半期の収益は12億100万ドル、純損失は前年同期の7830万ドルから改善して3550万ドルとなりました。収益の大半はプラットフォーム事業で10億ドルを超えています。Rokuのプラットフォームを通じた広告やコンテンツの販売、利用者からの月額利用料などです。これが前年同期比で25%増と業績を牽引しています。背景にはRokuプラットフォーム利用者の増加があり、四半期で430万世帯の増加、合計8980万世帯となっています。なお、年明け早々には9000万世帯を突破しています。STB販売などを行うデバイス部門は7%増の1億6570万ドルでした。
インドのウェアラブル機器の販売数が初めて減少
2023年の1億3400万台から2024年は1億1900万台と11.3%減少しました。特にスマートウォッチの減少数が大きく5300万台から3500万台へ34.4%減となっています。一方、イヤホンは8000万台から8400万台と3.8%増加しています。インドで人気を集めているものは日本ではほとんど見かけないメーカーが大半です。例えばスマートウォッチだと平均価格は23.5ドル、メーカーはシェアの大きい順にNoise、Fire - Boltt、boAtとなっています。
◆ インフラ
T-Mobile、スマホからの衛星ネットをAT&TやVerizonユーザーにも販売
地上のモバイル(電波)が届かないエリアでStarlinkの衛星ネットによりSMSを送信できるようになります。現在は無料のトライアル期間ですが7月から有料化されます。T-Mobile加入者はもっとも高額な「Go5G Next」プランだと無料、それ以外は月額15ドルのオプションサービスになります。T-Mobileに加入していないAT&T、Verizonユーザーにも月額20ドルで提供します。T-Mobileによれば米国でモバイルの電波が届かない50万平方マイル(約130万平方キロ)がカバーされ、トライアルにはすでに数万人が加入、iPhoneの14以降のモデルなどT-Mobileが過去4年間に発売した大半のスマホで動作するようにメーカーと協力しているということです。
◆ 新技術
スタートアップ企業がネットを劇的に高速化する技術を開発?
テキサス州オースティンに本社を置くSpectralDSPは2017年に創業されたスタートアップです。この会社がダウンロードで75%、アップロードで90%、高速化する技術を開発しているというものです。さらにこの技術は既存のハードウェアの変更を必要としない、つまり現在のインフラにそのまま導入できるもののようです。この会社が今話題になっているのは、これまでは水面下で内部資金で開発を行なってきた段階から、広く通信業界から出資を募る段階に移行し活動が見えるようになってきたためです。記事では技術の概要が書かれていますが、OFDMをアレンジした独自の変調技術を用います。ワイヤレスや有線ネットワークに適用可能だということ。ただ、この技術が商用インフラへの適用まで進めるのか、何らかの課題により行き詰まってしまうのかは分かりません。
◆ その他
スーパーボウルのCMコレクション
2月9日に行われたNFL(アメフト)の王者決定戦、スーパーボウルの視聴者は過去最多となる1億2770万人でした。これだけの視聴者を集めるためCM料金も30秒6億円から高い枠だと12億円、試合全体のCM総額だと1200億円を超えると言われています。1回の放映料金です。流すCMも、特別に制作されたものが多く、CM自体が映像作品のようになっています。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所
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