見出し画像

海外動向 8/21〜8/27

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

Paramountの買収案件は、新たな提案を募集する期限が8月21日まで。その締め切り間際となる8月19日にEdgar Bronfman Jr.氏が手を挙げ、検討が9月5日まで行われることになりました。その過程でさまざまな情報が発信され続けています。現在のオーナーであるRedstone氏が今後も経営に関与し続ける可能性、そしてParamount+とAmazonもしくはAppleの連携を模索しているといったものなど。ただ結幕は突然訪れました。8月19日の午後、Bronfman Jr.氏がParamountに公式に「買収からの撤退」を通知。これによりSkydanceによるParamount買収が決定しています。

新技術ではAir5に注目です。特許が絡んでいるためかあまり具体的にはなっていませんが、どうもケーブル事業者が既存のアクセス網を使って5Gといったモバイルサービスを展開できる技術のようです。

◆ 業界再編(M&A)

【8/19】 Bronfman Jr.氏、SkydanceによるParamount買収に異議を唱え43億ドルの買収提案を提示

この買収提案はParamountがオファーを評価するために設置した特別委員会で8月21日までに審査されます。Edgar Bronfman Jr.氏は、SeagramやWarner Musicの元CEOであり、現在、FuboTVのchairmanです。Bronfman氏によれば買収のための資金として50億ドルをFortress Investmentグループ、BC Partners Credit、暗号資産家で俳優のBrock Pierce氏、投資家のJeff Ubben氏、その妻のLaura Ubben氏、Duty Free Americasのchairman、Simon Falic氏から確保としたということです。

43億ドルの内訳はParamountの親会社であるNAI(National Amusements Inc.)の取得に24億ドル、Paramountの負債への充当に15億ドル、Skydanceとの買収合意を破棄するための違約金に4億ドルです。取得するのはNAIが持つParamountの株式のみで、それ以外のParamount株式は取得しないようです。

【8/21】 Bronfman Jr.氏によるParamount買収提案、入札額を60億ドルに引き上げ

以前の入札額は43億ドルでした。これにParamountの議決権を持たないクラスB株式を総額17億ドルで買い付けるオプションが加わったようです。Paramountで買収提案を検討する特別委員会は提案期限を8月21日に設定していましたが、Bronfman Jr.氏の提案を受け9月5日まで延長しています。なお、新たな買収提案は予定通り8月21日で締め切っており、今後は受け付けないということです。またBronfman Jr.氏による買収スキームには新たな出資者が加わっています。入札通知書によれば、IP STBや配信プラットフォーム事業を展開するRokuが含まれています。

Paramountの買収提案、現オーナーであるRedstone氏の経営への関与を今後も認めるかがポイントに?

米国のニュースメディアでこういった報道が増えていますが、Paramount、Skydance、Bronfman Jr.氏はいずれもコメントを拒否しています。Paramountは現在SkydanceとBronfman Jr.氏、それぞれからの買収提案を検討中です。現在のオーナーであるShari Redstone氏はParamount売却後も引き続きParamountの経営への関与を望んでおり、これがどうなるかがポイントになっていると報じられています。なおBronfman Jr.氏はRedstone氏がParamountに残ることを容認する方向。対するSkydanceはRedstone氏がParamountの株主として残る可能性について何度か話し合いを持ったということです。

【8/26】 Bronfman Jr.氏がParamount買収からの撤退を公式に表明

Paramountで買収案件を協議する特別委員会に通知したということです。これにより、Paramountにとってより条件が良い売却先を検討できるGo Shop期間は終了し、Skydanceによる買収が決定しました。

Disney、Fox、ワーナーがVenuの差し止め命令に異議を申し立て

連邦地方裁判所はFuboの「Venuは独占禁止法に違反している」という訴えを認め、Venuのサービス開始を差し止める仮処分を下していました。これに異議を申し立てたものです。

◆ 新技術

米国のスタートアップAir5が5GとDOCSISの統合技術を開発

まだ具体的にどういった技術なのかは明らかにしていません。DOCSISを用いた固定ネットのアクセス網と5Gを「シームレスに調和させる」と謳っており、ケーブル事業者が5G基地局を既存のアクセス網上に容易に構築できるソリューションである可能性があります。

BT、マルチキャストとユニキャストのハイブリット映像配信ネットワークを構築

MAUD(Multicast-Assisted Unicast Delivery)と呼ぶ技術で、ライブ配信におけるコスト削減、品質向上などが見込めるようです。このMAUD技術をBTのCDNに導入するためEdgio社との提携も発表されました。今後、数ヶ月以内に一部のSTB向けにトライアル配信を予定しています。MAUDは、米国CableLabsではmABR(Multicast assisted ABR)と呼ばれていた技術です。BTは3月に、この技術に関してBroadpeakとの提携も発表しています。

米国で映像やゲームに香りを付加するAI搭載デバイスが発売

Elevated PerceptionsがAmazonなどを通じて9月から「MovieScent」を179.99ドルで発売します。テレビやゲーム機の音声出力をMovieScentに接続、搭載されたAIがシーンを認識し関連する香りを噴霧器から放出する仕組みです。「オーシャン」「芝生」「嵐」といった香りが同梱されており、今後は「火事」「ゾンビ」「ジャングル」なども追加予定です。

◆ メディア

米国でのテレビの視聴シェア、7月はYouTubeが初の10%超え

Nielsenのテレビ視聴レポート「The Gauge」の調査結果です。前月は9.9%でした。配信サービスのシェアが増えており、前月比で2.3%増、前年同月比で3.5%増となっています。オリンピックの効果も出ています。配信したPeacockは視聴者数が33%増加し視聴シェアは1.5%に。放送の視聴シェアは20.3%で前月から微増にとどまっていますが、7月の最終週に限るとオリンピック効果から22%を超えています。振るわないのはケーブルテレビでシェアは0.5%減少し26.7%まで下がっています。例外はケーブルテレビで放送されたニュース番組で前月比23%増、前年同月比52%増となっていますが、これは前大統領暗殺未遂事件の影響が大きいようです。

Peacockがパリ五輪で280万人の新規顧客を獲得

調査会社Antennaが調べたものです。五輪の開催期間の最初の1週間は、1日あたり平均39万8000人の新規獲得があり、これは五輪前の8週間と比較すると5.6倍の増加になります。今年の1月にはNFLワイルドカードのプレーオフがあり、このときは300万人の新規獲得でしたので、これには及びませんが、人気のスポーツ中継が獲得の大きな材料になっていることがわかります。

インド、YouTubeなど無料の映像配信サービスの視聴者が5億4700万人に増加

Ormax Mediaによる最新の調査レポート「The Ormax OTT Audience Report: 2024」によるものです。1万2000人を対象に調査を行ったところ、SNSなどで広告付きの無料映像を視聴している人の割合が38%となり、インド全体では5億4700万人になると推計しています。有料の配信サービスを利用している人は9960万人。映像の視聴に利用しているデバイスでは81%がスマートフォンだけを使用していると答えています。

◆ 業界動向

Charter、一部テレビプラン加入者のParamount+を無料化

対象となるプランはSpectrum TV SelectとMi Plan Latinoです。Charterは去年、Disney+とESPN+も同様に無料化しています。ケーブルの多チャンネルサービスから配信サービスへ移る加入者の引き止め対策の一環と思われます。

フランスのCanal+、テレビ加入者のParamount+を無料化

Canal+のテレビ加入者はどのプランでも追加料金なしでParamount+が利用できます。これによりParamount+がフランスの15%以上の世帯で視聴できるようになります。

広告収益も放送から配信サービスへシフト

Media Dynamicsがゴールデンタイムにおける広告購入契約の2023-24年実績と2024-25年推計値を比較しています。これによると2024-25年は前年と比較して広告収益は8.1%増の295億ドルになるものの、放送向けは3.7%減の184億ドル。対して配信サービス向けは35.5%増と成長し、111億ドルになるようです。

英国、BT敷設ファイバー網の最大のホールセール顧客Skyが他社のファイバー網も活用へ

SkyはComcastの子会社で英国、ドイツなどヨーロッパでメディア・テレコム事業を展開しています。これまで英国ではBTの子会社Openreachが敷設したファイバー網を活用して固定ネットサービスを提供していました。今後はCityFibreのファイバー網を併用するようです。SkyはBT/Openreachのホールセール先としては最大の顧客で570万世帯の顧客を持っています。BTにとっては打撃となり、Skyはファイバー網の調達先を複数にすることでコスト削減を図る狙いがあるようです。

◆ インフラ

米国、1ヶ月で2TB以上のデータ通信を行うユーザーが18.2%に増加

OpenVaultが公開した「Broadband Insights」の2024年第2四半期版レポートによるものです。今年末には20%を超えると予測しています。月間の平均データ使用量は585.8GBで、これは前年同期比9.7%増です。とくに上りトラフィックの増加が顕著で前年同期比で15.9%増、これは下りの9.3%増を大きく上回っています。

◆ その他

MovieLabsがメディア制作環境の開発者とスタジオを繋ぐフォーラムを立ち上げ

プロ向けのメディア制作環境の開発に携わる機器メーカー、ソフト開発会社やクラウド事業者を対象にしています。新たに結成する「Industry Forum」ではMovieLabs、およびその会員であるParamount、Sony Pictures、Universal City、Disney、ワーナーなどと、より深く、直接的なコミュニケーションの場を設け、今後のメディア制作環境の開発に寄与することを目的としています。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

記事のご利用について:当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、JCOM株式会社及びグループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。