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海外動向 9/4〜9/10

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

ケーブル事業者はIP化を推し進め、FASTと既存の放送チャンネルを同列に扱う動きが出てきました。重要なのはチャンネルの契約形態にも変化が及ぶことです。これまでは各々のケーブル事業者が自分たちのテレビ加入者に向けてチャンネル事業者と契約を締結していましたが、新たな形態では他事業者が調達したチャンネルを自社のチャンネルと同様に扱うようになっています。

機器を提供するベンダーに目を向けると、モバイル基地局大手であるEricssonとNokiaが異なる方向に進み始めたように見えます。Ericssonは引き続きモバイルを軸に据えているのに対し、Nokiaは固定ネットへフォーカスを移しつつあるようです。先が見えないのは米国の衛星放送事業者。生き残るための新たな経営戦略が求められています。

◆ 業界動向

CoxがEPG(番組表)にXumoのFASTチャンネルを統合

既存の放送チャンネルのEPGに、IPで配信されるXumoの20のFASTチャンネルが追加されます。さらに今年の後半にはヨーロッパで多チャンネル事業を展開するSkyでも同様に統合されます。昨年、ComcastのX1とXfinity Streamで統合が行われており、この動きが広がっています。利用者からは徐々に放送チャンネルとFASTの垣根が消えつつあります。

Charter、一部テレビプラン加入者のAMC+を無料化

対象となるプランはSpectrum TV Selectです。Charterは有料の配信サービスをテレビ加入者に無料で提供することで、ケーブルTVから配信サービスへのシフトを防ごうとしています。これまでにParamount+、ViXプレミアム、Disney+、ESPN+を無料化していました。

DirecTV、Disney系チャンネルの放送停止に伴い20ドルを返金、交渉は長期化する模様

放送に関する契約更新が両社の主張の隔たりにより成立せず、9月1日からDisney系チャンネルが停止されています。返金はこれに伴う措置です。NFL(アメフト)のシーズン開幕である9月6日までに交渉をまとめると報じているニュースメディアがありましたが、DirecTVはこれを否定。返金処理の手続きには最大2回の請求サイクルで20ドルを返金すると書かれています。つまり2ヶ月間は放送停止が続く可能性があるようです。

なぜこのタイミング? DirecTVがTV加入者に値上げの通知を開始

DirecTVはDisneyとのチャンネル契約の更新契約が期限までにまとまらず9月1日からESPNなど人気の高いチャンネルが停止しています。加入者から見れば大きな不満を感じていると思われるこのタイミングで、10月6日以降の値上げに関する通知を送付し始めたようです。値上げ自体は以前から計画されていたものだと思いますが、やはりというか当然の反応として「時期を見直せなかったのか」といったニュースが数多く報じられています。

DirecTVがDisneyを相手取りFCCに苦情を申し立て

FCC(連邦通信委員会、Federal Communications Commission)に10ページの訴状を提出しています。これによるとDisneyは反競争的行為に関する法的な請求権の放棄を求めており、これはFCCが求めている誠実義務に違反するものだということです。具体的にはDisneyが求めている契約に白紙委任条項と不提訴誓約が含まれている点を問題視しているようです。

ComcastのMachineQ、米国で電力モニタリングソリューションの提供を開始

MachineQはComcastのグループ会社で、主に法人向けにIoT関連のソリューションを提供しています。今回、新たに追加されたのはコンビニや飲食店、研究所といった電力消費の多い施設に対して電力消費をモニタリングするソリューションです。関連して電力消費の状況から機器の異常を検知したり、電力消費を削減するための支援も行うということです。

ブロードバンド関連機器への支出、第2四半期は前年同期比で8%の減少

Dell’Oroグループによるグローバルなマーケットを対象とした調査結果です。第2四半期の売上は42億ドルでした。光関連(PON)は前年同期比6%減、DOCSISインフラ関連も25%減となっている一方、FWAなど固定無線関連の端末機器は32%増加しています。

米国の有料多チャンネルサービス、10四半期連続で2桁の減少、今年前半だけで400万世帯の減少

MoffettNathansonによる調査結果です。第2四半期は162万9000世帯の減少で、これは前年同期の173万2000世帯の減少からは若干改善していますが、それでも大きな数です。現時点でこの傾向が収まる気配は見られず、引き続き配信サービスへのシフトが続くと思われます。

モーリシャス共和国、デジタル社会の推進のため若者にモバイルプランを無料提供

アフリカ東部、マダガスカル島のさらに東側にある島国です。18歳から25歳までの約10万人を対象に、月間200GBまでのモバイルデータプランを無料で提供します。国内3つのモバイル事業者すべてが対象のようです。

◆ メディア

米国、テレビの視聴シェアでYouTubeが初の首位、NBCUniversalは五輪で躍進

Nielsenによる7月の調査結果です。NBCやDisney+といった放送、配信サービスごとのシェアではなく、メディア企業ごとに集計した視聴シェアとなっています。例えば放送のNBCチャンネルと配信サービスのPeacockはどちらもComcast NBCUniversalに合算されています。

7月の視聴シェアは、YouTube(Google)が10.4%で初めて首位となりました。配信サービスが首位になるのも10%を超えるのも初めてのことです。6月まではDisneyが10.8%で首位でしたが、7月は9.9%となり2位に下がっています。6月の注目点として3位争いもありました。3位のNBCUniversal 8.5%に4位のNetflix 8.4%が迫っていたからです。ですが7月はパリ五輪を放送・配信したNBCUniversalがシェアを大きく伸ばし9.5%に、対してNetflixは6月と変わらず8.4%にとどまり順位は変わりませんでした。パリ五輪は7月26日から8月11日まででしたので8月のほうが影響は大きいと見込まれており、NBCUniversalがどこまでシェアを伸ばすのかが今後の注目点です。

ソニー・ピクチャーズのCEOがParamount買収の裏側を語る、業界は今後も厳しい

SPE(Sony Pictures Entertainment)のCEOがメディア関連のコンファレンスで発言しています。SPEがParamountの買収を検討していたのは、Paramountが持つIP(知的財産権)の取得が目的だったということ。ただ、この場合、不要な事業は売却する必要があり、つまりParamountを解体する必要があり、これをParamountのオーナーであるRedstone氏が望まず先に進まなかったようです。このほか、ケーブル事業者などにチャンネルを供給しているメディア企業は「今後18〜24ヶ月は混沌とした時期になる」、「合併、倒産、売却などさまざまなことが起こる」、「最大手しか生き残れない」といった厳しい発言もしています。

Fox Newsなどを保有するMurdochファミリー、後継問題で訴訟沙汰に

Rupert Murdoch氏(93歳)が長男のLachlan氏に資産を譲るため法的にも拘束力がある手続きを進めようとしたところ、ほかの3人の子供たちから「平等に保有すべき」という訴えが裁判所に起こされているようです。

◆ インフラ

Nokia、世界最大級のファイバー網を持つAT&Tと5年間の提供計画を締結

AT&Tが保有するファイバー網のアップグレードと次世代光ファイバー技術が対象です。Nokiaによれば、アップグレードの範囲には10/25/50/100GbpsをサポートするPON技術が含まれているようです。昨年12月、AT&TはOpen RAN、つまりモバイル基地局関連で140億ドルに及ぶプロジェクトのメインサプライヤーとしてEricssonを選定しました。今回の契約は規模(金額)は明らかにしていませんが、固定ネットではNokiaが一矢報いた形となります。

アイルランドで急速にFTTHの整備が進む

アイルランドの公共放送であるRTÉ(アイルランド放送協会、Raidio Teilifís Éireann)によるものです。国内全施設の68%でFTTHが利用可能ということです。固定ネットの加入者は4月から6月までで167万回線、前年同期比で3%の増加となっています。このうち45%がFTTHによるもので、前年同期の35%から増加傾向にあり、FTTHがケーブルなどを抑え最多のブロードバンド技術となっています。

◆ 業界再編(M&A)

Verizonが米国でFTTHを展開するFrontierを200億ドルで買収

買収は現金取引で行われます。Frontierは25州で220万世帯のFTTH顧客を持っています。これをVerizonの既存の固定ネットの顧客740万世帯と統合する計画です。買収によりFTTHを提供可能な世帯、いわゆるホームパスは2500万世帯となり、これはテレコム業界ではAT&Tの2800万世帯に次ぐ規模となります。ただ、全米をカバーするためにはまだエリアが小さく買収後のVerizonは13%、AT&Tは15%しかカバーできていません。

Liberty Latin AmericaがEchoStarの一部資産を買収

EchoStarがプエルトリコと米領ヴァージン諸島で保有する周波数資産(モバイル向け)と8万5000件のモバイル加入者をLiberty Latin Americaが2億5500万ドルで買収しています。

買収後のParamount、息子のDavid氏ではなくLarry Ellison氏が所有することに

買収手続きにあたりFCCに提出された書類で明らかになりました。David氏が率いるSkydanceがParamountを買収後、Paramountの持ち株会社であるNational Amusementsの77.5%の株式をLarry氏が関連会社などを通じて保有します。資金を拠出したのがLarry氏のため、このようになるようです。

◆ 新技術

YouTube、有名人の顔や声を生成AIで「模倣」した映像の検出ツールを開発

俳優やミュージシャン、スポーツ選手といった有名人の顔や声を模倣した映像を検出できるものです。声の模倣を検知する技術はすでに完成しており、今後、YouTube内の模倣映像を自動で検出できるようになるということ。顔のほうはまだ開発中で、いつまでにできるかは明らかにしていません。

米国、映画・テレビの技術系業界団体が2024年の表彰者を発表

SMPTE(映画・テレビ技術協会、Society of Motion Picture and Television Engineers)が個人35人と15の団体を選出しています。ゲームなどで用いられる「Unreal Engine」や映像圧縮技術のほか、ソニーで高フレームレートのビデオカメラやレコーダーを開発した中村隆氏(故人)が選ばれています。

GracenoteがAIと人間の専門知識を統合した新たなレコメンドサービスを発表

Nielsenでメタデータやレコメンドを扱うGracenote部門が「Gracenote Watch Prompts」という名称で発表しています。米国では配信サービスを視聴するときに73%が視聴したいコンテンツについてまったく知らないか漠然とした知識しか持っておらず、またレコメンドサービスが役立っていると感じているのは10人中3人以下しかいないということです。Watch PromptsではGracenoteの専門スタッフが作成したメタデータと機械学習を組み合わせることでレコメンド情報を生成。さらにこれを人間のエキスパートが精査しフィードバック。こうしたサイクルによりアルゴリズムを継続的に改善し精度の高いレコメンドサービスを実現したということです。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

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