海外動向 9/18〜9/24
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
放送や配信、映画などを扱うメディア業界において筆頭の成功者といえば大半の人がNetflixを挙げると思います。先週行われたイベントに共同CEOが登壇し、その成功の秘訣ともいえるNetflixの個性的な考え方を披露しています。有名な話ではあるのですが、何度、読んでもその独自さには感心します。
Charterからは新ブランドが登場しました。米国ではテレビを大半の人が配信サービスで見るようになっており、日本よりさらに固定ネットの重要性が高まっています。新ブランドではこういった背景を踏まえ、信頼性を強く打ち出しています。
◆ 業界動向
Charter、高い信頼性と顧客体験を強く打ち出した新ブランド「Life Unlimited」
ネットがライフラインのような位置付けになっている現状を踏まえ、高い信頼性とそれに裏打ちされた保証を付加しているのが特徴です。このブランドで提供されるのは固定ネット、モバイル、多チャンネルサービスで、もし2時間以上のサービス停止が発生した場合は1日分の料金を返金。またサービス停止を検知してから15分以内に影響のある顧客へ復旧予定時刻を通知。サービスに問題が生じ、顧客がカスタマーサポートに連絡した場合、17時までであれば当日中に技術者を派遣し復旧するといった、非常に手厚いサポートです。
料金も米国の水準では比較的安価に抑えられています。モバイルや多チャンネルとセットでの契約が必要ですが、500Mbpsの固定ネットが30ドル、1Gbpsだと40ドルに設定されています。
配信サービスの視聴デバイス(プレイヤー)の出荷台数は減少傾向に
S&P Global Market Intelligenceによる予測です。2023年の世界出荷台数は6440万台で、これが2028年には5230万台まで減少、年率でいくと毎年4.1%減になるということです。GoogleのChromecastのようなデバイスを指しています。スマートテレビが普及することで専用デバイスのニーズが低下しており、AmazonやRokuはますますスマートテレビに重点を置くようになっていると指摘しています。
Disney、Maxとのバンドルが好調、さらなる拡大も示唆
DisneyのSVPが「RTS London Convention」で発言しています。7月に開始したDisney+、Hulu、Maxのバンドルが好調に推移しており、バンドル契約をさらに拡充することも検討しているということです。
ワーナーの取締役にLibertyのオーナーJohn Maloneの甥が就任
Daniel Sanchez氏です。ワーナーとDiscoveryが合併する前はDiscoveryの取締役でした。
◆ メディア
Netflixの共同CEO Sarandos氏、現状や戦略を語る
ニューヨークで開催された「Fast Company Innovation Festival」で質疑などに答えています。近々公表される2024年前半の視聴者レポートについて触れており、今年前半でもっとも視聴された映画はNetflixの作品になること、2024年前半のNetflix全体の総視聴時間は940億時間になるということです。制作にAI技術が使われることについても、アニメーションにおける新しい技術だったCGを例に取り前向きな姿勢を示しています。曰く、手描きからCGへの移行によりアニメはより良くなった。そしてアニメに携わる人はかつてないほど多くなっている。つまり作品を50%安く作るより10%良いものを作るほうがより良いビジネスであり、より大きなビジネスになるという論理です。
このほかNetflixはスポーツ中継を始めていますがニュース速報の配信は決して行わないこと、YouTubeとの根本的なビジネスモデルの違いなどにも触れています。最近、加入者数の発表をやめたのはなぜかという質問に対しては、広告プランの導入により加入者数と収益の増加が連動しなくなったためと答えつつも、事業のさまざまな節目で加入者数を発表することになると述べています。なお、現在のNetflixの加入者は全世界で2億8000万人ということです。
興味深いのはNetflixという会社の意義について語っている部分です。Netflixが解決しようとしていた問題はパーソナライズされたマーケティング、つまり個々の視聴者に適切な作品を適切なタイミングで届けること。これは創業当時の倉庫で100人のスタッフが封筒詰め作業を行なっていたころから変わっていないと言います。DVDの宅配サービスから配信サービスに変わってもNetflixが追求する会社の意義は変わってないということです。常に変化を求め続けながら根底にある会社の意義は変えないNetflixの考え方がよく現れています。
Netflix、業界の慣習を否定、守ろうとしているならほぼ死んでいるのも同然だ
Netflixの共同CEOの一人、Sarandos氏の発言です。制作した映画の劇場公開、つまり映画館での上映に拘らない姿勢を示しています。メディア業界では一般的に、制作した映画をまず劇場で公開し、その後に有料の配信プラットフォームで公開するといった流れがあります。これについて「視聴者はそんなことはまったく気にしていない」とコメント。Netflixであれば十分な規模があり必ずしも最初に劇場で公開することが最善ではないと言います。業界の変革の必要を考えたからか「もしビジネスを守ろうとしているのなら、あなたはほぼ死んでいるのも同然だ」と言い切っています。
米国のテレビ視聴シェア、パリ五輪効果でPeacockが躍進
8月のNielsen’s Gaugeレポートによるものです。Peacockの視聴シェアは前月比で39%増加し、35歳から49歳までの視聴者数が2倍になっています。8月に行われた五輪中継のうち32番組が視聴者数500万世帯、17番組が1000万世帯を記録。もっとも視聴者数が多かったのは女子体操団体の決勝で、1790万世帯が視聴したということです。
◆ 新技術
Air WirelessがDOCSISを無線化するソリューション
ケーブル事業者のアクセスネットワークのノードに設置するタイプの無線基地局です。既存のRemote PHY、もしくはMACPHYの代わりに、これらが統合された基地局を設置することで、半径32キロ圏に無線でネットサービスを提供できます。複数世帯への提供が可能ですが、帯域は基地局あたり5Gbpsまで、無線モデム(世帯)あたり1.5Gbpsまでとなります。使用する周波数帯は10GHz帯と71GHz〜81GHz帯ですので、まずは米国での展開を目指しているようです。特徴的なのは無線モデムが既存の(有線の)DOCSISモデムと同様に振る舞うことで事業者のOSS/BSSへの影響を最小化していること。Air Wirelessによれば、インフラの建設コストがかけられないエリアでの採用を狙っているようです。
HarmonicがDOCSIS 4.0のESD/FDXの両方に対応した製品群を公開、さらにその先には5G on HFC
DOCSIS 4.0にはおもにComcastが使用するFDD方式と、それ以外のCharterなどの事業者が採用するESD方式があります。この両方に対応したBroadcomの新チップを搭載するCMTSやケーブルモデムなどをSCTEで公開するということです。販売時期はまだ確定していないようですが2025年前半を考えているようです。
このほか記事の後半では、Charter、Rogers、CableLabsが取り組んでいるNRoC(Next-Gen Radio over Coax)プロジェクトにも触れています。HFCの1.2GHz以上の周波数帯にモバイルの5G信号を流す、つまり無線でやり取りされている5G信号を有線のHFC上に流してしまうものです。関連してAir5というスタートアップが5GのトラフィックをHFCにオーバーレイできる製品の開発に取り組んでいるということ。米国ではケーブル事業者がモバイル事業者との競合において、いかに自社の有線ネットワークを活用するのか、その技術開発が活発化しています。
Amazon、広告用の動画生成AIを発表
商品の写真から数秒の動画をAIが生成します。静止画から動画にすることで、より効果的な広告にしたり、配信サービスやスマートTV向けの映像広告(TV CM)を容易に制作できます。米国では広告分野における生成AIの応用が盛んになっています。CharterはローカルチャンネルのTV CMを専用の生成AIで生成するサービスを2023年から行なっています。
◆ インフラ
T-Mobile、米国での光ファイバー網を1200万世帯から1500万世帯に拡大する計画
2030年までに建設する計画です。T-MobileによればFWAを補完するサービスと位置付けています。なおFWAについては加入獲得が見込みより遅れているようです。2021年に「2025年までに700万から800万世帯の獲得をめざす」と発表していましたが、これを2027年までと変えています。現在のFWA契約世帯は560万です。
ヨーロッパにおけるFTTHの現状、国ごとに大きな違いがあるものの普及率は上昇傾向
Point Topicによる調査レポートです。ヨーロッパ全域のFTTH普及率は2022年半ばの54.4%から2023年半ばは57.2%に増えたものの、オーストリアとギリシャの16.3%からアイスランドの94.9%まで、依然、国ごとに大きな差があるということです。普及率がもっとも増えたのはエストニアで67.7%から79.9%と12.2%上昇しています。一方、理由は書かれていませんがフィンランドのように83.3%から74%へ減少している国もあります。
◆ その他
アムステルダムで開催された国際放送機器展(IBC)、来場者が約5%の増加
放送・メディア業界にとって最大級のイベントであるIBCが9月13日から16日まで開催され、来場者は170カ国から4万5085人となり、前年を4.69%上回りました。出展社も100社多い1350社となっています。話題を集めたテーマはSDGs、5G、クラウド、eスポーツ、没入型体験(immersive experiences)、OTT、メタバースなどです。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
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