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月に1冊ディックを読む➆「時は乱れて」

今年の1月から毎月1冊、ディックの長編を読んでブログに書くことにしています。5月が連休のために2冊書いたので、6月で7冊目です。ディックは高校から大学にかけて読みふけったSF作家の1人です。凄く自分の価値観に影響を与えているのか、価値観が近いから読みふけったのか…。「ユービック」「火星のタイムスリップ」「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」「流れを我が涙、と警官はいった」「宇宙の操り人形」「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の次に選んだ7冊目がコチラです。

【原題】「TIME OUT OF JOINT」

【読んだ邦訳本】ハヤカワ文庫SF 1937 山田和子訳 2014年1月15日発行

【この作品が書かれた年】1959年

【この作品の舞台】1959年 1997年

【この作品の世界に存在する未来】今月の本クラブ、シーケンス・スキャナー、ガゼット、<火星人はどこへ?>コンテスト、一度も聞いたことのない世界的に有名な映画俳優の記事が載っている雑誌、民間防衛、だまし銃、発進基地、シップ、金星での所有権をめぐる国際問題裁判所での訴訟、市の補修作業員、ケロシンで走るトレーラー、トーク貨幣、死んだチャックチャック、外の世界、ウージイ、ルナティック、MP、cc、raまみれ、地球と月の間での戦争、<ただひとつの幸福な世界>、惑星間旅行、シービー、オールドタウン、再処理

「われわれの経験する世界は、本物の世界ではない」というディック作品全体を貫いているモチーフがストレートに出ている初期作品。テイスト的には「宇宙の操り人形」的な感じ。ディックの長編第6作品目のようだけど、「宇宙の操り人形」が5作目だから、同じ頃に書いていたことになるのかな。で、記念すべきサンリオSF文庫の第1回配本の1冊です。以降、サンリオSF文庫からは幾多のディック作品が日本語化されています。その数21作品とのこと。残念ながら我が家には13冊しかない…。しばらくはサンリオSF文庫を古本屋で探すしかなかったディック作品も、次々と創元SF文庫とハヤカワ文庫SFで刊行されて今日にいたります。インターネットの便利なところは、サンリオSF文庫の第1回配本が何だったかとか、すぐに調べられること。アーシュラ・K・ルグィン「辺境の惑星」、レイ・ブラッドベリ「万華鏡」、フリッツ・ライバー「ビック・タイム」、モルデカイ・ロシュワルト「レベル・セブン」、ウィリアム・バロウズ「ノヴァ急報」が残りの5冊だったそうな。1978年7月25日のことです。古書店漁りをしていた高校生時代。

月から発射されるミサイルの迎撃地点の確定作業を、重圧から離れて本人すら意識しないように続けさせるために、新聞の懸賞コンテスト<火星人はどこへ?>を解かせ続けるという(失礼、いきなりネタバレ)、そしてそのために1つの街すら作ってしまうという意味不明、荒唐無稽な設定。徐々ににせの現実に疑問を抱き始める主人公、現実を探すチャレンジと引き戻されることの繰り返し、そして少しずつ見えてくるほころび。一度も聞いたことのない世界的に有名な映画俳優…、聞こえてくるラジオの放送…。そして、たぶん1950年代にアメリカで過ごした人なら懐かし過ぎる当時の流行の数々が描かれます。後期の作品のようにドラックがつくる<にせの世界>ではなく、現実に巧妙に構築された<にせの世界>の物語。良質のミステリのような展開、挿入される様々なサイド・ストーリー。現実の役割と、役割としての役割。さて、本当の現実はどちら…。今回はサンリオSF文庫版ではなく、新装のハヤカワ文庫SF版で読みました。サンリオ版はフォントも小さく、ページも少し焼けちゃってるのに対して、ハヤカワ版は文字が一回り大きくて読みやすいです。ただ、この味気ない表紙は何とかして欲しい。さて、次は何を読もうかな。


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