ヒップホップ病
唐突だが、ヒップホップ病というものがある。
第一幕 告知
「大変申し上げにくいのですが、太郎君の結果ですが……」
医者は、机の上に置いたカルテから顔を上げると丸和親子に目を向けた。
学校では毎年学級委員を任される真面目な中学生の太郎。最近、彼の体調が思わしくなく、それに合わせて成績も落ちてきた。心配した両親は太郎に病院で検査を受けさせることにした。今日はその検査の結果が出たということで、太郎と共に両親が病院から呼ばれて来たのだ。
「太郎はどうだったんですか、先生」
母親丸子は心配そうに訊ねた。
「太郎君は、ヒップホップ病です」
「……、えっ」
「このままですと、残り半年で」
「半年でどうなるんですか?」
「ラッパーになります」
「ラッパーですか」
「はい、ラッパーです。命に別状はありませんが、ヒップホップ病は不治の病です」
「ああっ」
何だか良く分からないまま、雰囲気で泣き崩れる母親。
「みっ、認めんからな。太郎がラッパーなんて認めんからな」
市役所で総務課長を務める真面目一筋の父和夫は、自慢の七三分けを乱し、眼鏡はずり落ちた。
第二幕 国語の授業
ヒップホップ病は徐々に太郎の体を蝕み、日常生活にも病気の影響が現れ始めた。
「『やれ打つなハエが手をする足をする』。この川柳を詠んだ俳人を、そうだな、よし、丸和、答えてみろ」
国語の教師は太郎を指名した。、
「はい、小林ISSAです」
「あ、いや。まあ。うん、そうだな。丸和、座って良いぞ」
ざわめく教室。「おいおい、丸和がISSAかよ」、「えー、丸和君ってそんなこと言うんだ」、ヒソヒソと声が聞こえてくる。太郎に密かな想いを寄せていた女子学級委員の山下さんの眼鏡がずれる。
第三幕 体育の授業
「よーし、今日の授業は前回に引き続き三段跳びだ。もう跳び方は分かっているな。それじゃあ、始め」
筋肉メガネとあだ名されている体育教師の声を合図に、生徒達は砂場に向かって三段跳びを始めた。そんな生徒達の中、太郎だけは三段跳びではなく、四段跳びをしている。
「おい、丸和。どうした。三段跳びになってないぞ。何で四段跳びになっているんだ」
筋肉メガネの眼鏡は既にずれている。
「三回しか跳んでいないつもりなんですけど。おかしいですね」
「もう一度、跳んでみろ」
「はい」
太郎は助走を付けて踏み切った。
「ヒップ、ホップ、ステップ、ジャンプ」
第四幕 手伝い
太郎の病状はさらに進行する。
今日は父和夫の誕生日なので、お菓子作りが趣味の母丸子は手作りのケーキを作っている。太郎はそれを手伝う。
「太郎、もう、生クリームはできたかしら」
太郎は妙なリズムで歌いながら、泡立てたクリームの入ったボールを母に渡した。
「Hi、できたYO。But、いつもと何か感じが違うけど」
ダブダブの服に野球帽のような帽子を被り、かなりラッパーに近付いた太郎。
「父さん、YOろこぶかな」
丸子はボールの中を覗いて泣き崩れ、北海道で酪農を営む北村一さんの眼鏡がずれた。
「ああっ」
ボールの中に入っていたのはヒップホイップクリーム。
第五幕 家族
母丸子と父和夫は言い争っている。
「お父さん、太郎の気持ちも分かってあげてください」
「認めんぞ、ヒップホップなんてのは」
「太郎はなりたくてラッパーになるわけじゃないんです」
「太郎は将来公務員だ。それは譲れん」
「お父さんが喜んで食べた今日のケーキだって太郎と一緒に作ったんですよ。ラッパーになっても中身は太郎、今までと変わっていません」
「しかしだな……」
和夫のメガネが複雑にずれた。
第六幕 雪解け
真夜中、太郎は居間から聞こえてきた音楽で目を覚ました。居間に忍び寄り、覗いてみると和夫は七三分けのヘアースタイルを乱して歌いながら踊っていた。
「……父さん役所で大変、「猫」の部首は獣偏,信長殺して本能寺の変。
役所で実践クールビズ、青汁実践ケール汁、長距離ランナーゴールです……」
和夫は覗いている太郎に気が付いた。
「父さんもな、健康のためヒップホップを始めようと思ってな。いや違うな。父さんYO、ヒップホップを始めYOと思ってNA、フォーヘルス」
太郎は溢れてきた涙を拭った。
「違うYO!全然違うYO!ヒップでホップじゃないYO!」
その日は夜が明けるまで、太郎と和夫はヒップホップを歌い続けた。和夫のメガネはもうずれない。
第七幕 未来へ
世界のヒップホップ界唐突だが,ヒップホップ病というものがある.
第一幕 告知
「大変申し上げにくいのですが,太郎君の結果ですが……」
医者は,机の上に置いたカルテから顔を上げると丸和親子に目を向けた.
学校では毎年学級委員を任される真面目な中学生の太郎.最近,彼の体調が思わしくなく,それに合わせて成績も最近落ちてきた.心配した両親は太郎に病院で検査を受けさせることにした.今日はその検査の結果が出たということで,太郎と共に両親が病院から呼ばれて来たのだ.
「太郎はどうだったんですか.先生」
母親丸子は心配そうに訊ねた.
「太郎君は,ヒップホップ病です.」
「…….えっ」
「このままですと,残り半年で」
「半年でどうなるんですか?」
「ラッパーになります」
「ラッパーですか」
「はい,ラッパーです.命に別状はありませんが,ヒップホップ病は不治の病です」
「ああっ」
何だか良く分からないけど,泣き崩れる母親.
「みっ,認めんからな.太郎がラッパーなんてみとめんからな」
市役所で総務課長を務める真面目一筋の父和夫は,自慢の七三分けを乱し,眼鏡はずり落ちた.
第二幕 国語の授業
ヒップホップ病は徐々に太郎の体を蝕み,日常生活にも病気の影響が現れ始めた.
「『やれ打つなハエが手をする足をする』.この川柳を詠んだ俳人を,そうだな,よし.丸和,答えてみろ」
国語の教師は太郎を指名した.
「はい,小林ISSAです.」
「あ,いや.まあ.うん,そうだな.丸和,座って良いぞ.」
ざわめく教室.「おいおい,丸和がISSAかよ」,「えー,丸和君ってそんなこと言うんだ」,ヒソヒソと声が聞こえてくる.太郎に密かな想いを寄せていた女子学級委員の山下さんの眼鏡がずれる.
第三幕 体育の授業
「よーし,今日の授業は前回に引き続き三段跳びだ.もう跳び方は分かっているな.それじゃあ,始め」
筋肉メガネとあだ名されている体育教師の声を合図に,生徒達は砂場に向かって三段跳びを始めた.そんな生徒達の中,太郎だけは三段跳びではなく,四段跳びをしている.
「おい,丸和,どうした.三段跳びになってないぞ.何で四段跳びになっているんだ」
筋肉メガネの眼鏡は既にずれている.
「三回しか跳んでいないつもりなんですけど.おかしいですね」
「もう一度,跳んでみろ」
「はい」
太郎は助走を付けて踏み切った.
「ヒップ,ホップ,ステップ,ジャンプ」
第四幕 手伝い
太郎の病状はさらに進行する.
今日は父和夫の誕生日なので,お菓子作りが趣味の母丸子は手作りのケーキを作っている.太郎はそれを手伝う.
「太郎,もう,クリームはできたかしら」
太郎は妙なリズムで歌いながら,泡立てたクリームの入ったボールを母に渡した
「Hi,できたYO.But,いつもと何か感じが違うけど」
ダブダブの服に野球帽のような帽子を被り,ラッパーに近付きつつある太郎.
「父さん,YOろこぶかな」
丸子はボールの中を覗いて泣き崩れ,北海道で農業を営む北村一さんの眼鏡がずれた.
「ああっ」
ボールの中に入っていたのはヒップホイップクリーム.
第五幕 家族
母丸子と父和夫は言い争っている.
「お父さん,太郎の気持ちも分かってあげてください」
「認めんぞヒップホップなんてのは」
「太郎はなりたくてラッパーになるわけじゃないんです」
「太郎は将来公務員だ.それは譲れん」
「お父さんが喜んで食べた今日のケーキだって太郎と一緒に作ったんですよ.ラッパーになっても中身は太郎,今までと変わっていません」
「しかしだな……」
和夫のメガネが複雑にずれた.
第六幕 雪解け
真夜中,太郎は居間から聞こえてきた音楽で目を覚ました.居間に忍び寄り,覗いてみると和夫は七三分けのヘアースタイルを乱して歌いながら踊っていた.
「……父さん役所で大変,「猫」の部首は獣偏,信長殺して本能寺の変.
役所で実践クールビズ,青汁実践ケール汁,長距離ランナーゴールです……」
和夫は覗いている太郎に気が付いた.
「父さんもな,健康のためヒップホップを始めようと思ってな.いや違うな.父さんYO,ヒップホップを始めYOと思ってNA,フォーヘルス」
太郎は溢れてきた涙を拭った
「違うYO!全然違うYO!ヒップでホップじゃないYO!」
その日は夜が明けるまで,太郎と和夫はヒップホップを歌い続けた.和夫のメガネはもうずれない.
第七幕 未来へ
世界のヒップホップ界を席捲することになるヒップホップ親子「マルワメガネ」がデビューすることになるのだが,それはまた別の話.席捲することになるヒップホップ親子「マルワメガネ」がデビューすることになるのだが、それはまた別の話。
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