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草木と生きた日本人

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執筆者:玉川可奈子/和歌(やまとうた)を嗜む歌人(うたびと)・作家 (画像:大宇陀 又兵衛桜)/月一連載
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#桜

草木と生きた日本人 桜 下

一、序  桜花 時は過ぎねど 見る人の 恋の盛りと 今し散るらむ (『万葉集』巻十・一八五五)  (桜の花はまだ散る時期ではありませんが、見る人の恋しさの盛りが今だと知つてゐて散るのでせうか)  前回のお話しでは、万葉の時代における桜の花について述べました。  高橋虫麻呂、そして若宮鮎麻呂らの素敵な歌は、今なほ私どもに共感をもたらしませう。  今年も桜の花は咲き、隅田川の川辺や京都の円山公園など桜の名所でその美しさを楽しみ、心を癒される方もをられませう。また、このお話し

草木と生きた日本人 桜 上

一、序  ももしきの 大宮人は 暇あれや 梅をかざして ここに集へる (『万葉集』巻十・一八八三)  (ももしきの大宮人は暇があるからでせうか、梅を髪にさしてここに集つてゐますねエ)  前回は梅の花についてお話ししました。  二月五日、東京では久しぶりに雪が降りました。雪の降る日、そして翌日の積つた雪、さらに雪と梅の花の咲く姿を見て、前に紹介しました、  我がやどの 冬木の上に 降る雪を 梅の花かと うち見つるかも (巻八・一六四五)  (私の家の冬枯れの木に降り積ちた