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一 序 春へ咲く 藤のうら葉の うら安に さ寝る夜ぞなき 子ろをし思へば(巻十四・三五〇四) (春の只中に盛んに咲く藤を覆ふうら葉ではありませんが、心安らかに寝る夜などない…。あの人のことばかり思ふと) 前回は、古へ人が愛し、歌に詠んだ藤の花についてお話ししました。すでに、藤の花の盛りは過ぎてをり、木々が青々と色付く季節になりました。 ところで、『万葉集』は主に都人の歌を収録してゐるのですが、実は都人のみならず都から見たら辺境の地といへる東国の人の歌も収められ