【猫小説】サビーとノーブル(1)
ボクの名前は、サビー。
体の模様がサビ柄だから、そう呼ばれているんだ。
昼間になると、人間の子供達がワイワイ騒ぐこの公園がボクのおうちだ。
ボクは、お母さんと弟と妹の四匹家族で楽しい毎日を過ごしていた。
毎日、決まった時間に、カリカリを持った人間がこの公園にやってくると、ボク達の他にもそれ目当てで、いろんな猫がここに集まってくる。
でも、ある日、弟が人間につかまって、どこかに連れていかれちゃったんだ。
それから、妹も人間につかまってしまった。
残ったのは、お母さんとボクだけだったけど、今度はお母さんがつかまってどこかに連れていかれちゃった。
みんな、どこに連れていかれたんだろう?
いつか戻ってくるよね?
次の日、また公園にやってきた人間にボクは勇気をだして話かけてみた。
「ねえ、お母さん達をどこに連れてったのさ?」
人間はボクの頭を優しくなでてくれたけど、つかまえられそうになったから走って逃げてきた。
ボクは家族の中で一番足が速かったから、人間はあきらめたみたいだ。
次の日も、また次の日も、お母さん達は戻ってこない。
お母さん達を連れていった人間が公園にやってくると、ボクはケイカイした。
結局、ボクは一匹になってしまったけど、他の猫達がはげましてくれたから、さびしくなかった。
でも、夜に一匹で寝ていると、やっぱり少しさびしくて……お母さんと弟と妹に会いたくて、泣きながら眠ったこともある。
「サビーちゃん、おはよう」
公園の近くを散歩していると、三毛のお姉ちゃんがいた。
「トリートお姉ちゃん、おはよう。今日もめんこいべさ」
「もう、サビーちゃんったら。口だけは一匹前ね」
お姉ちゃんは照れながらそう言ったけど、なんだかうれしそうだった。
トリートお姉ちゃんは、この辺でも一番の美猫で、いつもモテモテなんだ。
「あっ、そうそう。そろそろ猫マの時期よね。サビーちゃん、準備の方はどう? なんだったら手伝ってあげましょうか?」
猫マっていうのは、この公園で月に一度ある猫達のフリーマーケットだ。
この辺りに住む猫達が、それぞれいろんな物を持ち寄って、それを売るんだよ。
それを買う猫達は、カリカリ一粒を一カリカリとして、売られている値段と同じ数のカリカリと交換するんだ。
ボクは、いつも公園でもらうカリカリを全部食べてしまわないで、猫マのために少しずつとってあるんだ。
猫マには野良猫はもちろん、自由に外を出歩ける飼い猫も参加できる。
飼い猫の方が、おうちからいろんな物を持ってこられるから、珍しい物とかはみんなそこで買うんだ。
でも、猫マの魅力はそれだけじゃない。
売上が一番になった猫は次の猫マまで、ここら辺のボス猫になることができる。
ボクは、この猫マで一番の売上を出してボス猫になるという夢を持っているんだ。
ボス猫になったら、公園でカリカリが配られた時に、一番最初に食べてもよくて、誰にも遠慮しないでお腹いっぱい食べられるんだよ。
それと、誰にもイジメられなくなるんだ。
大人の猫達は、みんなボクに優しいけど、ボクと同じ年頃の猫達は違う。
ボクのクチグセを真似してバカにしたり、イジワルしてきたりする。
だからボクは、どうしてもボス猫になって、あいつらを見返してやりたいんだ。
でも、いつも猫マで一位を取るのは近所に住む飼い猫で、その猫は、おうちからお宝をごっそり持ってくる。
ボクにも飼い猫の友達がいたら、協力して絶対に一位を取れるんだけどなぁ……。
そう思っていても、飼い猫と友達になれるなんてそう簡単じゃない。
公園の近くを歩いていると、向こうから首輪を付けた見掛けない猫がこっちにやってきた。
「こんにちわ。ボク、サビーだべさ」
「は? どこの田舎モンだ、おまえ?」
むっ……、ここはグッとガマンしないと。
「ボクとお友達になってほしいべさ」
「は? 何寝ぼけたことぬかしてんだ」
その猫は、ボクをジロリとにらんで通り過ぎていった。
ほらね?
ボクに飼い猫の友達なんて、できっこない。
ボクにできるのは、猫マで売る物をコツコツとためることだけだ。
ボクは、いっぱいゴミが集まる場所に向かった。
そこには山のように袋が積まれ、ボクはお宝が入っていそうな袋を探した。
すると、袋から少しはみ出ているクッションを見付けた。
クッションをくわえて勢いよく引っ張ったけど、袋の隙間が狭くて、なかなか出てこない。
あと、ちょっと……。
「××! ×××××!」
ヨボヨボの人間が手を振り回しながら、ボクに向かってきた。
でも、あと少しなんだ。
ズボッ!
抜けた!
クッションをくわえたまま、ボクは急いで逃げた。
フフン、これは目玉商品になるぞ!
公園のおうちにクッションを持ち帰ったボクは、その上に座ってみた。
すごくフカフカで、座り心地がいい。
この上なら、ぐっすりと眠れそうだ。
……でも、まだ足りない。
これだけじゃ、猫マで一位を取るには全然足りない。
お宝を探しながら、少し遠いところにも行ってみると、道からちょっと入ったところに、すごく大きなおうちが見えてきた。
おうちの前には、庭いっぱいにキレイな花が咲いている。
庭に入ってみると、目の前に一匹のバッタが飛んできた。
わーい、わーい。
バッタを追いかけていたボクは、ふと誰かに見られているような気がして、顔を上げた。
真っ白なフワフワした長い毛でキレイな顔の猫が、窓の向こうからボクを見ていた。
今まで見たこともないような上品そうな猫に、ボクはただ見上げることしかできなかった。
その白い猫は、プイッとボクから目をそらすと、窓からどこかにいっちゃった。
あんなキレイな飼い猫と友達になれたらいいなぁ。
でも、ボクには無理か……。
よしっ!
猫マに向けて、今日もいっぱいお宝を集めるぞ!
ボクは庭を出て、お宝探しに向かった。
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