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私のアリス〜夢の国のアリス〜一幕(夢の番人)

アリス、アリス……80億人超あまりから選ばれた幸運の人……アリス、アリス……

これは、いつもの夢の話。
しがないOLの私、朝起きて顔を洗ってシャワーを浴びて職場に向かう……職場で仕事をして、同僚と喋る。漠然とそんな日々を過ごしていた私が、たった一つの夢で変わっていく…それが幸福だというの?人にとっては幸福かもしれない、でもある人にとっては不幸かもしれない。その全てが例え自分の人生を大きく変えるものだとしたら、あなたは逆らう?受け入れる?

青白い空間の中で周りに蝋燭がともる。哀愁漂う藍色の頼りげない炎。それに誘われて私は大きな扉の前にやってくる

ああ、またこの夢か。

私はこの夢の中で扉の向こうに渡れない。
いつも同じ夢で同じ場所、同じ空間なのに先に進めない。そんな退屈な夢を見る。

だけど今日は違っていた。重厚感のある扉が音を立てて開いたのだ。逸る気持ちを抑えて私は一歩を踏み出した。

ーアリス、お誕生日おめでとう

髪の色はまるで氷のよう。空間のせいか青白ささえ感じる色白の肌、金色の瞳を待った燕尾服を着ている高身長の男性がそこに立っていた。腰には金のアンティーク時計を携えて。青白い空間に同化している錯覚すら覚える色彩の青年にそう祝われる。

それが始まりだった。
OLとしての私はもう新人ではない。それなりに社会経験をしている微妙な年齢だった。恋人はいない独身で、もう友人は結婚している人が多いぐらいかなという年齢だった。だから改めて誕生日おめでとうなど言われても嬉しいわけでもない。

同窓会やたまに会う友人には毎回あんたモテるのに、なんで結婚しないの?と言われるけれど大人だもの、それなりの経験は積んできているつもりだったから大きなお節介というものよ。と返答する。

それに……じつは私には結婚できない明確な理由がある。私には…幼少期から数年前までの記憶がない。そう、一般的に人は大人になっていくと不要な記憶は消去されていくものだ。
それでも学生の頃、こんな子がいた。とか、この子と仲が良かったとか…ある種経験してきている記憶は断片的に残っているはずだ。
けれど、私には…それがない。だから恋人ができたとしても思い出を共有することができない。だから1人でいる。1人の方が気が楽よ。
幼い頃から1人だった。早々に両親は亡くしていた気がする、最近体験したこと生活に必要な知識それら全てはしっかり覚えているのに自分のことは霞がかったように忘れている。

ーあなた誰?

試しに気になる目の前の男性に声をかけた。

ー私は夢の番人

男はそう言った。くるりと燕尾服を翻し楽しそうにその形の良い唇を緩めてる。だから私は言い返す

ーなにそれ、へんなの…ところで私のことをさっきアリスと言ったけど、私の名前はアリスじゃない。

ーふふ、あなたの名前はそれこそどうでもいいのです。アリスはアリスですから

訳のわからないことを言う男に言い返したいが、これは夢の中、しばらくしたら目が覚めるから特に気にしないほうがいいのかもしれない。アリスなんて……幼い時に読み聞かされたことのある童話の主人公じゃないの。自然と頭の中で浮かんできたその単語に思わず目を丸くした。幼い頃読み聞かせられたことを覚えてる?それは不思議な感覚だった。


ーいまはわからないかもしれない、でも貴方は選ばれたアリス。人生を変えましょう……?せっかくの幸いを手放すのですか。幸福な人生に私が導いてあげます


ー何を言ってるの?

男の人が口を開く、人生を変えましょう
私の人生はそんな実りのない人生ではないと自負しているけど幸福な人生に導いてあげるなんてそんな夢物語、信じられるわけもない。自分の人生に後悔なんてしていない。唯一不可思議な記憶健忘さえなければ言うことはない。そんな風に人生を謳歌していたつもりだったが、根本的なところはどうやらそこではないらしい

ーあなたの記憶の奥底、閉じ込めている宝物。それを掘り出すつもりはありませんか?それが両親の記憶かもしれない……はたまた違う何かかも。

ー……どういうこと?

男は腰に下げていた懐中時計のチェーンを指に引っかけ、器用にくるりと一回転して秒針を見る。そうして伏せた睫毛から覗く金色の瞳をこちらへ向けてこう言った。


ーあなたのお兄さんたちを…生き返らせたくないですか?その2人はあなたの人生にとって、なくてはならない存在…忘れてしまったままでいいのですか?


と……


◎◎◎
最後まで読んでくれてありがとうございます。
これは、個人的趣味で私の創作アリス小説として執筆しております。そのうちイラストなども載せていこうと思ってます。もし面白い、続き気になる等ありましたら不定期ではありますが、また読みにきていただけると嬉しいです 2024/11/08 紅月憂羅



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