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菊地和久さんインタビュー#05~水野あおいさんを本格的にプロデュース

『ピンクのたんぽぽ』はポップ路線にチャレンジ

――翌年98年1月に『ピンクのたんぽぽ』が発売されました。
「本格的に水野あおいの制作に入ったのは、『ピンクのたんぽぽ』からです。この曲は、栗林みえさんという声優アイドルの曲を作っていた人に発注したんですね」
――本格的に制作されたこの曲のコンセプトは?
「野間さんとはそれほど打ち合わせはしないで、今までの水野あおいとは違うポップ路線をやりますと言って、その辰巳文康という人に曲を発注したんです。彼は、私がやっていたバンドでベーシストがいなくなった時にサポートで1~2回一緒にライブをしたことがあって、作家もやっていると言っていたので発注したんですね。ポップな曲を作りたいと伝えて、当時はファックスで歌メロとコードネームが書かれているだけの譜面を送ってもらい、私の方で譜面を解釈して編集作業に入るという感じで進めました。作曲者は違いますが、(カップリング曲も含めた)2曲ともその方法で作りましたね。歌詞は2曲とも水沢晶子さんに依頼しました(笑)」

10thシングル『ピンクのたんぽぽ』『ホワイトバレンタイン』1998年1月21日リリース

――野間さんにインタビューしたとき、98年頃はあまり憶えてなくて、お任せだったような印象でした。
「曲調に関してはこちらの主導でやっていたと記憶しています。歌詞は全面的に野間さん……いえ、水沢晶子さんにお願いしまして(笑) ”ピンクのたんぽぽ” は四つ葉のクローバーのような意味合いで用いてます……という話は伺いました」
――なるほど。
「ですが、あまり野間さん気に入ってないですよね。ファンの人もそうだし……」
――たしかに『ピンクのたんぽぽ』は、昔からの水野あおいファンからは、ちょっとあれ?と思われたという気がします。ただ、ファンのブログなどを見ると、カップリング曲の『ホワイトバレンタイン』は好きだと言っている人は見かけますね。
「(『ホワイトバレンタイン』を作曲した)関口洋平は、MOOVe RECORDSで一緒に活動していた人で、私よりも年齢が10歳下で、音楽的な影響はまったく違う感じで育ってきているんですね。音楽制作の入り口がパソコンで…みたいな人間だったんですよ。森下純菜のリミックス(ミニアルバム『alternative JUNNA mix』1997年10月21日リリース)にその辺りが色濃く出ています。リミックスをやってみようかと考えていたときに、できるならやってみて!と任せて、出てきた感じが良かったので、それじゃあリリースしちゃおうとなったんです。それで、曲も書いてみないかと言って書いてもらったんですね」

森下純菜・ミニアルバム『alternative JUNNA mix』1997年10月21日リリース

――そういうつながりなんですね。
「それで、私が2曲とも編曲、演奏を全部やっているんですが、『ホワイトバレンタイン』はギターがアルペジオでずっと入っているんですね。当時パソコンとかで編集はしていないので一日中弾いているんです」
――おお。
「ニュアンスがうまく出せるまで、自分の思い描いているところに行くまで一日中やっているんです、バッキングのギターをずっと。ああいうバッキングのアルペジオは、プロ・ミュージシャンでもみんなぶつかるところです。ライブでいくらできても、レコーディングできちんとできるかというとそれがまた違うという……」
――ほうほう。
「ニュアンスをうまく出すまでなかなかハードルが高くて、これを一日中やったって言うと、おそらくプロ・ミュージシャンもみんな共感してくれると思います」
――想い出深い曲ですね。
「想い出深いです。あのアルペジオだけで丸一日ギター弾いたな、みたいな(笑)」
――レコーディングで残せるほどのアルペジオを弾くのは、相当の熱意が必要なんですね。
「このシングルは、“動”と”静”みたいな曲調でうまくいったと思います。年明けにこのシングルが出る前に、その先のスケジュールまで話をしていて、春に全曲新曲で「ミニアルバム」を作ることはこちらから提案していたと思います。それが『Sweet Sweet Sweetie』ですね」

ミニアルバム『Sweet Sweet Sweetie』

ミニアルバム『Sweet Sweet Sweetie』1998年4月21日リリース

「これも(作曲は)ほぼ外注で作っています。近藤剛は、MOOVe RECORDSのレコーディング・エンジニアをずっとやっていて、私のプロデュースワークをとても理解してくれている人ですね。関口洋平は、私と一緒にレーベルを支えてくれていた人で、それと『ピンクのたんぽぽ』を書いてもらった辰巳くんの3人に振って曲を作ってもらって、最終的に全体のバランスを考え、そこにない曲調の曲を私が書いて、足す……という感じで作りました。作詞には、エンタメ系ライターとして幅広く活躍している長澤智典さんに加わっていただきました。
 アルバム全体がバラバラな印象にならないように、最終的な締めとして短い『星降る夜のおとぎ話』を作っておいたんです。どのように散ってもここで落とす曲を入れておき、最後に『おやすみ』で終わるんです」
――あ、そこは野間さんの今までのアルバム・コンセプトに近いですね。
「あえて水野あおいさんの音源はあまり聴かない状態で作ってましたので、『おやすみ』が今までのアルバムとかぶるかどうかは考えてなかったです」
――ああ、そうだったんですね。

水野あおい『Sweet Sweet Sweetie』
     Produced by Kazuhisa Kikuchi
1.バニラアイス~夢の中に描いた空~
 作詞:長澤智典 作曲:近藤 剛 編曲:関口洋平
2.ときめきは土曜の午後3時
 作詞:長澤智典 作曲:菊地和久 編曲:菊地和久
3.空と海と青いカイト
 作詞:水沢晶子 作曲:辰巳文康 編曲:菊地和久
4.Let's Try!
 作詞:水沢晶子 作曲:関口洋平 編曲:関口洋平
  (コーラスアレンジ:菊地和久)
5.青春の忘れもの
 作詞:水沢晶子 作曲:近藤 剛 編曲:菊地和久
6.あしたへ・・・
 作詞:水沢晶子 作曲:関口洋平 編曲:関口洋平
7.星降る夜のおとぎ話
 作詞:菊地和久 作曲:菊地和久 編曲:菊地和久

ミニアルバム『Sweet Sweet Sweetie』クレジットより

「タイトルの『Sweet Sweet Sweetie』は、「スウィーティー(Sweetie)」という服のブランドからとっているんです。本人が着ていたんですね。野間さんから言われて、それで行きましょうとなったんです」
――へえ。
「このミニアルバムはファンからは評判が悪かったですね。わりと当時の J-POPを意識して、いろんなパターンを取り入れて作ったんですが、その辺が気に入らない人がいっぱいいて、やめてくれって手紙とかももらっているんですよ」
――そうなんですか。
「もうMOOVe RECORDSは手を引いてくれみたいな」
――それは悲しいですね。アイドルファンはそれぞれ求めているイメージが強いので、イメチェンとか実験とかをするとわりあい評価が低かったりするんですね。
「そうですよね、水野さん本人もノッてないっていう感じはしていましたね。それで、このミニアルバムが4月に出た後に、次のシングルまでなぜずいぶん空いているかというと、98年って毎月何かしらリリースしていた状態なんです――声優の永野愛のデビューや、森下さんの2ndアルバム(『Splash!』)、五十嵐結花という子もタイアップ案件付きでデビューさせてますし、私の方もすごく忙しかったんですね」

最後に手がけた『秋風の午睡(シエスタ)』

11thシングル『秋風の午睡(シエスタ)』『せつない片想い』1998年9月5日

――次の『秋風の午睡(シエスタ)』はとてもいい曲だな、と個人的には思うんですが。
「このシングルで(MOOVe RECORDSとしては)最後と決めて作りました。このあとはやりませんと……ミニアルバム(『Sweet Sweet Sweetie』)がすごく評判が悪かったので」
――残念ですが、まあ、そうなりますよね。
「制作前に野間さんとどんな曲にするか?といった話をした記憶はあまりないのですが、表題曲の『秋風の午睡(シエスタ)』は今まで一緒にがんばってくれた関口(洋平)がいくつかアイディアを出してくれて、それを全面的に支持して出来上がった曲で、カップリング曲も含めて、このシングルは彼の力によるところが多い作品だと思います。
——たしかに、このシングルは丁寧に制作したんだろうな、との印象があります。
「MOOVe RECORDS時代の水野あおいの曲に関しては、最初に野間さんと ”今までと同じようなことはしない” という話をしたところから始めたんですが、それがあまり水野さん本人にも、それまでのファンにもウケていなかったということかと」
――うんうん。
「当時のファンの心情を慮ると、森下純菜のイメージが色濃くついたレーベルに先輩の水野あおいが入っていくことに拒否反応があったのかとも思います。たぶん当時は、野間さんも事務所の経営上の判断でウチに頼るしかなくて、そのようなファンの心情までは考えられなかったのではないかと……今になれば思います」
――でも、あの時点で1年間つないだというのは今から考えるとすごく大きかったと思います。
「(MOOVe RECORDSで)出していなかったら、ほかに(メジャー流通の)レコード契約は無いわけですし、それはそれで大変だったでしょうし……」
――次の1999年の楽曲や2000年ラストコンサートまでつないだという意義は大きかったと思います。少しきれいにまとめ過ぎかもしれませんが……(笑)
「実は、水野あおいさんの "復活" のときに、大山(文彦)先生から ”カラオケ音源” に関して協力要請などの話を受けたんですね。その際に、水野あおい楽曲のサブスクの話をしていたんですよ。MOOVe RECORDSで制作した音源全曲を再編して1枚のアルバムのような作品にしようと考えていたんです。ジャケ写もこんな感じにしようと思います、って送っていたんですが、それを進める前に大山先生が亡くなってしまって……
 最近でも、『ピンクのたんぽぽ』をリリース時には知らなかったけど見つけて聴いてみたらよかったとか、ミニアルバムのこの曲はすごい気に入っているとか、そういう話も聞いていたりするんですね」
――水野あおいさんの楽曲のサブスクの話はいいですね。今の人たちに広く聴いてもらうためにも、サブスクをぜひ実現してもらえるとありがたいです。


インタビューはさらに続きます。
『ホワイトバレンタイン』はここから聴けます!↓↓↓


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