接吻代行【毎週ショートショートnote《裏》】
娘は最近、妻が若いころの姿にそっくりになってきた。
妻というか、正確には「元」妻である。
別れてから、もう4年になる。娘が無事に二十歳を迎えるのを待って、私たちは離婚したのだった。
娘は妻と暮らしていたが、たまに私に会いに来てくれた。私は娘と食事をするのが唯一の楽しみになった。そんな4年間を過ごしてきた。
こういう年月がまだまだ続くだろうと思っていたのだが、どうやら終わりのようだ。私が身体に不調を感じたときには、もう手遅れだった。
私は、静かに死を待つだけになった。
人生に悔いはない。やることはやった。妻とは和解できなかったが、娘がいる。自慢の娘だ。
私が入院してから、娘はこれまで以上によく会いに来てくれるようになった。
脳の機能も衰えたのだろう。私は娘を妻だと錯覚するようになった。
時間と人に境目がなくなった。間もなく死ぬ。それがわかった。
もう、私に時間は無いようだ。元気に暮らしてくれ。妻にもありがとうと伝えてくれ。すまなかった、とも。
苦労して、それだけなんとか娘に伝えた。
すると、娘は私の唇に自分の唇を重ねたのである。
「ママからだよ。ごめんねって。」
完
(本文487字)
うむ。まあタイトル回収できたであろう!