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はちみつは【シロクマ文芸部】
はちみつは、初恋の味がする。
高校生だったころ。
学校の最寄り駅の喫茶店で、あたしはよく時間を過ごしたものだ。好きだった男の子と。
そこは、たぶん古くから営業している喫茶店で、あたしはそこのハニートーストを愛していた。
基本、ただトーストして切っただけの食パンだ。しかし───。
皿の端に、小さないちごを何粒かと、スプーン一杯くらいのブルーベリーと、生クリームをつけてくれる。そうして、プラスチックの容器に入った大きなはちみつを、どんっ、とテーブルに置いてくれるのである。
はちみつ、かけ放題。
トーストをはちみつまみれにして口に運ぶのが好きだった。痛いほどの甘味。
あっっっっま!!!!
好きな男の子を前にして、甘味に溺れかけていた時間は、あたしの人生の中でも最も幸せな瞬間のひとつだったに違いない。
結局、その男の子とは何の進展もなかった。
彼は紳士だったんだろう。どうしていいのかわからなかったのかも知れない。仮に、強引にキスでもされていたら、今ごろどうなっていたのかわからない。
あたしは来月結婚式を挙げる。
引き出物のサンプル写真にはちみつがあるのを見て、不意に、遠い昔を思い出したのだ。
完
はちみつはなかなか縁起が良いもののようですな。