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一夫多妻制はなぜダメなのか(1)

「少子化対策として一夫多妻制にしたら?」 なんて考えてませんよね?
 
日本の少子化は悪化するばかりです。国立社会保障・人口問題研究所は、2023年の日本人の出生数は72.6万人、5.8%の減少率と推計しています。出生数の減少のおもな原因は、結婚する人が減っていることです。
 
一般的に日本人は結婚しなければ子どもをもうけないので、少子化問題を解決するには、結婚する人を増やすための対策も他の対策とともに必要だと言われています。男女の出会いや恋愛をうながすサポートです。そんな中、インターネットを見ると、どれくらい真剣かはさておき、一夫多妻制にすれば少子化は止まるのでは?と考えている人もいることがわかります。
 
一夫多妻制は、少子化対策として、出生数を増やすという目標だけのためなら効果的かもしれません。実際に、世界で一夫多妻制が合法の国や社会は出生率が高いという統計があります。けれど、長期的な社会全体や個人への影響を考えれば、ダメなのは明らかです。わたしは社会学や人類学の専門家ではありませんが、結婚や家庭については結構まじめに考え、本も読んできた方だと思います。
 
そこで今回は、一夫多妻制なんて絶対ダメ!とわたしが考える理由を書こうと思います。「一夫多妻制にすれば?」なんて軽々しく、浅はかな発想が日本全般に広まらないことを願いつつ・・・。
 
まず、一夫多妻制の意味を確認しておきましょう。一夫多妻制とは、男性ひとりが複数の女性と同時に婚姻関係を結ぶことです。(一夫多妻制における法律婚と事実婚の区別の仕方がよくわからないので、この点については保留します。)
 
一夫多妻制を支持する人、また「悪くないんじゃないか」と考える人は、生物学的な比較をよくします。「動物界には一夫一妻制はほとんどない。動物であるヒトのオスはいつでも精子を作れるのに、ヒトのメスは月に一度しか排卵しない。しかも一生のうち妊娠できる時期が限られている。だから一夫一妻制は不自然だ」といった主張です。
 
人間は動物です。身体に関しては、生物学的な法則に支配されています。生きていくために、水や食料が必要です。わたしたちの誰もが、オスの体で作られた精子とメスの体で作られた卵子が一緒になった結果、存在しています。けれど、単に動物として生きていません。法治国家では、生物学的な法則だけでなく、ほとんどの人が法律にしたがって、さらには程度の差こそあれ慣習や礼儀作法を守りながら生きています。
 
動物界との比較は一見妥当なようで、実は間違ったアナロジーです。結婚は、それぞれの社会における文化的な慣習を起源とする法律上の制度です。一生で何人の相手と性交するかとか、生殖はどうなっているかといったことだけの問題ではありません。人間が文明を得て、できる限り平和に他者と共存し、社会を継続、繁栄させていくために時間をかけて作ってきたルールが関わっています。(時間をかけてできたルールだから変えてはいけないとは言っていません。それどころか、日本の婚姻制度には変えるべき点がいくつもあるとわたしは考えています。)
 
もうひとつ、一夫多妻制を支持する意見として、いまの日本ではお金持ち男性でなければ結婚して何人も子どもをもうけて余裕をもって育てられないのだから、富裕層の男性限定でもいいから一夫多妻制を許可して、少子化を食い止めるべきだ、というものもネットで読みました。
 
こういう意見の人は、「自分の経済力でなら複数の妻をもち、それぞれと子どもを2~3人もうけて育てられる。オレが日本の未来を救ってやる!」と思う裕福な男性でしょうか?それとも、「自分は結婚も子孫を残すことも諦めた・・・てか、興味ないんで。余裕のある男性には、自分の分までガンバって欲しい」と考える男性でしょうか?それとも、「普通の男性と結婚して家庭をもっても女のわたしの負担が増えるだけ。お金持ちの男性でなきゃ結婚したくない。超セレブ男性と結婚して楽できるなら、子どもも生むし、夫に私以外の妻がいてもいい」と考える独身女性でしょうか?
 
確かに、夫1人に妻1人というモノガミーよりも一夫多妻制の方が、多くの女性が(さまざまな意味で「優れた」)男性と結婚し、社会的地位と生活水準を上げることを可能にするという意見は昔からあります。このような目的で一夫多妻制が実践された例も、世界にはあったと思います(戦争などで男性人口が激減した後、未亡人と孤児の救済のためなど)。
 
同じことを反対側から見て、優秀な男性が子孫を数多く残すことになるので、社会全体が優秀になるという意見もあります。これって、優生思想ですよね?
 
でも、結婚市場で「優秀」とみなされる男性でも、さまざまな難病を引き起こす遺伝子をもっていることがあります。一夫多妻制を何世代が続けていると、近親婚の確率が高くなって、遺伝性の病気が特定の家系や地方に蔓延するなんてことにならないんでしょうか?そうならば、優生思想の立場から一夫多妻制を支持することはできません。
 
そんなことより何よりも、まずわたしが問いたいのは、いくら「優秀」で社会的地位の高い男性を夫にできるからといって、自由な社会に生きていながら、自分の夫を他の女性と、自分の子どもの父親を他の家族と共有することを心から望む女性が本当にいるんですか?ということです。
 
一夫多妻制の下で、夫を共有する女性間の競争や嫉妬、それに由来するストレスなどの問題は容易に想像できます。(これに反論する意見を読んだことがありますが、これについてはまた続編で・・・)
 
現実には、他の女性の夫、他の家庭の父親を「シェア」している、俗に「妾」とか「愛人」と呼ばれる女性とその子どもは昔から存在します。いつか結婚したいと思っている女性は、未来の夫が別の女性と並行して結婚し、他にも家族をもつことができるなら、それでも結婚したいでしょうか?やはり、自由な社会においては、たとえ一夫多妻制が許可されても一夫多妻の婚姻件数は増えず、少子化対策にもならないのではないでしょうか。
 
それとも、自由な社会に生きていながらも、諸事情から一夫多妻制でも結婚したい女性はいるのでしょうか?その場合、まず考えられるのは経済的な動機です。自由で社会福祉制度もある社会においても、「自分だけでは食べていけないし、いつまでも親に頼っていられないから、男性に養ってもらうしかない」と考える女性・・・。
 
けれど、そんな結婚には、男女間の平等はありません。
 
これが一夫多妻制がダメな、とくに女性にとってダメダメな第一の理由です。一夫多妻制は男女平等、男女同権の法則に反します。上記のように、おもに経済的な理由から女性が一夫多妻制を受け入れるとしたら、それは弱い立場からの選択です。(実際に、世界でこの制度がある国・社会では、女性の地位や自由度が低いことはよく知られています。これは「ニワトリが先か、卵が先か」の面もあるので、続編でもう少し詳しく書きます。)
 
女性が弱い立場から婚姻関係を結ぶなら、夫婦間の真の平等はありません。そんな婚姻関係で、女性の個人としての自由と尊厳が守られるでしょうか。これは、一夫一妻制で妻が専業主婦で、経済的には夫の収入に依存している場合と同じ・・・ではありません!収入がない妻でも、夫にとっての唯一の伴侶なら、一対一のパートナーシップですから、平等は成立します(心情的には、いろいろあったとしても・・・)。けれど、複数の妻がいて、その全員が弱い立場にある場合は、こうは行きません。妻の存在価値は、希薄化します。
 
経済的な理由から一夫多妻制を望む、あるいは妥協して受け入れる女性がいるなら、同じ理由から、強制的に結婚させられる女性が出てくるでしょう。
 
ここまでは、一夫多妻制がダメな理由を、女性に焦点を当てて書きました。続編では、他の点からダメな理由を書きます。

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続編…
一夫多妻制はなぜダメなのか(2)
一夫多妻制はなぜダメなのか(3)


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