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【第35号】脳神経から考える、歌による記憶する力の大きさ (2024/12/10)

図書館にあるDVDには思わぬ出会いがあります。
この『パーソナル・ソング』は「認知症を患う人とその人に馴染みのある曲」についてのドキュメンタリー映画です。
もう話がうまくできなかったり、家族のことが認識できなくなってしまったような認知症患者が、昔よく聞いていた懐かしい曲を聴いた途端に言葉が溢れるように話し始めたり、目を見開いて笑顔を見せたりと、驚くような反応を示すのです。それは脳の記憶のメカニズムにも大きく関係しているそうなのです。

Caregiver (介護士や家族)は認知症患者に刺激を与えるために話しかけますが、患者はうまく答えられません。言葉も出てこないし、目の前の人が誰だかわからない。caregiver自身も「何をどう話しかけたらいいのか」が難しいと思いました。もし自分だったら、、、想像しただけでも、コミュニケーションのきっかけ探しも難しいだろうし、認知症患者の立場でもそもそもの関係性も希薄な場合、応答するのは難しいだろうなあと感じます。しかし、音楽は「それ自体が会話のきっかけ」にもなるのです。患者が昔、聴いていたであろう懐メロの歌を流すと、一緒に歌い出したり、記憶を辿って、当時のことを細かく話し始めるのです。caregiverも「それは何歳の時だったの?」「その曲が流れていた時はどんなことがあったの?」と、「お互い心を通わせられる、共通の話題」ができていて、とても感銘を受けました。

弊社の英語プログラムJazzles®(ジャズルス)は、開発者Lesley Beth先生が、英語が話せない子どもでも、歌は能動的に参加する様子から発想を得て開発されたプログラムです。
「まだ英語は話せないけれど、歌だと流暢に歌える」
「会話の意思疎通はまだ難しいが、歌だとみんなと楽しく歌っている」
ABBAの “Thank You For the Music” 歌の中にもありますね。

Mother says I was a dancer before I could walk
She says I began to sing long before I could talk

ABBA “Thank You For The Music”

この映画では、脳神経学者や精神科医による「音楽と記憶に関する研究の解説」この音楽療法の効果について後押ししています。

音楽はすべての人が天から与えられた、脳の機能を活用するための発明品

音楽が人の記憶に強く残るのは、脳にどんな刺激を与えたのかに関係しています。
音楽が一番脳の広い領域を刺激するんだ。まるで脳の各領域の持つ様々な機能を活用するために生み出された発明品みたいだ。
聴覚だけでなく視覚にも関わるし、感情や小脳にある運動機能など、それら全てに関連している。音楽は運動と感情を司る脳の領域に刻まれるため、認知症によって忘れ去られることはないのです。」

映画『パーソナル・ソング』オリバー・サックス医学博士 脳神経医師、作家 DVD日本語字幕 より

オリバー・サックス博士のこの言葉は、認知症患者に限ったことではないので、音楽は、子どもたちの脳にとどまり続けてくれるということですね。

認知症患者には——本人が思い入れのある音楽を聴かせると効果的だ。覚醒と興奮をもたらすことで、患者の閉ざされた領域にアクセスすることができるの

映画『パーソナル・ソング』コニー・トメイノ博士 音楽神経機能研究所理事 DVD日本語字幕 より

心を通わせて子どもを観察

初等教育において、英語の読み書きをどう教えてあげるのが良いのか、英語圏の教育者間でもPhonics中心VS Whole Language中心の論争も巻き起こっていたそうです。しかし、答えは幼い子どもたちの様子が示してくれた、とレズリー先生は言います。
「歌の力で英語の読み書きを教えてあげれば、楽しく楽に覚えらる!」という答えにいきつきました。
上記のコニー・トメイノ博士は、認知症患者について「音楽が患者の閉ざされた領域にアクセスできる」とおっしゃっていましたが、まさに子どもたちにも同じことが言えると思いませんか。英語に限らず、言語習得のハードルが「歌を介して(ハードルが)下がる」のをこれまでもたくさん見てきました。

レズリー先生は元々幼稚園や低学年の国語(英語)の先生でもあります。ジャズルスの目的の一つは「英語言語の読み書き」なので、あえてリアルな英文(英文として完璧なセンテンスにした文という意味)の歌詞と子どもがマネしやすいキャッチーな曲とを組み合わせてA〜Zまで26曲作り、シドニーの公立小学校の自身のクラスルームや米国のESLクラスや特別支援学校、海外の英語クラス等で実践、評価されてきました。

歌を覚えながら同時に「歌詞を読む」ことで「文章(と単語)を読み進める」トレーニングも並行して行います。するとサイトワード(you, my, wouldなどの読み方が特殊な単語)もメロディにのせてなんなく読めるようになるのです。

また、歌詞の内容は「リアルなセンテンス」なので、ストーリー自体も楽しむことができ、かつ日常生活の「読む」場面でも前後理解や構文理解にも大いに役立ちます。もちろん、日本の中高生が学習する内容にも当たります!

多くの人も「歌の力を借りて英語学習」が可能

「認知症への音楽療法と英語学習」。たまたま借りた映画からこんなにまざまざと共通点とヒントとその答えを教えてもらえるとは思いませんでした。
私はミュージシャンとしても活動してるので、歌うことが英語学習に良い効果があることも、経験的に知ってはいます。14歳で帰国した後も、英語の歌が「無意識のうちに」私の英語力の維持&向上に大変大きく役立ちました。しかし、ジャズルスに出会うまでは、「私はミュージシャンにもなったほどだし、たまたま自分は人よりも音楽が好きで研究没頭していただけで『これは私1人の、ただの個別の事例でしかないのかも』」と思っていた時期も長かったのも事実です。センター試験以上の英語問題は苦手で、検定試験などはコンプレックスでした。いわゆる普通の英語学習は全然ダメで、単語帳や辞書、嫌いではないのに、いくらやっても全く覚えられないのです。自分で例文を作ってみても、記憶として全然定着しないのです。
でも、「不思議と歌だと何曲でも覚えられるなあ」。(歌詞の)前後のストーリーもまるッと記憶できるし、歌は、基本的には「メロディと歌詞は一対一対応」なので、助詞や前置詞が抜けたまま覚える、ということはないし、上記のABBAの歌詞にもありますが、三人称単数の-sも過去形も、Mother says I was やShe says I beganとメロディごと体に染み込むのです。

ジャズルスのレッスンは子どもたち自身に多くのメリットをもたらします。

  • 初めて歌ったその日から「センテンスが歌えて、読めて、意味がわかる」

  • 歌った分だけ記憶にとどまるので、忘れない

  • みんなで歌詞に合ったダンスを考えたり、歌を起点に「雑談」に発展するので、有意義で盛り上がる「雑談で上がった言葉(英単語)も記憶」「知的好奇心シェア⇨調べ学習」の時間が過ごせる

  • 「ジャズルスのあの歌、久しぶりにみんなで歌いたいな〜」と、昔学習した歌ももちろんしっかり覚えて歌える!(むしろ以前よりもしっかり認識できる単語が増えて、子どもの喜びにつながるんです)


なお、こちらの映画は原題 ”Alive Inside” です。YouTubeに全編あるので、ぜひご覧ください。
設定から「字幕⇨自動翻訳で日本語選択」で日本語字幕でも見られます。そしてぜひご家族や友人と「大好きで、懐かしい歌や音楽は何?」と話し合ってください。私も息子に「ママが認知症になってしまったら、ジャズルス流してね」と伝え済です。
なお、映画内ではmusic therapyと言っていたり、日本語訳も「音楽療法」と表記されていたので、この記事では「音楽療法」とさせていただきました。こちらのnoteでもこの映画について述べられているのと、音楽療法の定義を記載しているサイトにも飛べます。

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