プカプカ
ぼくがタバコを吸い始めたのは40歳過ぎてからだった。
中高生の頃は、ともだちが吸っていても「大人ぶっていてカッコわるい」と思っていた。
家では、父がタバコを吸っていた。いつも換気扇の下に立って吸っていたので、匂いはあまり気にならなかった。
しかし、外に出て街へ出たりするとタバコや香水のきつい匂いを嗅ぐと頭が痛くなったので、化学物質過敏症なのだと思っていた。
父は肺がんが原因で亡くなったのだが、担当医の話ではタバコはあまり関係ない部類の肺がんだと教えられた。なので、タバコを吸っていなくても肺がんにはなるのだと知った。
ただ、父が亡くなってしばらくは、バイトの帰り道に父と同じ銘柄のタバコを吸って帰っていた時期もあったが、しばらくしてそれもしなくなっていった。
それからはタバコとは縁のない生活をしばらく過ごしていたが、30代の終わり頃に付き合っていた彼女が喫煙者だった。
どこかへ遊びに行っても、喫煙所を見かけると「ちょっと行って来ていい?」と言うので、「タバコなんてやめなよ」といつも言っていた。
そんなぼくがタバコを吸い始めるとは正直思ってもいなかった。
何がきっかけだったかと聞かれれば「緩やかな自殺」だと答えるのがいちばんしっくりくる。
うつ病になって、いわゆる「希死念慮」の一つとしての喫煙なのだ。
父が亡くなったのが54歳。ぼくがその歳になるまであと10数年という頃に、何においてもぼくは父を越えることはできないのであろうと思っていた。
父は25歳で結婚をした。そして30歳の時にぼくが生まれ、33歳で妹が生まれた。その数年後に脱サラをしてフリーランスで仕事をしてきた。そして子ども二人を大学にまでやって、妹の卒業を見る前に54歳であの世へ旅立った。
なのでぼくの人生は54歳になる前に終わるのだろうと思っていた。
54歳。27クラブのちょうど2倍。
自分がタバコを吸うようになっても、喫煙所や喫煙可能な店などでは今でもたまに頭が痛くなる。必ずと言うわけではないので、本当は化学物質過敏症ではないのかもしれない。
でも、臭いがつくのが嫌なので家ではPloomXを吸っている。IQOSは何度か試したけれどあの独特の加熱された吸い心地が合わなかった。しかし、PloomXを試してみたらCAMELのMENTHOL YELLOWならおいしく吸えたので、こればっかりになっている。
54歳まであと数年。人生なんてどうなるかわからない。母より先に死んでしまうのは申し訳ないと言う思いはあるが、越えられなければ「やっぱりな」と思うし、越えてしまったらそれはそれで残りの人生を生きていくしかない。
今更足掻いたって仕方ない。流れに乗ってやって行くだけだ。
おれのあん娘はタバコが好きで
いつも プカ プカ プカ
体に悪いからやめなって言っても
いつも プカ プカ プカ
遠い空から降ってくるって言う
「幸せ」ってやつがあたいにわかるまで
あたいタバコやめないわ
プカ プカ プカ プカ プカ
「プカプカ」西岡恭蔵