肩書きだけ立派な中途採用職員
介護施設で管理者(施設長)をしていた時は、管理者業務はほぼ自分一人でやるので、やるべきことと期限さえ把握していれば、どれから始めようが、その期限内に終わらせることができれば何の問題は無かった。時間の使い方も自分で決めることができたので、フリーランスなどの個人で仕事をしている人と同じような感じかもしれない。なので、うつを発症したり睡眠障害になったりはしたが、仕事としては自分に合っていたのかもしれない。
しかし、会社にいる限り、同じ仕事ばかりずっと続けていけるとは限らない。特に、万年人材不足の介護業界の中でも、地方でそこそこの大きさの規模で複数の施設を運営していれば、会社としてはそれぞれの施設のバランスを考えるのは当然なことだ。適任者がいようといなかろうと、人員配置基準で定められた役職者を置かなければ、介護報酬が減算されるか請求すらできないことになる。収益のほとんどを介護報酬に頼らざるを得ない介護業界では死活問題だ。
なので、介護職員の入れ替わりが激しいのと同様、役職者の配置換えも頻繁に起こることとなる。
ぼくは幸運にも、五年弱の間、同じ施設で管理者をできていたが、やはり配置換えはやってくる。そこで、NOと言えるわけもなく、渋々受け入れるしかない。
そこから、完全にぼくの歯車は狂ってしまった。
結局それから二年後、その会社を辞めることとなる。
介護業界にいれば、転職回数の多さはもちろんネックになるが、それ以上にどこも人材不足である。まがりなりにも国家資格を持っており、介護業界で十年以上の経験があり、役職経験者である。自分で言うのもおこがましいが、よほどの大手でなければ、まず断られることはない。
しかし、物事はそう都合良くは動いてくれなかった。転職しても行く先々で何かしらの不都合が起こった。
それは、ぼく自身のおごりやプライドが邪魔した部分が多少なりとも影響しているのであろうが、やはりそれぞれの職場が抱える問題点が目についてしまう。人間関係の悪さ、介護技術レベルの低さ、業務内容の非効率さ、事務方と現場の意思疎通の悪さなどなど。
そこで、出来る人であれば、いろいろ提案して改善を進めていくということができるのだろうが、あいにくぼくにはそのような積極性も、周囲を納得させるだけのプレゼン能力も持ち合わせてはいない。気づいていても言い出せない。言い出せない気持ちがモヤモヤとなって自分の心に重くのしかかってくる。
「出る杭は打たれる」学生時代に身に染みて感じたことが、トラウマになってしまっていいる。
しかし、あからさまに不満げな態度をとるようなことはもちろんしない。ただ、教えられた業務を黙々とこなしていくだけだ。しかし、自分から進んで周囲に打ち解けていけるような性分ではないので、話しかけられなければただ黙っているだけになってしまう。物覚えが悪いから、何度も同じ質問をしてしまうことも多々あり、他の職員の名前を覚えるのも遅い。そんなことが重なって、ぼくの評判は悪くなる一方だった。
そのうち、大切な連絡事をぼくにだけ教えてくれない。間違った業務をしていても指摘してくれない。同じ事務所内にいても直接話しをしてもらえずメールで業務の不備を指摘してくる。など、
「郷にいれば郷に従え」それができないのであれば、そこから出ていくしかない。年下の先輩や上司から、陰口・イヤミを言われながら耐えて働けるメンタルは持ち合わせていない。期待されて入社された分、入ってきたと思ったら、物覚えが悪くおどおどして、積極性が感じられないのであれば、ぼくだって期待外れだったなと思うだろう。
発達障害のぼくがちょっとくらいの経歴を持って、同業他社への転職を試みると、かえって足枷になってしまうことが身に沁みて分かった。
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