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自称「海外慣れしている」Yとのシドニー地獄巡り

日本から友人のYが遊びに来た。彼女は「海外生活が長い」「ヨーロピアンの接客を経験済み」「上品で洗練された大人の女性」(※すべて自称)という肩書きを持つ。だが、英語力は中学生レベルで、重要な話を聞き逃しても謎の「ノリ」で会話を成立させる不思議なスキルの持ち主だ。そしてその「自称」が今回、木っ端みじんに砕け散ることとなる。

そんなYが、友人Pを連れてやってきた。二人は某イベントのためにシドニーを訪れたらしい。空港で偶然別の知り合いに会い、都心までUBERの相乗りを提案したところ、3人目、4人目の知人まで加わり、相乗りすることになったとか。しかし、行き先が別々のため、UBERの中継地点や目的地追加の操作をYが引き受けることに。悪戦苦闘する彼女をよそに、後部座席では「シドニーでこれやりたい!あれやりたい!」と盛り上がる3人。Yは「住所を入れろと頼んでも、携帯を脇に置いて話してばかり!」と激怒したそうだ。
うん、それは確かに大変だったことだろう。

が、

なんてことない。
Yはそれ以上のことをワタクシに押し付けることになる。


「ブルーマウンテンに行きたい」と言うけれど…

シドニーに来る数日前、Yは「ブルーマウンテンに行きたい」と言い出した。でも、10歩も歩けば「疲れた」と言う彼女が登山をするわけがない。「それなら街やリゾート地で他の観光地はどう?」と提案しても、「だってあそこはパワースポットだから」とフワフワした理由を並べるばかり。直接会って確認してみると、衝撃の一言。

「私じゃなくて、Pが行きたがってるのよ。私はどっちでもいいけど、ジェイから聞いてみて?」

いや、自分で聞けよ。と思いつつ、Pに尋ねると「うーん、でも行ってみたい…」とこちらもフワッとした回答を受け取る。

わかった。ブルーマウンテンのパワースポット巡りね。それはそれは割とキツイトレールであるが「なんか初心者用と上級者用と~とか3つくらいあるって聞いたんだけど」などといっていたので、なるべく初級者でも行きやすい登山コースをと考えていた。


遅刻から始まるブルーマウンテン大作戦
翌朝、ホテルから徒歩3分の駅に9時集合。時間厳守。電車は9時13分だったが、これを逃せば電車は1時間待ちだ。Yがワタクシとの待ち合わせで時間通りに来たためしはない。最速でも30分は待たされ、通常1時間から2時間は待たされるが、「行きたい」と息を巻いているからには色々調べていると信じ、更にホテルから徒歩3分の場所を待ち合わせにしたため大丈夫だろうと…20%くらいは思っていた。

ワタクシは念のため8時45分に到着。結果?案の定、9時15分に「今どこ?」と電話が来る。ええ、電車はとっくに発車しましたとも。
理由は尋ねてはいないが、自らYは「Pがトイレから戻らない」と言い、Pは「Yがコーヒーを待ってたから大丈夫だと思った」と言う。どっちでもいい。どちらも時間を守る気がなかっただけだ。


電車内での事件:静寂を破る日本人コンビ
電車に乗れば、YとPはテンションマックス。海外旅行だし、わかるよ。でも、声がデカい。 これは日本人として、恥ずかしいレベル。注意しようかどうか悩んでいたら、近くの優しいおじいさんが「この車両は静かにすべき車両だから」と注意をしてくれた。その瞬間、私は「うわ…現地の人に迷惑かけてしまった」といたたたたたたたたまれない気持ちに。咄嗟に先陣を切って平謝り。背もたれからも状態を起こし丁寧に謝りましたとも。しかし二人Yの反応は違った。まずリアクションなし。返事もなければ謝罪もなし。ぽかんとしており、おじいさんが去っていくと「今のおじいさん、ひげモジャモジャだったし、きっと変な人なんだよ」とつぶやくY。変なのはお前らだ。しかも注意をされてなお、携帯のスピーカーでBGMを確認しながらインスタの投稿用の音楽を編集し始める始末。ああ、地球よ、ワタクシを飲み込んでくれ。


登山ではなく「展望台とケーブルカー」
画して山の最寄り駅に到着したワタクシ達。しかし、Pは電車の中で20分に1回化粧を直していたし、全く持って登山には不向きな格好をしている。そして突然「ケーブルカーに乗りたい」と言い出す。あれ?パワースポット巡りじゃなかったの?登山の話はどこへ行った?結局、彼女たちの目的地をよくよく確認してみると、ふんわりした回答しかしなく、明確に答えないものの、速い話が「スリーシスターズ」と「ケーブルカー」だった。その場合、下車駅が異なるため、慌てて時刻表を調べ直すワタクシ。そんなことお構いなしに写真を撮り続ける二人。逆のホームへの誘導を促すも無視して写真を撮り続ける始末である。トイレの前で。トイレに入ろうとする女性客が気まずそうにタイミングを見計らい、「ねぇそこトイレだからやめな」というも、お構いなしで撮影続行。皆さん、どうだろうか、自分がトイレで要を達している間に見ず知らずの他人にトイレの前を張られるのは。

やっとの思いで別の駅にたどり着き、観光デスクでプランを決めようとしたら、YとPは店員の話をガン無視して店内のデコレーションに夢中。仕方なく私が店員と話し合いチケットを決定。15分後のバスに乗るため、急いでバス停へ向かった矢先、Yが一言。

「ねぇ、おなかすいた」

…おなかがすいているのは朝食抜きのワタクシの方だ。遅刻してでもホテルのビュッフェを堪能してきたあなたたちではない。

近くのカフェでパンとコーヒーを買おうと提案したら、Yはメニューをじっくり眺め、まさかの「調理メニュー」を選び出す。店員が「10~15分かかる」と言うのを聞き、私は急いで割って入る。「時間がないからここに置いてあるパンにしようね!」
バスを逃せば次は50分後。彼女の優雅さを優先している場合ではない。

そんなこんなで、スリーシスターズが一望できる展望台へたどり着くワタクシ達。
しかし、Yの開口一言目がこれ。

「うわー…私、山とか全然興味ないから、全然良さがわからない。」

…くたばれ。
心の中でそう呟いた。このセリフだけは絶対に連れて来てもらった人には言っていけない言葉だろう。

その後、絶景ポイントを陣取ってから、セルフィースティックをセッティングし始めるY。なぜそこでセッティングを始める。そこは写真を撮ったら次の人へ明け渡すべき場所…。他の観光客が困惑しているのにお構いなし。そして、満面の笑みでインスタ用の写真を撮りまくる。

「これが有名なところ?全然何も感じないわ」と言い放つ彼女に「パワーが強いのはあっちの方」と指さすと、今まで一切見向きもしなかったくせに「あぁ、あっちの方は分かるわ。見えるもの。」と、にわかにスピリチュアリストになるY。一体何が見えるのだというのだろう。

その後、ケーブルカーに乗り込み谷底へ。そこには大勢の観光客がいて、当然ながら賑やかな雰囲気。するとYが突然、「私こういうの大嫌いなの!今のうちにさっさと進もう!」と急ぎ足で列を抜けていく。ワイワイしている人混みを楽しむPと、そんな二人の間で板挟みになるワタクシ。
小走りしながらYが言うには、「人混みの中で写真を撮るとか、我先にとポジションを奪い合うのが本当に嫌い」とのこと。

さっき自分が絶景スポットを独占し、セルフィースティックをセッティングし、他の観光客を困惑させていたのを忘れたのだろうか?あの時、周りの人がどんな顔をしていたか…むしろ単に「他人に嫌な顔されるからいやだ」とかいってるのだろうか?
いや、むしろその行為を忘れられるメンタルの強さに感心するべきなのかもしれない。ここまで徹底して自分の都合だけで動ける人間は、ある意味潔い。


帰りの地獄
帰りも電車を数秒差で逃し、1時間の待機を食らったワタクシ達。
郊外も郊外の山奥であることもあり、駅のホームにはオウムが舞い降り始めた。あまりにも驚き、伝えるもYはスマホに夢中で一切耳を貸さず。念のため3回は伝えるもガン無視だったので、興味がないのかとほおっておいたワタクシ。

そんな折、突然、Yがイヤフォンなしでスピーカーを使い、周囲を全く気にせずビデオ通話を開始した。相手の声は丸聞こえで、電子音特有のキンキンした音が響き渡る。周りには人もいるし、公共の場でそういうことは控えてほしいのだが、そんな配慮は一切ない。ワタクシがもっとも嫌う公共マナー違反だ。それも、20分近くも続けるのだから驚きだ。もちろん、個人的な通話をするなと言っているわけではない。イヤフォンを使うとか、少し離れた場所に行くとか、最低限の配慮をしてくれればいいだけの話だ。けれど、彼女にはその発想がないらしい。その間、同じ空間にいるワタクシは、時間を共有するものとして、ただただ時間を奪われている気分になる。

さらに、疲れ切った私に追い打ちをかけるように、Yは「あ、こちら私のシドニーの友達」と無神経にカメラを向けてくる。できればこんな疲労困憊の状態で知り合いに顔を見せたくないのだが、彼女にはその気遣いもないらしい。自分が楽しんでいる事=回りも楽しんでいることだと思っているのだろう。

…と思ったら、突然「あああ!!!オウムだ!ねぇジェイ、オウムがいる!ねぇ、写真撮ってよ!早く!」と大騒ぎし始める。しかも、ビデオ通話中に。

いや、さっき私が「オウムがいるよ」と教えたよね?それを無視しておいて、今さら大発見みたいに騒ぎ立てるあたり、彼女の自己中心ぶりには感服する。どうやらYの世界には、自分以外の人間は存在していないらしい。


とどめに
やっとのことで電車に乗り込んだワタクシ達。Yが「これホテル着くの9時頃になるよね?」と不満げに呟く。どうやらその後、オンラインでイベントを催す予定があるらしい。一方、Pは「私たち、まだ海見てないよね」との発言。
…6時間ですむところ、ロスタイムをふくめ、往復で8時間もかけて山に行きたいと言い出したのは誰だったのか?オペラハウスやビーチは見なくてもいいのかと尋ねたのはワタクシである。それに対して「山がいい」と答えたのも彼女たちではなかったか?
もちろん、不慣れな海外で右も左も分からないのは仕方ない。だが、せめて「どこに行きたいのか」「何をしたいのか」は自分たちで定めてほしい。だだっ広い山脈を指して「山に行きたい」と言われても、目的が分からなければアプローチも全く違うし、スタート地点からして変わるのだ。
それに、行きたい割に行き方も調べず、私に全て任せきり。それどころか、「ウーバーの手配を全て任せるなんて信じられない」と憤慨していた人が、結局1日丸ごとツアーを私に押し付けているのだから言葉を失う。さらに、マナーを守らず、周囲の客に迷惑をかけ続ける彼女の振る舞いは、現地に住む日本人として非常に気分が悪い。日本人の品位をこれでもかというほど損なわせる行動の数々に、思わずため息が出る。

翌日も状況は変わらない。某ブティック店に立ち寄った際、二人は商品を見て「高すぎて全然手が届かない」と分かると、突然店内のデコレーションを見て写真を撮り始める。ワタクシは「もはや同行者だと思われたくない」と店を出たが、しばらくしても二人が出てこないので恐る恐る中を覗くと、なんと店員に写真を撮らせていた。
商品を物色し、ひたすら写真を撮らせた挙げ句、何も買わずに立ち去る二人。その後も店員は最後まで最高の笑顔で接客をしてくれていたが、どうかこれを「一般的な日本人の姿」だと思わないでほしいと、ただただ願うばかりだった。


「だから日本人の観光客なんて嫌いよ」
そう言い放つYは、翌日、日本人ばかりが集まるクルーズ船へと向かっていった。そしてほどなくしてメッセージが届く。

「私、日本人アレルギーだわ…この人たち、イェーイ!しか言わない。マナーも悪いし、海外での振る舞いがなってない。ほんと同じ日本人だと思われたくない。」

いやいや、あなたのスピーカービデオ通話や絶景スポット独占、時間を守らない振る舞いはどうだった?そもそも、ワタクシが一日中、回りの観光客や店員、現地の人達に平謝りしていたのは誰のせいなのか。

仕事に戻ったワタクシ、Yのメッセージを読み、ふと窓の外を見ると、シドニーの夜景が静かに輝いていた。こんな美しい街で、日本人の品位を下げる振る舞いをする人…にすら貶まされる人たちが今夜、この街を賑わしているのかと思うと…と、仕事の山と昨日の出来事にそっとため息をつくワタクシ。

結局、Yにとって「嫌いな日本人」とは、他でもない彼女自身のことなのかもしれない。

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