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ホンダとテスラに見る「なぜ」の重要性
先日、いつも大変お世話になっている有名な自動車ジャーナリストのSさんとお話しする機会がありました。Sさんは、自動車業界に関する深い知見を持つだけでなく、幅広い視野と本質を見抜く鋭い洞察力を備えた方だと感じました。
今回の対話では、Sさんよりホンダの企業精神・哲学の根幹をなす「A00」についてご説明いただきました。さらに、「A00」の思想がホンダだけでなく、「米軍」「テスラ」「イーロン・マスク」とも共通しており、「私たちは何のためにこのビジネスをしているのか」という問いを基盤とした企業精神・哲学の重要性についてもお話しいただき、さまざまな議論を交わしました。その内容は非常に「深イイ話」で、いつか・どこかで・誰かに話したいと思い、メモとして残しておきます。
「A00」について
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ホンダの「A00」は、米軍の任務指令書に由来する概念であると伺ったため、帰宅後に米軍の「A00」について調べました。米軍の任務指令書では、最初に「A00(Mission Statement)」が記載されます。これは、具体的な作戦計画や戦術を記述する前に、「その任務がなぜ必要なのか」「何を達成するのか」を明確化するための記述です。「A00」は単に目的を示すだけでなく、任務に携わる全員に共通の理解をもたらし一体感を生む役割を果たします。
この思想は、「How(どうやって)」や「What(何を)」よりも先に「Why(なぜ)」を重視する点に特徴があります。例えば、戦闘という行動(What)は、いくら敵とは言え、他人の命を奪うという重い罪悪感を伴う行為ですが、その背後に「この国を守るため」「子供たちの未来を守るため」という大義(Why)があることで、その行動は意義深いものとなります。「A00」の本質は、このように行動の背後にある価値や目的を明確化し、組織全体の一致団結を促す点にあるのです。
ホンダの「A00」
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米軍の「A00」がどのような経緯でホンダに伝わり、ホンダがビジネスを行う根幹として「A00」を重視するようになったのかは定かではありません。しかし、創業者の本田宗一郎さんの時代から現在まで、ホンダの「A00」の思想は製品開発のみならず、組織全体の行動指針として深く根付いています。
例えば、環境への配慮も「A00」の延長線上にあると言えるでしょう。ホンダは「ブルースカイ・フォー・アワーチルドレン(Blue Skies for Our Children)」というビジョンを掲げ、地球温暖化やエネルギー問題に真剣に取り組み、環境負荷を最小限に抑える技術開発を続けています。この取り組みは、「人を中心に据える」という哲学の具体的な表れでもあります。
さらに、ホンダは製品を通じた「体験」や「つながり」を大切にしています。例えば、オートバイに乗る喜びや車を通じて家族と過ごす思い出など、ホンダは単に「モビリティを提供する企業」ではなく、「人々の生活をより豊かにするパートナー」であることを目指しているのです。
テスラの「A00」
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Sさんは、テスラにも「A00」の思想に通じる哲学があると推測されていました。テスラの社名は、交流電気の発明者であるニコラ・テスラ(Nikola Tesla)に由来しています。
ニコラ・テスラは、従来の直流電気(DC)に代わり、交流電気(AC)を活用するシステムを開発した人物です。この発明は、電力を遠方まで効率的に送電することを可能にし、電気が限られた一部の人々のものでなく、より多くの人々に普及するきっかけを作りました。
エジソンが推進していた直流電気は、電力を送る距離が短いという制約があり、発電所を頻繁に設置する必要がありました。これに対し、テスラが提唱した交流電気は、高電圧で電力を遠方まで送ることが可能であり、送電ロスも少なかったため、インフラの効率化とコスト削減を実現しました。こうした技術革新により、地方や都市部の区別なく、広い地域に電気を届けることができるようになり、「電力の民衆化」が進んだのです。
現代の教科書にはエジソンの功績は多く記されていますが、ニコラ・テスラの存在やその技術的な革新については十分に触れられていないことが多いです。このような背景を考えると、テスラの社名には、技術革新や正当に評価されるべき思想への敬意が込められているのではないかと感じられます。
イーロン・マスクの「A00」
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テスラは、イーロン・マスクが創業したと誤解されることが多いですが、実際には2003年にマーティン・エバーハードとマーク・ターペニングによって設立されました。その後、2004年にイーロン・マスクがシリーズAラウンドでテスラに投資し、同社の取締役会長に就任しました。
イーロン・マスク自身がテスラという社名を決めたわけではありませんが、テスラの企業理念や哲学、いわば「テスラのA00」に深く共感していたのは間違いないと思います。彼は、自らのビジョンを実現するため、PayPalを売却して得た資金の一部をテスラに投資しました。この大胆な決断により、テスラは電動化を推進する企業としてさらに飛躍する基盤を築くことができたのです。
イーロン・マスクが率いるテスラは、再生可能エネルギーの普及や電動化を推進し、人類の持続可能な未来を目指しています。この企業哲学には、「A00」に通じる「Why」の思想が色濃く反映されているといえます。Sさんがご自分の推測との前提で仰ったのは、マスクがテスラに投資しEV革命を起こした背景には、彼が南アフリカ出身であることが関係している可能性があるとのことです。
南アフリカは、かつてアパルトヘイト政策の影響で、国際社会から厳しい経済制裁を受けていました。その中には、石油の輸出規制も含まれていました。20世紀、人類は石油を通じて技術的に飛躍的な進歩を遂げましたが、一方で石油が政治や外交の武器として利用され、多くの戦争の原因となったことや、環境破壊やさまざまな社会問題を引き起こしていることにも気づかされました。
イーロン・マスクは、こうした背景を肌で感じてきたことで、「エネルギーのあり方」そのものを見直す必要性を強く感じていたと思います。彼が目指したのは、単なる「電気の民衆化」にとどまらず、「エネルギーそのものの民衆化」、すなわち誰もが環境負荷を抑えながら自由にエネルギーを利用できる未来を創ることだったのかもしれません。
以前、テスラのグローバル副社長であるグレース・タオさんの講演会に参加した際、彼女が講演の冒頭で最初にこう語ったのが印象的でした。
「テスラは電気自動車メーカーではありません。エネルギーマネジメントの会社です。電気自動車は、そのエネルギーマネジメントのための一つのツールに過ぎません。」
自分の「A00」
Sさんとの会話を通じて、企業は単なる利益追求の組織ではなく、社会に広く貢献すべき存在であり、そのためには企業精神や哲学を基盤としてビジネスを展開することの重要性を改めて感じました。企業精神は、会社の意義や方向性を明確にするだけでなく、働く人々に共通の目標を与え、組織としての団結を生む役割を果たしていると思います。
ちなみに、「会社」という言葉は、明治時代に英語の"Company"を訳したものです。"Company"の語源はラテン語のCom-(ともに)とPanis(パン)に由来し、「ともにパンを分かち合って食べる人たち」という意味があります。つまり、"Company"は同じ理念や哲学を共有し、共通の目標に向かう人々の集まりを指す言葉です。
なぜ"Company"が「会社」と訳されたのかははっきりしていませんが、この訳語には深い意味が込められているように思います。「会」は人々が集まることを表し、「社」はもともと「祭礼」や「神を祀る場所」を意味します。この二つを組み合わせた「会社」という言葉は、同じ理念や目標を持つ人々が集まり、共に祈りや意識を共有する場所、あるいは組織として解釈できるのではないでしょうか(あくまで私の想像による解釈ですが)。この背景を考えると、企業精神や哲学を共有することの重要性がさらに際立って感じられます。
私自身も、仕事や日常生活の中で「A00」のような考え方を取り入れたいと思うようになりました。一介のサラリーマンではありますが、自分の仕事が人々の生活にどのような影響を与えているのかを常に意識し、それを考えながら行動することの大切さを改めて実感しています。